〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第3章
第52話  【FORUTNE】

 誓い
それは、固い約束。
それは、繋ぐ鎖。
どんな困難に遭い、引き裂かれようとも。
どんな危機に陥り、闇に落とされようとも。
決して揺らぐ事の無い、愛の契。
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―フィゲル・ギルドアジト―
 カーンッ……カーンッ……━━━━
真夏を髣髴とさせる綺麗で巨大な積乱雲、そして大海原を思わせる晴天が空に広がっている。
何処までも続く、地平線、水平線の遥か向こうまで続くその景色は、全てを忘れさせてくれる至福の時間を演出していた。
教会の鐘の音は、朝にも関わらず大きく、何かを知らせる様に、この空の下どこまでも響いていく。



 カシャン……━━━
部屋の片隅にあるクローゼットから、ハンガーに掛けられた洗練された黒いスーツを手に取り眺めた。
色、形、共に燕尾服に近いそれは、男性の夜の礼服の一つとされているもの。
それを手に取ると同時に、それはある時が近づいている事を意味し、彼に実感させていた。

「さて……と……」

男は、一角にあるテーブルの引き出しから何かを取り出し部屋を足早に後にした。
何かが確かにそこに在った事が分かるほどに、そこには唯、温もりと呼べるものが漂っていた。
ギィッ……━━━
「おう、準備はできたか?」
部屋を出れば、迎えてくれたのは煙草を吹かしているルーシー。
いつもと変わらない服装に雰囲気、唯、笑みだけが違っていた。
「ああ、待たせて悪いな」
視線に気付いたのか、ルーシーは咥えていた煙草を指に取り呟いた。
「―――ああ、これか。めでたい時だけな、吸う事にしてんだわ」
その笑みは、いつものそれとは違い、屈託の無い少年の無邪気なそれだった。
見たことはある。が、彼がこの表情を浮かべる事はそうないのである。
「さんきゅーな」
その笑みは、彼からの惜しみない愛情と友情の証。
「お互い様だ」
そう言うと、ルーシーは煙草を咥え、廊下を嬉しそうに歩き出した。
ラクティヴもまた、今日というこの日を、親友の祝福を受け止め歩き出した。



 コンコンッ……━━━
軽く叩かれたその音は、どこか軽快なステップが刻まれていた。
叩かれたドアはギルドのものとは違い、職人技が見て取れる豪勢な光沢のある扉。
ノックの音もどこか硬質で甲高い、どこか格調高いものに聞こえなくも無い。
「フィオナー、準備できたー?」
何かを待ち、楽しむかのようにして、ドアをノックする女は尋ねた。
「もうそろそろだから、んっ……アンジェ、これきつすぎない……?」
キュッ……━━━
フィオナが言い返すと同時に、声が少し悶え震え、それを任せている彼女に問う。
「ウエディングドレスなんてどれもこんなもんなんだから、文句言わないで着れるだけ幸せだと思いな〜?」
アンジェの言うとおり、彼女が身に纏うは純白のドレス。
グローブ、パンプス、トレーン、全てが白に染め上げられ、露出する肌もまた妖艶な輝きを放っている。
本来、白いヴェールとドレスは処女のみ着用が許されているが、それはあくまで処女性と従順の象徴であるが故に、拘らなくてもよいとのこと。
「どう?今の心境は?」
おちょくりながらも、目の前の大きな鏡に映る友人の嬉しそうな表情にそれを聞かずには入られなかった。
それほど、フィオナの笑みは嬉々としたものがあり、周りに幸せを振りまくではなく、幸せにするほどのものがあった。
「んー……何だか、まだ信じられなくて……夢を見てるみたい?」
フィオナは嬉しそうな表情で何度もドレスを見回し、アンジェへと振り返りながらも、疑問と確信じみた言葉を綴る。
そんな曖昧な表現をする彼女に、アンジェも負けず劣らず嬉しそうな笑顔で応えた。
共に生活しているとはいえ、これだけの笑顔を、感情を、表に出していることはそうあることではない。故に、彼女の芯が仲間達に打ち明けられた瞬間でもある。
「今に夢じゃないって事がわかるよ」
そう言いながら、アンジェは最後の紐を締めた。
「フィオナー、もういいー?まだー?」
扉の向こうで、ヒナたちが待ち草臥れ、急かす声が彼女の背中を後押しする。
とはいっても、どちらかと言えば後押しではなく、強引にである。
「よし……っと、それじゃー……いこっか?」
アンジェはくすっと笑みを浮かべて、正真正銘、フィオナの背中を後押しした。
笑みと同時に最後の一後押しをしたのは、あの人に買って貰った大切なティアラ。

「うん……っ!」

少女の様な幼い微笑みを顔一面に携えて、彼女は扉を開いた。
ギィッ………━━━





―フィゲル・シエラ教会―
 カーンッ……カーンッ……━━━
教会の礼拝堂の奥へと続く赤いカーペット、両側に並ぶ長椅子、それに座るセネルたちギルドメンバー、フィゲルの人々。
そして礼拝堂が最奥部の聖壇には、見事にアークビショップの法衣を纏ったルーシーが立つ。
鐘の音とパイプオルガンの流麗なる演奏を背景に、彼らは皆、主役が現れるのを今か今かと待ち侘びていた。


「なんか、ルーシーやけに無口だな」
最前の三列を特別にギルド席とし、座っていたセネルがつまらなさそうに口を開いた。
目的が大きければ大きい獲物ほど、待つ時間もそれに等しく退屈が増していくものと相場は決まっている。
「そりゃ………結婚式って言ったって聖職者にとっては儀式みたいなもんですし、街のみんなだっていますし。変なことできないですよ」
バルジが苦笑の微笑みを浮かべながら、ルーシーと周りに座るたくさんの人たちを一瞥した。
隠しているわけでもないが、当然街の人たちは彼らの裏の裏まで知っているわけではなく、真面目だと思っている人も多いだろう。
故に、期待を裏切らない事も含めてのそれだった。

「それにしても……遅いな〜〜……二人とも」
アズサが肩に乗るティーズと足元で啼くラルフを愛子ながら呟く。
何度も後ろを振り向いたり、落ち着かない素振りをする彼女もどこか幼く映る。
「まぁ着付けも全部自分達でやってるんだし、これくらいじゃないですか?」
ユーナはそう言いながら隣に座るアズサらを宥め、ティーズやラルフたちとじゃれている。
「アタシもドレス着たいなー」
教会の雰囲気を肌で感じ、アリス自身が脳内で創り上げた華やかなドレス姿を浮かばせれば。
「結婚する気も無いくせに、よく言うよお姉ちゃんったら……」
姉の性格を熟知しているユニーがぼそっと呟き想像をあっさりと宙に飛散させた。

「ルーシー、ラクとフィオナが来るぜ」
聖壇に向う3人の少年少女が言えば、時は静寂を迎える。
ルーシーは詠んでいただろう聖書を聖壇に置き、溜息を一つ吐いた。
「皆様お静かに、時間を過ぎてしまいました事を深くお詫び申し上げます。これより挙式を執り行わせていただきます」
マスミの声が礼拝堂の隅々にまで響き渡り皆の声を掠め取り、残るはパイプオルガンの厳格かつ綺麗な音色。
正確には静かになったのではなく、一同が後ろ手のドアに注目しているだけで、鼓動は今も大きくなっていることだろう。



ドクン……ドクンッ……━━━
扉の向こうの賑やかさが静まり、全てがこちらに向いているのがわかる。
緊張するものじゃないとわかっていても、緊張してしまうのは何故なのだろう。
「何緊張してんだよ」
鼻で笑い飛ばすような声が、耳に届き、心で弾めば。
「してないですよーだ」
彼の手をぎゅっと握り、その思いを確かめた。
今までの全てが、走馬灯のように彼と私の間を駆け抜けていく気がした。
「んじゃ、行こうぜ」
今までも、これからも、共に歩いていくんだ。



「それでは、新郎新婦のご登場です」
ギィ……━━━
言うが早いか、礼拝堂へと続く巨大な扉は開かれた。
それとほぼ同時に、聖壇へと続くアイルが花で清められていく。
タキシードに身を包むラクティヴの横を寄り添うようにして純白のドレスを着たフィオナが照れながら歩んでいる。


ラクティヴとフィオナには両親はもういない。
新郎が手を引くのも、新婦が手を引かれるのも共に、彼ら二人。
それでも恐らく、彼らの目の前には、きっと、いるのだろう。

フィオナのスカートの裾持ちをする初々しい町の少女たち。
その子らもまた、頬を赤く染めている。


彼らが通る際には一斉に、中央のアイルへ花びらが舞い、彩る。
本来は、フラワーガールと呼ばれる人たちだけが、アイルを清める為だけに投げかけられる花びら。
参式者が礼儀を知らない訳ではない。
彼らへの期待、感謝、そして祝福が行動となっておきた現象とでも言うべきか。



「本日は賛美歌ではなく、我ら旅人ゆえにこれからの二人の旅路と幸福を願い、神々の詩の斉唱をお願い申し上げます」
戦いに草臥れた鎧ではなく、聖騎士としての正装である銀色に輝く鎧を身に纏い、ユーナは言う。
賛美歌とは本来神を讃える歌のことである。が、この場においては神よりも代え難い二人を讃えてそれを歌おうという。
今日、これに代わる神々の詩とは、神々が旅人達へ、旅人達が旅の果てを信じて歌う詩である。
彼ら旅人たちの想いが詩となり、旅人の間で語り語られ、幾千の時を経て、詩が歌となった今でも詩としての思いを残している、所謂旅人たちの賛美歌。



ポロロンッ……━━━
ファマスのハープをはじまりに、ハロルドの持つバイオリン、そしてセリアがパイプオルガンで奏でれば、ユーナが口を開き、皆も歌う。
透き通った声、しなやかな声、力強い声、細く鋭い声、優しい声、何人の幾つもの声が重なり、一つの声、一つの想いとなり礼拝堂を包み込む。

そして、詩人ファマスが、踊り子ハロルドが物語を紡ぎ始める―――――――――――――――

『  立ち止まる旅人の背に   語りかける旅人たちよ 
        遠い時代を超え 誘え    宿められし物語へと  』


何人もの旅人たちが、未知なる世界に夢を馳せ、世界の果てへ何かを探し求め、壮大なる旅に出た
天上に住む神々達は、彼らの眼前に広がる冒険と、抗えぬ運命を呪い、だが、祝福した


『  絶えぬ争いに   闇が果てないときも 
       さあ  目指そう  聖なる明日の都へ  』


その先にあるものを、己が手中にしようと何人もが抗えぬ争いに身を投じ、無益な血を流した
だが、それでも、旅人達は、世界の神秘を捜し求めては彷徨い、明日を、未来を夢見て


『  大地は続く   心ある限り 
      私は行く    貴き絆を   知る為に  』


そうした思いを小さな胸に携え、一握りの勇気を小振りの腕に抱えながら、旅人は往く
道無き道を行く旅人たちに、何故と問いを投げかければ、全てのものたちが口を揃えて呟いた――――富を、名声を、そして仲間との絆を知る為に


華麗で流麗、だが、決して小さくはないその合唱の中、ファマスの物語は響き渡り、そして終わりを告げる。


旅人たちは今日も往く
己が道を、抗えぬ運命を呪い、いずれ歴史が全てを葬り、消し去ろうとも、今は唯、笑い、共に生きていく為に


ファマスの言葉、ハロルドの踊りには魔力がある。
それは、ギルドの皆は知ってることであり、街の人たちもまた耳にはしていた。
だが、それがまるでリアルな体験かの様な語り、彼等の想いを知っただろう。


「新郎新婦、指輪の交換を――」

斉唱が終われば、新郎新婦の抱負、それに対して祝福を述べ、指輪の交換。

ルーシーの言葉と同時に、聖壇前でラクティヴとフィオナは向き合い、各々の指輪を交換する。
本来ならば、新郎新婦の付き人がその指輪と大事に保管しておくものだが、二人の強い願いのもとそれは無くなったらしい。

「遅くなって、すまないな……」

そして、これはラクティヴの無理と無計画さゆえの結果。
通常ならば、挙式において交換される指輪は結婚指輪であり婚約指輪ではない。

「きれい……」

二人は今、確かに指輪を交換した。
それに加えて、ラクティヴは婚約指輪を渡したのだ。

交換した結婚指輪は淡いピンクゴールドをしたプラチナのリング。

「オレはフィオナの道しるべ―星―、フィオナはオレの道しるべ―太陽―」

婚姻指輪は、男性が女性に贈るものであって、男性が身につけるものではない。
が、彼はそれを構わず、婚姻指輪をもペアにしてきたらしい。

フィオナに贈られたものは婚姻指輪の正統感を守りながらも、緩くニュアンスのあるカーブ、そしてダイヤモンドを支える爪が少なくシンプルで映える、夜空に輝く星のよう。
そしてラクティヴが持つは、シンプルを極めたエンゲージリングながらもどこか太陽の力強さを感じるラインを持っている。



「汝ラクティヴは、この女フィオナを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他のものに依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の誓約のもとに、誓いますか?」

式も終盤に差し掛かると、宣誓と認証がルーシーにより執り行われる。
厳正なる雰囲気にも関わらず、二人の後ろに並ぶ人たちは皆、心の奥から祝福の音色を奏でているのが肌でわかった。

「誓います」

ラクは隣で頬を赤く染めているフィオナを見やっては微笑み、その一言を述べた。

「汝フィオナは、この男ラクティヴを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他のものに依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の誓約のもとに、誓いますか?」

「はい、誓います」

フィオナもまた、触れ合いそうなラクの掌を握り締め、力強く呟いた。

「それでは、新郎新婦、誓いのキスを――」

二人は向き合い、見上げるフィオナに対して、ラクが肩と背に腕を廻し、フィオナはブーケを携えたままそれを受け入れた。

誓いのキス、そんな儀式的なものではなく、唯、愛する人への愛の証。

「―――新郎ラクティヴと新婦フィオナ、新たなる夫婦の誕生をここに祝福しよう!」

ワアアアアァァァァァーーーーーッッッ………………━━━━━━━━
大歓声、大喝采、スタンディングオベーション、そんな事をつらつらと並べたらきりがないほどの祝福が街を、礼拝堂を、否、ラクティヴとフィオナ二人を包み込んだ。
ティーズは教会を飛び出しフィゲルの蒼穹な大空を雄々しく舞い飛び、ラルフは勇壮なる雄叫びを木霊させ、彼等もまた祝福していた。

「今度は聖職者としてじゃなく、友人としておめでとうだな」
聖壇から降りてくるルーシーが正装を崩しながら疲れた顔をしながら歩み寄ってくる。
それに気付いた頃には、周りにはギルドのみんなが輪を作り、更にその周りには街の人たちが人の垣根となっていた。
「熱いところ見せ付けちゃってくれてー!」
「ま、今回だけは茶化さずにオメデトウってところだね」
祝福の言葉を聞き分けることができるはずもなく、ただただ、二人は笑みを貰い、笑みを感謝に変えて返し、アイルを歩き再び外を目指した。

「幸せか?」
ラクティヴが照れくさそうに髪の毛をいじりながらフィオナに問う。
緊張の糸が切れたのだと思えば、顔の緩み具合も当然のことだろう。
「幸せだよ?ラクは?」
それが当然の如く、何故そんなことを聞いたのか疑問符を浮かべながらも、フィオナの顔にはそう書いてあった。
「ああ、オレも幸せだ」
その言葉が終わると同時に、ラクティヴは屈んでフィオナの足と背を抱えては抱き上げた。
いわゆるお姫様だっこという形だ。
「……っえ……何してるのよ………ねぇったらっ……ちょっとー!」
そう言いながらも、フィオナはラクティヴの首裏へと両腕を回していた。
「たまにはいいだろ、幸せを振りまくのもよ」
ラクティヴはそう言いながら、人を掻き分けて教会の外にまで溢れかえる町の人たちの前に躍り出て行った。
バンッ……━━━
ドアを開けると同時に、ラクティヴは空を見上げれば。
「シンや、レン、それに……ソラにも伝わるほどにな」
その声と同時に、フィオナがブーケを青空に思い切り投げた。
自分達が、幸せであること、精一杯生きていく決意、それを二人に、いや、三人にわかるように。


カーンッ……カーンッ……━━━━
肌に触れても、羽が触れたようなそんな感覚を受ける心地良い風がフィゲルを吹きぬける。
教会の鐘は大海原に響き、山々へと木霊していた。
「おーおー、いいねいいね!ああいうの見てると何だか興奮が止まんねーよ!」
リュートが教会の屋根の上から、幸せそうな二人と町の人たちを見ながら満面の笑みを浮かべていた。
「それもそうですが、こんな仲間たちに恵まれたのも、羨ましいですね」
いつの間にかそこにいたのか、エミリオも言葉通り、ルージュを思いながら少し悔しそうな表情を浮かべては隠した。


かくして、長い間互いの気持ちを傷つけないように、ばれないように、気を使わせないようにと思っていた二人が結ばれた。
その日は、挙式が終わってもまだ歓声と祝福は終わらず、陽が落ち、月が昇り、また陽が昇るまで宴が続いたという。


それはまるで、今まで続いてきた、これからも続いていくであろう、永久の愛の様に――――――








―どこかわからない所―
 ゴウンゴウンッ………ゴウンゴウンッ………━━━━
何か巨大なものが蠢く音が、更に巨大な部屋をも振るわせる。
時折響く甲高い機械的な音、それに続いて響く濁った人の声。
「――それで、順調に進んでいるのか?」
目の前に広がる部屋とは対照的に、明るく照らされているその部屋は小さく、人もいる。
それらが向うは机ではなく、機械が所狭しと並んでいる何かのパネル。
「はい、計画は全て順調に進んでおります」
頭にヘッドフォンを提げる男が、椅子に手をかけ問いかけてきた男に丁寧な口調でそう答えた。
ピコンッ……ピコンッ……━━━
赤や緑、黄、青、色々な色の光が時折点滅しては闇に消える。
ピピッ……━━
突然、ヘッドフォンから小さな機械音が光の点滅と共に聞こえた。

『こちら14番格納庫、機械歩兵ヴェナートのエネルギー充填及び機動実験オールグリーン』

フォンッ……━━
その声と同時に、部屋を壁の様に支配するモニターがその様子を映し出した。
「あれの方はどうなっている?」
「お待ち下さい。今、メインスクリーンに――おい、0番大格納庫のハッチを開けろ」


ゴゴゴゴゴッ………ガコオオオォォォーーーォォォオオオオンッッ……━━━━
地鳴りの様な音と、振動、それはまるで、何か良くないものの呻き声にさえ聞こえる。
闇の中、開けられた扉は奥に一つの光を放っていた。


『こちら0番大格納庫、対決戦型大型兵器、弾薬、換装、各ジョイントオールグリーン!現在エネルギーを――』


そのスクリーンに映し出されたそれは、ほんの体の一部にしか過ぎない。
それでも、スクリーンを見ているものを圧倒するプレッシャーを、動いていないのに、何も起こっていないのに、発していた。


「ふふ……、ふはっ……ハァーッハッハッハッハ!!」


男の声は、狂ったように、部屋の管理人たちでさえも慄かせた。
暗い部屋よりよっぽど黒く暗い装束を身に纏い、その血に飢えた刃がどれだけ人を殺してきたかを窺わせていた。


「さぁ、全てを浄化し、我らが世界の頂点となる為に………」

男は両腕を目一杯広げ、高々と叫んだ。

「今この時!現時点を持ってノア計画を発動せよ!」



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幸福が訪れし時、悪夢が忍び寄る
それは全てを脅かす、邪の存在、悪しき存在
しかして、人々は知らない、否、知る由も無い

何故なら、幸福は、悪夢さえも霞んでしまうほど、輝かしいものであるが為

世界は、行くあても知らず、舵を波に取られながら、大海原を漂々と進む


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