〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第3章
第44話  【封印防衛戦1-2〜堕ちる太陽〜】

 太陽
全てを照らし、全てを育む力の源。公平な存在。
いつしか神格化されたそれは、絶対的な力を持つものとされ公平ではなくなった。
太陽が、朽ちた瞬間。
━━━━━


―モロク北・水の封印―
 ヒュン…ブシュッ……━━
風を切る音の直後に肉が裂け血が噴出す。
「私の服に血を付けた罰よ。」
クリエイターの装飾のついた赤い服の所々は破け、服の鮮やかな赤とは少し違う赤色の血が見える。
どうやら傷つけられたアリスの癇に障ったようだ。
「さすがドS娘……。」
前ギルドから生活を共にしているフルナーゼは怖気が走ったような声でアリスがいないあさっての方を見て呟いた。
最後の一撃をフラウでなく自分の手で下すところや、見下した態度、それに上乗せされる言葉を目の前にしたら恐らくフルナーゼじゃなくとも同じ行動をとるやもしれない。
「この調子なら、フィアンムが勝つまで余裕ね。」
先ほどから始まったプレッシャーのぶつかって生じる波が、数を増して木霊した。


 ガキンッ……━━。
一般の武器の中では巨大な部類に入るクレイモアを小ぶりな杖の腹で受け止めるアモンラー。
驚きで瞬間動きが鈍った一瞬、腹に一撃を放たれ後方へと跳ぶ。
「杖でオレを殺せると思うなよ?」
いくら攻撃力が高かろうと、ただ殴るだけの杖と斬る専門の剣とでは歴然の差がある。
鈍器や斧ならまた別だが。
「そこまで死を強く望むのなら、絶望を見せてやろう。」
「なにっ……?」
杖を自分の目の前に構えたアモンラーの殺気が増した。

「朽ち沈め、サバス。」

バキバキッ……メキ…グチュ…━━
その一言が発動の合図だったかのように、手に持たれた杖がみるみると形を変えていく。
先ほど感じた殺気はアモンラーのものではなく、その武器自体のそれだと今気づく。
「その斧は……。」
ヤツが口にした名のそれはサバスと呼ばれる斧。
禍々しく鎌にも似た曲がった赤黒い刃を持ち、九泉をさまよう怨魂を成仏させる能力を持つ恐るべき斧。
「貴様の命も頂くとしよう。」
ヤツのそれと共鳴する様に、黒く渦巻いた悲鳴の様なものが斧から発せられている。 「格好負けしてるってんだ……っよおおおぉぉーーー!!」
ダンッ…━━
砂漠は走りにくい故に、砂漠を地面として連続とした行動は普段の踏みやすい地面より若干の遅れがでる。
脚に力を溜め、相手までの距離を一度に跳んで詰めるのが好ましい。
「世に埋もれた怨の力をその身に食らえ!」
が、跳ぶということは空中にその身を置けるが、全方位からの攻撃の的になり、更には身動きが取れない一面を持つ。
当然アモンラーはその一瞬を見逃さない。
振り払われた斧の刃からはどす黒いオーラの刃の様なものが飛ばされる。
「ただの遠距離攻撃……いや……。」
距離を稼ぐだけの武器をわざわざわかるように使うはずがない。
それに空中で身動きが取れないとは言え、防げないわけではない。
「これでっ…どうだ…っ!!」
ヒュオンッ……━━。
触れてはいけないものは薙ぎ払うわけにもいかない。
ならば、同じ様なものをぶつけて相殺してしまうのが一番安全な方法だ。
「考えは悪くはない……が、それで防いだつもりか?」
アモンラーは思慮深い表情を一変させ、口元が卑しく曲がった。
さながら自分の思い通りにいったのが、たまらなくしょうがないってとこだろう。
「っ……!?」
放ったウインドカッターで相殺したかと思ったそれは分裂し、なおもこちらに向かって飛んできていた。
しかも相殺したときの弾みか、刃は霧状になって覆い尽くすように被さってくる。
ズズズズ……━━
「目くら……ましっ…?」
オレの脚が地面を掴んでもその暗闇は晴れることなく、暗黒の世界に身を置いたまま。
だがそれ以外の異常はまだ確認することはできない。
「殺すなよ?私がとどめをさすのだからな。」
暗い世界の外側からアモンラーの勝ちに浸った声が聞こえる。
殺す?どういう意味だ?この霧は攻撃するものなのか?
突然の言葉に動揺は隠せない。
ズズズズ……━━
何かが思考内に入り込んでくる様な、ぬるりとした感覚。
「何だ……?」
身体を動かす命令は出していない、が、腕が勝手に動いている。
目が見えずとも触覚は生きているから、それは確かだ。
ブシュッ……━━
「なっ……?」
暗闇の世界が晴れると同時に飛び込んできたのは鮮血。伝わってきたのは左足の痛み。
視界が見えない時に行われた行動は、オレの右腕が左足を斬った事。
だが何故それが起こったのかはわからない。
「私でもその力を完全に操ることはできぬ。どうにも暴れてしまう。」
アモンラーが指差した先にいるものは、先ほどのどす黒い霧。
いや、先ほどとは違いその中に無数の骸の姿が見える。
「どうだ?それが九泉に彷徨っていた怨念の魂たちだ。」
霧状のそれが骸の群れの形を成し、身体に纏わりつくように周囲を回り始める。
「こんなっ……もの…っ!」
クレイモアの剣圧が風を発するも、骸たちは一瞬怯むだけでそれ以上の効果は見出せない。
「骸に朽ちて、闇に沈め。」
「がっ……!」
コオオオオォォォーーー………━━━
身体に尋常じゃない痛みが走る。
正確には痛みというよりは生気を吸い取られる様な絶望にも似た感覚。
「コーマっ……か……!」
その魔法は闇に生き、闇と共にあるものしか使えない禁術。
一撃死ではないが、対象の生命を極限まで削る恐るべき魔法である。
「貴様が上位種の人間であることはわかっている。が、ここまでくれば最早赤子の手を捻るも同然。」
アモンラーが上位種と言ったのは当然フィアンムのことだが、これは現在の3次職の事を指す。
更に深く言えば、3次職はオリジンという別名を持つ古代より魔王たちと戦ってきたものの総称でもある。
戦いが無くなり、平和な世になった世界にオリジンはいなくなり、やがて伝説として語られる存在となり今に至る。 「こんなこともあると……ハッ…ハァ……持ってきて良かったな……。」
オレが腰のポシェットから取り出したのはイグドラシルの実。
以前ラクが使ってからは使われてないことを思えばそれも当然。
かなり貴重なアイテムであるが故に、それなりの称号あるいは地位のものでなければ手にすることはできない。
「再び死を味わう為に甦るとは、オリジンは頭が悪いらしいな。」
「オリジンとか上位種だとか……オレの名はフィアンムだっ……!!」
ダンッ……━━
気をつけなければいけないのは、サバス本体による斬撃じゃなく黒い霧によるコーマ。
風圧で飛ばせない所を見ると物理攻撃では何をやっても意味はないだろう。
それに空中では確実に防げないこともさっきわかった。
「はぁ……っ!!」
ザザザアアアァァーー……━━━
魔法でも物理でも、物体に触れるのはさっきの剣圧で立証済み。
剣で捲り上げた砂の壁で遮断してしまえば、どこから来るかは読めるはず。
「全方位で囲まれたらどうする?」
「んなもん予想済みだっつーんだよ……っ!!」
来る方向がばれるというメリットを取れたなら、相手が全方位から攻撃をしかけてくることは容易に考えられる。
そしてその時こそ僅かな隙が生じることも。
「自ら呪いにかかるとは、死を受け入れたか。」
「……っく……お前の死がっ……見えたんだよ!!」
さすがにコーマを自分から受け入れるのはきつい。
呪いに加えて生命、即ち体力の消耗がこれほどのものだとは。
「先を生きた数多の英霊よ、我に立ち向かう力を今一度与えん。リフレッシュ!!」
ィィイイイーーン……━━
常備しているルーンストーン・ナウシズが青く光りだす。
「そういえば、貴様はルーンを使うナイトであったな……ならその小賢しいルーンの力など押し潰してくれる!」
「ルーンに秘められし大地の力よ、このルーンストーンに宿りたまえ。ジャイアントグロウス!!」
接近を許したからか、アモンラーは大声で咆哮すると同時に力を増した。
ほぼ同じくしてルーンを使い力を込め、それが互いの間でぶつかり衝撃を生み出す。
オオオオォォォーーー……━━━
「うおおおおおおおおおおおお!!」
これで勝負を決める。
全身の血が熱く煮えたぎり、力のリミッターが外されていく。
ブチッ……━━
力を手に入れると同時に、身体の細胞が次々と破壊されて悲鳴を上げる。
「渦巻く憎悪、血の復讐、火竜に呑まれろ!ファイヤーピラー!!」
バーサクを見て危険を感じたのか、アモンラーは自身の周りに連続して火柱を償還する。
ダンッ……━━
「それで絞ったつもりか?」
「まだまだ……この星を覆う数多の流星よ、今我の力となり、その身を紅く焦して邪を滅さん!メテオストーム!!」
ズドドドドドオオオォォォーーーーッ……━━━
火柱の間を縫う様にして隕石の群れが落ちる。
「斬れないモノはねぇーよっ……!!」
ガシュッ……キン……━━
頭上から落ちる隕石を、見向きもせずに上にクレイモアを撫で上げ一閃。
続いて眼前から降り注ぐ岩を細かく切り刻み脚は地面を掴んで飛んだ。
「消えろ小僧!!」
跳躍して見下ろした場所には、激昂するアモンラーがサバスを凶悪なオーラで包み構えていた。
「消えるのはテメーだアモンラー……━━。」
クレイモアを地面に突き刺し、マントの裏から巨大な両手剣を抜き払う。
「━━……サバスを見せてくれたお礼だ!」

クレイモアの倍はあろうかという巨大な刀身、そしてシンプルなデザイン、鉄の塊のような両手剣。
隊長格にしか与えられない数少ない名剣。
力強くも気高き騎士の名に相応しい剣。名を、ツヴァイハンダー。
刀身で斬らなくとも、叩き殺す事も可能な程な力をも持つ。
ガキンッ……ズオオオオオォォォーーー……━━。
刃と刃が交わると衝撃で砂が円形に吹き飛ぶ。
『おおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーー!!』
ツヴァイハンダーとサバスは拮抗して互いに1ミリも動かない。
金属が高速で軋み合い火花が散るのみ。
「クク……カカカ……人間っ……如き……っがああああぁぁーーー!!」
互角という事実がアモンラーの逆鱗に触れ、ツヴァイハンダーが徐々に押されていく。
「無念に散りし戦場の戦士たちよ、その熱き魂を呼び覚まし、今一度剣に力を注がん。」
「なっ!?」
「クラッシュストライク!!」
バキンッ……━━
ルーンの力が武器に伝わると同時に刃がフィアンムとアモンラーの間を空高く舞った。
ジャリッ……━━。
隕石と火柱の嵐は止み、交差して互いに背を向けた。
「朽ちた太陽如きじゃオレには勝てねぇーよ。」
ブシュウウゥゥーーーッ……━━
胸に赤い筋が徐々にその領域を大きくし痛みに変わる。
「無念……。」
ドシャッ……━━
背中からアモンラーの声が聞こえると同時に倒れる音も聞こえた。
ピシピシッ……━━
「何が無念だ、ちくしょう……。」
ガラスの様に亀裂が刀身を走り、直後ツヴァイハンダーは砂のように崩れ落ちた。
視界に段々と大きく映る砂漠。
ドサッ……━━

「良くやったじゃん。」
どこか聞き覚えのある声が遠のく意識の中で木霊した。
「お疲れ。」
━━━━━━。
 

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