〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第3章
第42話  【空に浮かぶ血の色】

―どこかわからない所―
 ゴゴォォーーォォオンッ……━━。
何かが轟音を鳴らして動く。
重く、とても重く、とてつもない大きさの扉。
「作業のほうはどうなっている?」
一人の年老いた男が呟いた。
ピピッ……━━━
「作業は順調です。これが今の状況です、前のモニターをご覧ください。」
機械音と共にスピーカーから声が毀れ、その場に響いた。
どこか広い場所のように、小さな機械音ですら跳ね返って鼓膜を揺らす。 「これか…。」
男の口元が卑しく曲がった。


希望の数だけ、絶望が存在する。
そしてそれは、必ずしも均衡しているわけではない。


「失われた力か……ククッ……」


少しずつ、絶望が黒に染める。


━━━━━



―砂漠都市モロク―
 ジャリッ……。
木の葉が舞い降りるより先にそれが現れた。
赤黒いスカーフ、そして灰黒の装束。
「アサシンっ……!?」
目の前に現れたそれは紛れもなくアサシンの出で立ち。
クレナイやクロノと同じ格好をしているのだから、それ以外の何者でもない。
「もっと自然に出てこれねーのかおめーはよ。」
「え?えッ…?」
ため息を漏らしながらクレナイがそのアサシンへと近づく。
急の新参者とその展開についていけないものがほとんどのようで、その場に呆然と立ち尽くすばかり。
「まーアサシンですし仕方ないですね。」
その職業が如何に嫌われているかをかみ締めながらクロノは苦笑を浮かべた。
どうやら目の前にいるアサシンは敵ではないらしい。
「やーやーThousand Bravesのみなさん。オレはアサシンギルド穏健派のクラスク、お見知りおきを。」
アサシンとは思えないほど屈託のない笑顔でお辞儀をするクラスク。
どうやらこのアサシンが先日言っていた連絡係なのだろう。
「まぁ、立ち話も何だからそこいらの酒場で話しましょうか。」
時刻は夕暮れを迎えており、クラスクは灯りで煌びやかに照らされる酒場を指差した。
こんな人たちだけならば、アサシンも嫌われることはないだろうと思いながら皆は後をついてった。


 ワイワイ……ガヤガヤ……
ある意味昼間の商店街以上の声と熱気が店内を充満している。
仕事帰りの男たち、何か思い出話でもしながら酒を飲む男女、慌しくメニューを聞いては料理を運ぶウェイトレスやウェイター。
誰もがそれをするのに夢中となり、暑さなど忘れている様に熱を放出していた。
「で、何でお前がここにいるんだ?」
「そりゃお前、オレは連絡係だからな?」
「クレナイは忘れることが多いですからね。」
3人のアサシンたちの他愛ない会話が先手を切った。
「あ、ネーちゃんこっちもヨロシクー!」
クラスクは手を挙げウェイトレスの女性を引き止める。
真剣な話でもあるかと思いきや、軽い雰囲気だけが場を覆う。
「コレとコレと……コレとコレ……コレもお願い。」
「わかりました、少々お待ち下さい。」
しばらくしてウェイトレスが料理を次々と運んできた。
「さて、本題に入ろうか。」
「何故こんなに……?」
大型のテーブルを用意してもらったが、それを覆いつくすほどの料理の山。
誰が払うのかは恐ろしくて聞くのはやめた。
「今日はここに封印を探しに来たんだろう?」
フォークをペコペコの肉に刺しながら呟いた。
声は意外と小さく、だが鮮明に耳へと届き、入った。
読唇術の逆、相手に唇を読ませやすくする事により、小さい声でも音と同時に認識させ届かせるものらしい。
「それがモロク城以外の場所がわからなくてな。」
ルーシーが酒を飲みながら目を細める。
自然を装ってか、それとも本心からか、みんなはテーブルに運ばれた料理に次から次へと手を伸ばし始めていた。
カチャカチャ……
「それの連絡でオレが遣わされたってわけさ。」
フォークとナイフでステーキを切りながら話は進んだ。
「場所はわかる。が、時間が無い。」
「どういう意味だ?封印が解けるってか?」
クラスクの神妙な面持ちにクレナイも一瞬曇る。
「いや、そうじゃない。」
「じゃー何だ?」
今度は黙っていたフィアンムが口を開いた。
「封印の場所を過激派に抑えられてるんだ。」
どうやら過激派は封印の場所を監視しているらしく、その監視が一時的に離れるとのこと。
その隙を突くのだが、時間があまりないらしい。
「当然と言えば当然だが、そこしか隙はない。逃せばまた一日待つしかない。」
「そんなゆっくりと待っている時間はない。」
復活の時期の確認は一分一秒でも速く確認したい今やるべき事のひとつ。
手間取っている時間はないし、こんなことで躓いてはいられない。
「よし、じゃー行くか。」
ガタッ…━━。
テーブルと机が一斉に音を立てた。
━━━━━。



―モロク北城門―
 ヒュウウゥゥーー……━━
一陣の風が砂塵と共に街を駆け巡る。
砂漠は寒暖の差が激しい。
昼間は鬱陶しく感じた熱風も、今じゃ酔いが覚めるほどの冷たさだ。
「大勢での行動は時間の浪費になる。」
「女を残すにも不安だしな。」
「ポータル係りは必須だぜ。」
意見が何個も出た。
「てことで、4つの門に一人ずつ置こう。」
人数が多ければ多いほど行動に時間はかかり、かといって女をこの治安の悪い街に置いてはいけない。
ポータル係りは時間削減の為必須。
「東にオレ、西にエンブリオ、南にセネル、北にリュート。言っとくけど見張りだからな。気ぃは抜くんじゃねーぞ。」
時間を無駄にしない為と見張りの為に門1個につき一人の見張りを立てる。
「速度増加は切らすなよ。」
「オッケーイ。」
「東から行くぞ。」
クラスクの声と同時に一斉に駆けた。
ダダッ……━━。



―モロク東―
 ヒュオオォォーー……━━
いつもより乾いた砂漠の風が吹く。
それと同時にクラスクが辺りを見回して何かを確認している。
「ここだ。」
ジャリッ…━━。
クラスクが立ち止まった場所は何も無い砂漠のど真ん中。
「おいおい、ここのどこに封印があるって……━。」
「下…ですね。」
アクアが足元を見据えて、確信じみた声で言った。
「ご名答。」
クラスクがしゃがんだ場所を良く見ると、少し土が掘り返された跡が伺える。
どうやら封印は地面に埋めてあるものらしい。
ザクッ…ザクッ…━━。
「乾いた風の原因はこれか?」
暫く掘ると、少しずつ緑色の光が漏れた。
「風の封印石ですね。」
黄緑色の光と、先ほどの強く乾いた風がその証拠。
ラフウィンドと呼ばれる風の結晶がそこに在った。
「どうだ?」
「ここは大丈夫……ですね。」
一瞬の間が一瞬の恐怖を呼んだが余計なものに終わった。
当然、それでよかったのだが。
「よし、西門のポータルを。」
待ってましたといわんばかりにユウがポータルを唱えた。
ヒュンッ…━━。


―モロク西・スフィンクス前―
 オオオォォーー……━━。
古代のある神話に登場する神聖な存在、または怪物とされるスフィンクス。
ライオンの身体に人間の顔を持つという異形の姿をしているそれは像とわかっていても、どこか威圧感がある。
「スフィンクスの像の下じゃないんだな。」
「そんなんだとバレるだろ。」
ジャリ……。
着いた先はスフィンクスを通り越して少し歩いた場所。
「ここは土ね。」
先ほどの調子でいくと、今回は大地が僅かに鳴動していることから土の封印だと思われる。
ユーナが得意げに言ったのが的中し、土の結晶グレイトネイチャが姿を現した。
「ここも大丈夫っと。」
徐々に安堵を取り戻したアクアは不安の色を見せることなく封印を調べ終わる。
それがみんなの安心にも繋がり、これからにも繋がっていく。
「次だ。」
言うが早いか、フルナーゼが既にポータルを出し終わっていた。
ヒュンッ…━━。

―モロク北―
 ウウウゥゥーー……━━。
どこか湿りを感じる風が吹く。
その冷たさが水の封印を確信させると同時に、どこか悪寒をも感じさせた。
「綺麗な光ですね。」
そう思わず言ってしまうほど綺麗な青白い光を放つミスティックフローズンがそこに在った。
水の結晶と言われるだけあって、アクアマリンよりも美しく見える。
「まぁ、魔王が復活してしまえば壊れるんですけどね。」
アクアが残念そうに言った。
この青白い光がタイムリミットなんだと悟った。
「…。」
少しずつ、不安がこみ上げてくる。
ルーシーの顔はそれを浮かべずとも、心は侵食されていく。が、皆はまだ気づかない。
「ぼさっとすんな。次でラストだ。」
ポータルと同時にその気配は消えた。

―モロク南―
 ジャリッ……。
最後はモロクを北に出て少し歩いた何もない場所。
上空から見ると、この封印は十字を作るように位置しているようだ。
「さすが火属性……ここだけ暑いな……。」
少しだけ赤い光を土の下から浮かばせるのはフレイムハート。
今まで3つの封印を思い出せばわかるが、ただの鉱石である状態ならば他の属性石も何の変哲もないのだが、こういった何かに使われている状態だと本来の能力を自動で発生するのだ。
「どうだアクア。」
ひとつでも弱まっていれば、そこから順々に弱くなっていく。
それ故に、この封印を確認するまでは完全に安心はできない。
「ふぅ……大丈夫です。」
「後どのくらいだ?」
具体的に知りたい気持ちは誰にでもある。
しかして、教授といえども初めて見る封印の期間を出すのは難しい。
だが意見があるとないとではかなり違う。
「持って半年……ってところでしょう……。」
半年しか、逆に取れば半年もある。
「クラスク。穏健派にもこの事を伝えといてくれ。」
「オーケー。後は戻るだけだが、封印の場所を知ったんだ。覚悟はしといてくれよな。」
彼の言った覚悟とは魔王と戦う覚悟ではなく、アサシンによる追っ手への覚悟だ。
今まさに計画を阻もうとしているのだから、ヤツらにとっての一番の障害になったといっても過言ではない。
「それじゃ、早く戻ろうよ。長居は無用でしょ。」
ハロルドが促す。
追っ手や何かしらあるだろうが、それをいつどこでというのも問題になる。
何よりこの場での戦闘は避けるのが妥当だ。
「4人と合流したらすぐフィゲルに戻るぞ。」
ここにいるのもそうだが、モロクにいるのも危ない。
モロクがアサシンギルドの支配下といってもいいほどの街ゆえだ。
「アサシンも認められるといいですね。」
アクアから意外な言葉が漏れたことにクラスクは驚いた表情を見せた。
「おう。」
嬉しそうにクラスクは頷き、蝶の羽が舞うと同時に姿を消した。
「よし、オレらも戻るぜ。」
ヒュヒュンッ……━━。
ポータルは術者が入ると同時に空間を閉じる。
ジャリッ…━━。
故に、その後のその場を窺い知ることはできない。



―砂漠都市モロク―
 ガヤガヤ……━━。
陽は落ち、陽光の代わりに街灯が街を照らす。
商店街から場所を変え、人々は飯屋や酒場へと足を運び、その波は途絶えることを知らない。
「眠らない街……ってやつだな。」
ルーシーたちは4人と合流し、一息ついているところ。
早く帰るとは言ったものの、何故か帰ろうとはしない。
「何で帰らないの?」
ユーナが不思議そうに質問する。
その質問に顔を歪めるだけで、答えようとはしないルーシー。
否、答えようとはしないのではなく、正確な答えを持っていないが為の沈黙。

ドンッ……━━。

瞬間、轟音が遠方から鳴り響く。
「何だっ……あれ……はっ!?」
フィアンムが驚きの言葉を吐き捨てた方には、赤く染まる空だけが在った。
オオオォォーーーン……━━━。
「封印の方角全部だな。」
「え?アサシン?」
予想していたかの様な冷静な面持ちのルーシーやクロノ。
「恐らくモンスターの大群だな。」
「まんまとハメられたわけですね。」
罠にかかったのはフィアンムたちだけではなく、穏健派のクラスクたちも同じ。
「どうゆうこと?」
「人間の力では封印は解けません。」
「何で?」
「封印が聖なるものだからです。」
ヒナとアクアの子供の様な質問が連続して繰り返される。
「恐らくアサシンギルドはわざと隙をつくり、そしてそれに入り込ませた。」
ガシャッ……━━。
クロノがカタールを両腕に出しながら呟く。
「そしてモンスターたちに気づかせ、封印を早めようとしたってところだろうな。」
ルーシーがため息を連続して吐く。
裏の裏をかかれた事にかなり気落ちしているらしい。
「ま、オレらも4つに分けるが……お前ら死ぬなよ。」
ルーシーがこの状況を愉しむかのように笑みを浮かべた。
こういう時こそこの男は頼もしい。
どんな状況下でも一瞬で気持ちを切り替え、皆を引っ張る。
精神面でのリーダーがラクならば、戦闘面でのリーダーはルーシーといったところだ。
「ラクが悲しむからね。」
「そういうこと。」
不安げだったヒナたちも徐々に緊張から解き放たれる。
『開け、空間の扉。ワープポータル!!』
フィアンムの声と同時に4つのポータルが開かれる。
「うっし、行くぞ!」
ヒュンッ……━━。
 

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