〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第3章
第16話  【暗躍者】

―峡谷都市ベインス―
トール火山に隠れるようにして、砂漠の峡谷にひっそりと存在している。
ベインスはアルナベルツ首都ラヘルに続き2番目の街である。
寒村であるため高齢者が多いのが特徴だ。
全体的に起伏が激しく、何も無い場所からアルケミーによって開発された街であるとされる。
━━━。

 ラヘルでの事件を終えてから数日が経った。
ニルエン大神官のおかげ(だろうと思われる)で、傷の治癒に時間をかけなくて済んだのだ。
「ラヘルとは…随分気候が違うんですね…。」
ユーナが少し震えながら辺りを見回す。
砂漠と言っても、渓谷の間であるが為にその気温の差は激しい。
「寒暖の差が激しい…。」
ここは峡谷都市ベインス。
調査の為に乗り込んできたのだ。
「とりあえず全員で治安局に行って、妙な刺激を与えなくもないよな。」
フィアンムがオレの後ろに立ち呟く。
「ルーシー、半分くらい連れて聞き込みと宿を探しといてくれないか。」
あくまで聞き込みであり、戦いに来たわけじゃない。
妙な刺激を与えたりするのは絶対避けたいところだ。
「じゃー残りは治安局行くけど、それでも全員は入らなくていいからな。」
念を押してみんなに言う。
辺りを見回しながら、治安局へと向かう途中、ベインスの南入り口の奥には水平線が見えた。
「フィオナ、ヨウブだけ来い。他はここで待機だ。」
ガチャ…━━。
治安局と書かれた建物のドアを開く。
「何か用か?」
入り口右に居た兵士が道を塞ぐかのように立ちはだかる。
「異国の人が倒れていたという事件の事を聞きに。」
兵士を睨む返すように用件を述べる。
「奥に通せ。」
強く重たい声が室内を飛んでくる。
部屋の奥に座る一人の男が、前を塞ぐ兵士に命令する。
兵士は男に敬礼し、再び道を明ける。
どうやらここの局長らしい。
「ここまで来て貰ってすまないが、私たちはもうこの件には関わっていないのでね。」
やはりジェド大神官が言ったとおり、ここではもう捜査の断片すら行われてないのか。
ただ話を聞くのは別だろう。
「何か知っている事とかあれば…━━。」
「捜査を行いたいのならば、大神官の許可が必要だ。」
フィオナを制すように男は立ち上がって言う。
しかし大神官の許可とは、ジェド大神官はこれを予想していたのだろうか。
「それならここにあります。」
オレが言うとフィオナがガサガサとジェド大神官から貰った書類を提示して見せた。
「これはフレイヤ大神殿におられるジェド大神官直筆の…?」
「これでよろしいですか?」
驚く局長にニィっと笑って見せた。
「数ヶ月前に南で捕まった人々から事件は始まったのです。」
局長は事件の事を思い返すように喋り出す。
「ベインス周辺にはならず者の集団が時折現れるので、治安局の方でも警備を強めたりとしていた時だったんです。」
アルナベルツ教国は決して治安が良い国ではないらしい。
しかも宗教に依存している国の為、治安を維持する為の武力などを持ち合わせておらず、その為数少ない治安局が国全体の治安を見ていると言っても過言ではないらしい。
「ここベインスから南に行くと、すぐに海辺へ行く事ができる為、逃走経路にも都合が良く、良くそこを警備に当たるんです。」
先程見えた水平線はやたら近くにあるようだ。
「その日も同じく警備をしていたら、何やら大きい荷物を運ぶ集団が見えたので、治安維持員たちが声をかけると走り出したのです。」
運ぶ?
国王はここで行方不明になったんじゃないのか?
「その後治安維持員たちがその集団を逮捕したのですが、その大きい袋の中には高位に見える人が入っていたのです。」
この人たちが嘘をついているとは思えないが、どうも引っかかる。
綱吉が言うには、こっちの会合に来てから行方不明になったというが。
「それでその逮捕した人たちと、その高位に見えるっていう人は今どちらに?」
マスミの質問に局長は首を横に振った。
「それが捜査途中に、フレイヤ大神殿の大神官たちが直接来られて引き取って行ってしまったのです。」
ジェド大神官も言っていたけど、大神官がわざわざ来るほどの事なのか。
それとも予め知っていたとしたら?
それとも予想外の出来事に焦ったのか?
「それ以降はその件に関しては何も情報が入ってこないので、私達治安局は手を引いたのです。」
大神殿の謎だらけの行動がどうもわからない。
とりあえずここでこれ以上の情報は望めないだろう。
「どうも失礼しました。では。」
「あ、それとその集団の者達は、やたら殺気を放ち、王国の腕章をつけていたとの事です。」
付け足すように局長が言うと、驚いた顔をわざと隠してそのまま足を運んだ。
オレが足早に外に出ると、そこにはオレを待つかのようにして綱吉が待っていた。
「ラクティヴ殿。至急報告しなければならない事があるので、ルーシー殿がとった宿に移動したいのですが。」
良く見ると半分のメンバーの中にルーシーが混じっているのに気づいた。
宿は治安維持局から北にある高台の上らしい。
「わかった。みんなもこのまま宿に行くぞ。」
━━━。

 宿につくと早々に夕食を食べる事にした。
部屋で話すのもいいが、篭っていると怪しまれるかもしれないからだ。
誰に?と言われれば答えられないが、誰がオレたちを尾行しているかわからない。
夕食を食べながら普通にしていた方が、怪しまれずに済むだろう。
「で、話ってのはなんだ?」
ルーシーがスプーンを皿にコツコツと当てながら、綱吉に話を振る。
他のヤツらは大体飯にありついている。
「実は騎士団のヘルマン団長、グレイ副団長、それに教会のジェイド神父、バムプ神父、ビスカス神父で秘密裏に動いていたのですが…。」
綱吉がそこまで言うと肩を落とした。
どうやら相当な事態になっているかも知れない。
「過去の王たちが毒殺の可能性がある…との事です…。」
「ど、毒…?!」
衝撃的な事実だった。
しかし毒殺をしたとして、それ以降誰かが覇権などを掴んだりしただろうか?
「これは極秘なのですが、今までは呪いにかかりそれが死因だと思われていたのですが、些細な事から調査をする事になり…。」
「今回の様な結果になったわけかか。」
今まで毒殺だったとして、現在に至るまで何も時代的にも経済的にも何も変化は見られなかった。
だとすると、犯人は実行する時を窺っているのか?
国を乗っ取るだけなら、その時の王を殺してそれで成り立つはずだ。
「呪いと見せかける為に今まで殺してたとしたら?」
アクアが言う。
確かにその線も考えられなくはないが、そこまで回りくどい事をする理由は何だ?
やっぱり“何か”を待ってるのか?
「“何か”を待っている…“何か”…人…武力増強…準備の為…それとも何かの時期か?」
自分で言って気づいた。
「そう…か…!」
犯人はわからないが、国王が毒殺されたと仮定して何故何代にも渡る暗殺を続けたのか。
それは“何か”を待っていたんだ。
「何かわかったの?」
フィオナが立ち上がるオレに視線を向ける。
頭の枷が外れたかのように廻る。
「犯人が何故何代にも渡る暗殺を続けたのか。」
話をしてたヤツも含め、食事をしてたヤツも食い入るようにオレを見る。
オレの推理が正しければこうだ。
「犯人は時期を待っていたんだ。」
「時期って何のだよ?」
クレナイが酒を持ちながら問いかける。
「魔王モロクが復活する時期だろ。」
ルーシーが椅子に持たれ掛けながら、淡々と答えた。
その通りだ。
「ふぁんで…ふぉんなのを待つ…必要があんだ…?」
エンブリオがパンを齧りながら喋る。
「魔王復活の混乱に乗じ、世界を乗っ取る為だ。」
余りにもスケールがでかいが、これならば辻褄があう。
「首謀者は恐らくアサシンギルドマスターのカーティスだろう。」
みんなはあまりの問題のでかさに唖然としている。
でもオレだって気づけばそうだ。
「レッケンベルに何でアサシンが居たのか?それはウィザードギルドの双子の魔術師を持ちかけたのが、アサシンギルドだからだ。」
今までの不思議な問題点が、点と点で繋がっていく。
「レッケンベルの生命工学は、もはや最強の人造人間を造る事。だからアサシンギルドの提案は持って来いの案だったに違いない。」
でなければ、アサシンギルドがわざわざレッケンベルに近づく理由、レッケンベルが近づける理由が無いからだ。
そしてまだ悪の連鎖は続く。
「そしてウィザードギルドも、魔王モロクを自分達で何とかしようとしていた矢先の“融合”の計画。願ってもない事だった。」
これだけ聞くとアサシンギルドはただの中継役に過ぎない。
だが、ここからがアサシンギルドの恐るべき計画の核だろう。
「アサシンギルドはアルナベルツの秘密を掴み、大神官たちを例の“聖域”の件で脅し、“ユミルの心臓”を使用、更に国王誘拐、暗殺を押し付けようとした。」
そう、アサシンギルドは全てを利用し、蜜だけを吸うかのように汚れ仕事は押し付け、世界を制圧しようとしたのだ。
「今回の国王失踪もアサシンギルドの手配で、ここベインス周辺でわざとラヘルの仕業だと見せ付けた。」
いちいちそんな重要人を持って、これみよがしに見せに来るやつはいないだろう?
「これまでの不可解なアサシンギルドの行動を繋げると、最強の魔術師を創り、なおかつ“ユミル”の力も使い、最強の武力を手に入れ、魔王モロクを打ち倒し、世界を征服する事が目的だと思う。」
今までの事件の全ての暗躍者がアサシンギルドによるものに違いない。
「国王を殺したのは、呪いに見せかける為もあるが更には思い通りに事を運ばせる事だろう。」
しかし、それを考えると、何でアサシンギルドはソラを連れて行ったんだ?
何か嫌な予感がする。
「そうだったのか…。じゃー止めるにはどうしたらいいんだ?」
セネルが悔しそうに唇を噛みながら言う。
「アサシンギルドの証拠を掴み、それをばらすしかないですね。」
「ばらした後は、両方に味方になってもらって、アサシンギルドを倒すって所かな。」
リュウが静かに零すと、バルジがそれに続く。
確かにそうだが、証拠と言ってもどこからどうしていくか…。
「オレらが今やるべき事は、国王の居場所を突き止め、尚且つ証拠を掴む事だ。」
みんなは力強く頷く。
「綱吉、他に何かないか?」
少し悩む素振りを見せた後、綱吉は口を開いた。
「秘密裏に動いていたジェイド神父が行方不明になり、代わりにイェーガーと名乗る男が管理としてやってきました。」
「オヤジが行方不明…?」
ルーシーが静かに疑問を持った。
思ったより落ち着いているのは見た目だけだろう。
ルーシーは、仲間や家族にはとても熱い気持ちを持っている男で、その事になると止めるのも一苦労になるほどだ。
「はい、その後王国の国防大臣であるウォーゼル大臣からの任命だと、そのサインが入った書類を持って…。」
どうやらアサシンギルドも何かしらの手を打っているようだ。
それが今回のジェイド神父行方不明と大臣から送られてきたイェーガーだろう。
「とりあえず、団長たちにも警護を強化するよう言っておいてくれ。」
ヒュン…━━。
綱吉はそれを聞くやいなや、煙の様にその場から姿を消した。
「リュウ、クレナイ。アサシンギルドの穏健派とは連絡つくか?」
多分あっちも行動を起す時期だろう。
しかし戦力が足りないのは、オレたちもあっちも同じのはず。
「やろうと思えばできるが、アサシンギルドに戻らないといけないな。」
アサシンギルドに戻らせるのも危険か…。
だが、内部で揉め事が起きれば、アサシンギルドも余裕が無くなるはず。
「そう心配そうな顔しないでくださいよ。そんじょそこらのアサシンなんかには負けはしませんって。」
オレの心を読み取るかのようにリュウが意気込みを語る。
「アサシンギルドを崩すには内部からって事なんだろ?任せとけよ、必ず何とかしてやっから。」
クレナイが言いながら立つと、リュウもそれを追って立ち上がる。
どうやら今から行くらしい。
「ヒナにフルナーゼ。二人に着いてってくれ。」
立ち上がる二人を促すように、プリーストの二人を着けて足した。
「ただし、二人がアサシンギルドへ行く場合は、二人はどこかの街で待機だ。いいな。」
敵の本拠地に潜り込むとあって、自然と口調に力が入る。
それを見てか、いつもなら何か言う所も何も言わず二人は頷いた。
「ロイにアッシュ、アクアを連れてラヘルで魔王の復活時期を聞いてきてくれ。」
魔王復活時期がもしわかるとするならば、その時期と同じくしてアサシンギルドが動くからだ。
もはやフィオナを助けるだけの問題ではなくなった。
「おぅ、任せとけ。」
ロイは久しぶりの出番だと張り切っている様に見えたが、まー良いだろう。
騎士団出身であるロイには油断という言葉は関係ないはずだ。
「とりあえず今日はも陽が沈みかけている。動くのは明日からで良いから、食事を取り終わったら今日はゆっくり休んでくれ。」
オレが言い終わると同時に食事が再開される。
いつも通りの賑やかな会話に、みんなの笑い声。
だが、自分達がとんでもない問題に直面している事がわかった今、その重い雰囲気だけはかき消す事はできなかった。
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