〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第3章
第14話  【人の世界】

 グルームアンダーナイトは言った。
《魔王モロクを排除する者》と……。
それは有難い、だがそれはお前がやるべき事じゃない。
此処はお前の世界じゃなく、オレら人間の世界なのだから。
━━━━。

 群がる信徒、モンスターたちを相手に均衡を保つみんな。
オレの周りには倒れる仲間が4人。
そして目の前にはグルームアンダーナイト。

 ヒュン…ガイィーン…━━。
グルームの右拳を刀身で受け止める。刀身を伝わり身体にその衝撃が走る。
防御したはずなのに、鈍器で殴られた様に身体が刺激される。
「左手もあるということを忘れるな。」
グアアァァ…ガシ…━━。
右拳に意識が行っている間に左腕に捕まれる。
腕のサイズと、何より締め付ける力がでかくて抜けられない。
「燃えろ。」
ゴオオオオォォーーーォォォオオオ…━━。
「ラクーーー!!」
フィオナが悲痛な叫びを上げるのが聞こえた。
仲間やフィオナのそういう姿は見たくない。そういう姿も見せたくない。
「安心しろフィオ。こっちだ。」
背後に廻ると同時に残像が消える。
グルームのでかい背中の左肩から右腰に目掛けて一閃を振り下ろす。
ザシュ…━━。
勢い良く鮮血が背中から噴出す。
「人間にここまでハッキリと傷を与えられるとはな。」
グルームは振り返らずに言う。
同時にプレッシャーが少しずつ増していく。
「オレが死ぬとあいつらが悲しむんでな。」
安心して涙ぐむフィオナの方に一瞥する。
「おおおおおおおおお!!」
ダンッ…!!
床を強く蹴り、背後に俊足で駆け寄り突きを食らわせる。
グルームは余裕なのか、動きについて来れないのか避ける素振りを見せない。
「まだまだああああ!!」
刺したラグナロクを引き抜き下から上空に斬り上げる。
「よくもここまで…!!」
上空に放られたグルームは怒りを露にし始める。
ダメージが通っているかわからないが、多少はヤツ自身応えているようだ。
メキメキ…ミシ…ヒュン…━━。
脚に力を込め、空中のグルームを追い抜き、頭上に跳び上がる。
「おちろおおおおおおーーー!!」
ブシューーードガガガッーーー……━━。
オレの下から上がってくるグルームにもう一度ラグナロクを振り下ろす。
「クク…クハハ…ハハハ…!!」
ポタ…ボタタ…━━。
大量の血を流しながら、グルームは壊れた様に笑う。その姿は神の化身と言うよりは、悪魔の化身に近い風貌だった。
「渦巻く憎悪、血の復讐、火竜に呑まれろ!ファイヤーピラー!!」
ズズズズ…━━。
突然の地鳴り。
足元で何かが流れ動くこの感触。
ズズズズ…ドドドドド…━━。
「しまっ…!」
ドドドド…ドゴオオオオーーーォォオオン…━━。
声をあげる前に、床から火竜の如く火柱が立ち昇る。
「フィオナーー!ルーシーーー!!」
二人は昇り往く火柱に呑まれ、劫火の中で揺らめいている。
ファイヤーピラーは、指定した地面など思った場所に火柱を立ち昇らせる魔法だ。
通常ウィザードたちが行使する場合は、火柱1個が行う攻撃時間、回数などが決まっているが、上級モンスターともなればその制限は無意味に等しい。
「余所見をしている暇などないぞ!」
「くっそ…!!」
ファイヤーピラーに呑まれた二人に気を取られて両腕に捕まれてしまった。
「ここまで傷を与えたお前には仲間以上に地獄を見せてやる。」
コアアアァァァーーー…━━。
音と共に両腕が熱さを伴い光り始める。
「人間の形は留めて置いてやるから安心しろ。」
ズドドドドドド……━━。
ヤツの肩から腕を炎が走り、それが拳に捕まっているオレを捕らえる。
「うあああああああーーーーー!!」
腕から伝わる爆発は、外部からというより内部に爆発を起されている様な感覚。
脚も腕も、腹も臓器も全て火と爆発の衝撃に曝されている気がする。
「とどめだ!」
もう痛み以外の感覚が無い気がする。
身体が、頭が言う事を訊かない、そのボロボロの身体を宙に放り投げられた。
ズガガガガガ…バキメキ…ミシ…ボキ…━━。
「ぐあっ…あ…ぁああーーーーー…っ……!」
グルームはラッシュアタック状態になり、宙に投げたオレを拳で挟むかのように殴り続けた。
焼け焦げるオレの身体に、大きい鈍器で殴られたかの様な痛みが襲い掛かる。
ズドドドドド…ドシャアアーーー…━━。
「…く…っま…だだ…っ!」
口では言えるものの、既に身体のどこも動かない状態。
恐怖より、何もできない自分に腹が立つ。
「安心しろ。この世界はいずれ楽園となる。」
グルームの口調が饒舌になる。
違う。お前はこの世界を…。
━━━。

 幼少の頃から団長が良く言っていた。
「魔王モロクやもっと強大な魔物が現れても、ここは人間の世界だ。」
子供のオレにもわかる話だと思い、真面目には聞いていなかった。
「だが、そんな強力な魔物が現れても、“力”には頼ってはいかん。」
その時団長が言った“力”という意味を理解するにはまだ早かった。
オレはわからぬまま黙々とただ聞いていた。
「ここは人間の世界だ。だからたとえこの世界に危険が訪れようとも、我々人間が何とかしなくてはならんのだ。」
団長の言葉がわからず難しい顔を覗かせる。
「いずれお前にも解るときが来る。」
悩むオレを団長がそっと頭を撫でた。
━━━。

「ちが…お…まえは…。」
レノヴァティオの効果か、少しずつほんの少しずつ身体が動かせる。
「何が違う。世界は力だ。強い者が世界を変えることができる。」
確かにヤツの言う事にも一理ある。
「ここ…は…ひと…の世界…だ…。」
「何が言いたい。」
だけど力だけで世界が救えるなら、人は運命から逃れ、無駄に足掻き、血を流したりはしない。
…そうだろう?
「人のっ…世界…は…人が何と…かするもんだ…っ!」
ここは人の世界であり、お前の世界じゃない。
人の世界を導くのは、この世界に住む人以外はいやしない。
「奇麗事は聞き飽きたぞ。」
グググ…━━。
少しずつだが立ち上がるまでに身体が動くようになった。
ラグナロクから不思議な力が流れ込んでくる。
「戦争の…道具は…悲……み…しか…生まね…んだっ……!!」
グルームが口をより一層大きく開ける。
「悪あがきはよせ。」
ゴオオオォォォーーー…━━。
さっきより熱く、赤く燃え上がる激しい火炎が口から放たれる。
剣がもう一本あれば…!
フィイイイーーーィィイイン…━━。
手に握るラグナロクが光り始める。
ヒュヒュヒュン…━━。
“両手”に持った剣で空を裂く。
「何で生きている…!何だそれは…!?」
ラグナロク一本だけじゃ、ブレスを防ぐ事なんてできなかった。
不思議と身体の痛みは消えていた。
治った訳じゃないだろう、多分痛覚が麻痺してるんだと思う。
「…ランドグリスは…言っていた…ラグナロクは使用者の能力に呼応して変わると…。」
グルームが慌てふためいている。
さっきのファイヤーブレスはこれで防ぐことができた。
「ツヴァイ…。ラグナロク・ツヴァイ。ラグナロク第二形態、双剣のエクスカリバー。」
さっきまで左手に持っていた鞘が剣化したのだ。
自然と剣が呼応するかのように、剣の意思が頭に流れる。
それぞれ右手が“ラグナロク・レヒテ”左手が“ラグナロク・リンケ”。
「これがお前の“力”とは違うオレの“強さ”だ。」
今まで何度か剣を使った風圧で、ブレスなどを防いだ事があった。しかしさっきのブレスは剣一本で造り出せる風圧で耐えられるものじゃなかった。
そしてそれを強く思った時、それが原因でラグナロクがその形を変えたのかも知れない。
「…悪いな。身体が言う事をきくうちに終わらせてもらうぜ。」
進化したラグナロクの気に当てられてか、自然と身体に力が入れられる。
二刀ともなると、やはり攻撃に余裕ができそうだ。
「剣が一本増えただけで図に乗るな小僧…!」
ズゴゴゴ…━━。
足元からファイヤーピラーの溶岩が立ち上るのがわかる。
「やってみればわかんだろーよ…!」
ミシ…メキ…━━。
火柱が床を突き破るのと同時にその場を跳躍する。
それを見てグルームがにやりと微笑を零す。
「無闇に空中に跳ぶのは命取りだぞ!」
オレを挟撃するかのように、ヤツの両腕は左右から伸びて向かってくる。
確かにヤツの言うとおり、空中じゃ行動が限られる。だけど、それもさっきまでの話ならだ…!
「なめるんじゃねえええーーー!!」
ガンッ…━━。
右腕を右の剣レヒテで受け止める。しかしまだ左腕が視界の左から迫り来るのが見える。
「どうした?右腕を抑えるだけで精一…━━。」
レヒテを盾の様にして右腕を防ぐと同時に、押してくる右腕の力を借りてわざと押され、その力を借りてリンケを左腕に突き出し、向かってくる掌から左腕にかけて突き刺す。
ブシュウウーーー…━━。
「ただ攻撃するだけが“強さ”や“力”じゃないんだよ…!」
巨大な左の掌から鮮血がとめどなく零れている。
その鮮血さえも蒸発してしまう程に、その場が熱くなる。
「人間なんかに…!フレイヤの化身である私が負けるはずがないのだあああああああーーーー……!」
怒りの咆哮を上げると同時に、存在する火が一気に力を増す。
オレが与えた傷を見て気が動転しているのか、ヤツ自身力を抑え切れていないようだ。
「致し方ないが…私諸共お前らを道連れにしてやる…!」
ズゴゴゴゴ…ゴオオオオォォーーー……━━。
放たれたファイヤーピラー、ヤツ自身の身体の炎が、油を注がれたように噴出す。
同時に背中の炎がオレらを囲む様にしてドーム状の形を作っていく。
「ファイヤーウォール…か?」
見た目は巨大な炎の壁にしか見えない。
「人間が使うファイヤーウォールなどというチンケな魔法と一緒にするな…!」
その怒りに反応するかのように、炎の壁がじわじわと小さく、そして全てを溶かし迫ってくる。
「くそ…っ!」
フィオナたちを自分の近くに寄せるが、それを無にするかのように炎が迫る。
━━━。

 絶え間なく斬撃と爆発の音が後ろから聞こえていたが、いつのまにか聞こえなくなっていた。
おかしいと思いふと後ろを振り返る。信頼してないわけじゃない。
「おい…ありゃー…なんだよ…っ!」
セネルが後ろ振り返ると、巨大なドーム状の炎が形作り、少しずつその姿を縮めていく。
炎の接地面と通り過ぎた後を見ると、全てが黒い灰と化していた。
「万物に宿りし生命の水よ、氷となり吹雪となり、我に仇名す者を白き刃で凍てつかせろ!ストームガスト!!」
ユニーとバルジが水属性の魔法を何度も放つが、炎の壁はびくともしない。
中にラクたちがいるのは、状況からして明白。
「信じろ…!オレらにはオレらのやることがあんだろーがよ!」
自ら振り返り、炎の壁を目にするも、セネルは動じない。
今まで幾多の死線を共に乗り越えてきたかたい絆。
しかしそれさえも飲み込むように炎の壁は、ゆっくりとその身体を小さくしていく。
━━━。

 迫り来る炎の壁。
徐々に熱くなると共に、身体を恐怖が駆け巡る。
ソニックエッジを何度も当てるが、火炎が全てを飲み込んでいく。
「無駄だ。その炎は地獄から召喚した獄炎…!全てを焼き尽くすまで私にも消すことはできん!」
グルームは自分も死ぬというのに、オレを殺せるからか、勝利の余韻に浸ったような表情を浮かべる。
無敵なんてこの世には無いんだ。
必ず何処かに突破口はあるはずだ!
「こちらからも仕掛けさせて貰うぞ!」
ヤツがこっちに向かって足を進めた時だった。
「何か…何かあるはずなんだ…!」
アイツが足を上げた瞬間、すぐさま炎の壁が地面から生えてくるようにしてその隙間を埋めた。
「何だ?」
“埋めた”?
再び向かってくるグルームの足に注目した。
シュウウウーーー…━━。
やはりそうだ。
ヤツが足を運ぶ瞬間に炎の壁がそこを埋めるが、その一瞬だけ僅かな隙間が生じるのだ。
「簡単な出口があんじゃねーかよ…っ!」
レヒテとリンケを再び構える。
しかしヤツが向かってくるスピードと、壁自体が進むスピードを考えるともう時間が無い。
「何に気づいたか知らないが、直にお前らは死ぬのだ!」
考えてる時間は無い!
「おおおおおおお!!」
「跡形も無くなれ人間!」
グルームの爆発する拳が連打して繰り出される。
ズガガガガ…キキキィィーィィイイン……━━━。
二刀で連続して拳は止めれるものの、それでも攻撃に転じる隙がない。
「ちぃ…っ!」
だけど徐々に攻撃を受け流すことで、ヤツに近づけている。が、肝心のヤツを倒す方法が見つからない。
「…!!」
オレは今二本の剣を持ってるのに気づいた。自分でもあれだけ言っていたのに忘れていた。
自分で今頃気づいた事が恥ずかしく思ったのか、少し苦笑いが毀れた。
「どうした?攻撃を避けるだけじゃ勝てないぞ。私を倒すんじゃなかったのか?」
暴走したかのように嘲笑している。
考えられる限りで、一番強い攻撃と言ったらあれしかない。
「く…っ……最後まで…っ待ってろ…っ!」
ミシミシ…メキ…━━。
体中が燃える様に熱くなる。
バーサクをした所為か、ボロボロの身体の痛みが再び戻って、その上からバーサクの痛みが加わる。
「っつ…!」
ヤツの巨大な両腕を交互に跳び渡り駆け上がる。
「ちょこまかと…!」
右腕を駆け上がればヤツの左腕が、左腕を駆け上がればヤツの右腕がオレを執拗に追いかけてくる。
しかし剣を二本持っているが故に、攻撃を捌き尚且つ攻撃を繰り出す事ができる。
「近くまで来られると…流石に焦るか…?」
ヒュン…━━。
リンケをヤツの顔目掛けて放り投げる。
「…っ!!」
恐怖の感情を持つ生物であれば、突然目の前に飛んで来た物がなんであれ、目を背けるかまたは瞑るのが普通だ。
グルームとて例外ではない。
上に跳び天井の枠組みを足場にして、グルームの頭上に飛び込み空中でリンケを掴み、そのままレヒテとリンケをヤツの身体に振り下ろす。
両腕でガードする素振りを見せるが、焦点の定まらない防御などあってないようなもの。
「さぁ…長かった劇も…これで終幕にしようぜ…っ!!」
着地と同時にグルームへと距離を詰める。
ラグナロクを胸の前でクロスさせる様に深く構え、自らグルームの目の前に跳び込む。
「今度こそ灰となれええええええええ!!」
グルームも同時に口を開ける。
「これで終わりだあああああああああ!!」
《グローセス・ボーリングバッシュ!!》
ミシミシ…メキ…━━。
両腕に全身全霊の力を込めて、両のラグナロクを十字に振り払う。
このボーリングバッシュは、レヒテとリンケの二刀でボーリングバッシュを放ったものだ。
同時にグルームのファイヤーブレスが吐き出される。
ズシュ…バシュウウーーー…ゴオオオオォォォーーー…━━。
レヒテとリンケから無数の斬撃が飛ばされる。
オレの身体を灼熱の火炎が包み込み、徐々に焼けていくのがわかる。だが、これが最後だ。
「かかか神の…けけ化ししんである…わわ私がああああああーーーーーーーー━━━!!」
グルームは口から大量の血反吐を吐きながら、自分の腹に開いた穴を見て叫びを上げた。
オレ自身相当な火傷を負ったが、グルームの腹は予想通り細切れになって穴が開いている。
「…今の…うちに…っ!」
この身体で4人を抱えるのは容易ではないが、バーサクがかかってる状態であれば問題はない。
倒れもせずに絶命しているグルームの風穴を4人で通り抜ける。
「安心しろ…。」
ジュウウウーーー…━━。
炎の壁に飲まれていくグルームを背にして言う。
「人の世界はオレら人間が護る…。」
灰と化すグルームにそう言い残す。

「ラク…?」
その場が灰と化し炎の壁が消えると、フィオナたちが目を覚ます。
ヨウブたちほどではないが、それでも絶対安静と言った感じだ。
「誰か…!アンジェでもヒナでも誰でもいい…!誰か来てくれ…!」
みんなが戦っているだろうと思ったが、それでも叫び続けた。
しかしグルームが死んだからか、信徒たちもいつのまにか引いていた。
━━━━。

「どうだ?」
身体の表層的なダメージを取り除く事はできたらしい。
後は戻ってからの療養しかないとの事だ。
「とりあえず戻━━。」
「ラク!ちょっとこっちこい!」
ポータルを開かせようとしたとき、セネルの叫び声が響き渡った。
「もう戻るから早く…━━!!なっ…!これがなんでここに…!!」
セネルがオレを呼んだ先には、何かの装置と共に“ユミルの心臓”が置いてあった。
“ユミルの心臓”とは、神話に登場する伝説の“原初の巨人”であるユミルの力を封じ込めた物である。
それは強大な古代兵器の類で、これを使えばグルームアンダーナイトの様な強力なものが造り出せる代物だ。
「とりあえず気にはなるが…見つかる前に戻るぞ…歩けコンニャロ…。」
何故ここにあるのかも気になるが、その前にみんなの治療と、誰かにばれる前に撤退しないといけない。
セネルを強引に引きずり、セリアにポータルを開かせる。
カッカッカッ…━━。
ポータルを開いてる時だった。
“ユミルの心臓”が置いてあるその先から、誰かが歩いてくる音がしてきた。
徐々に影が支配する部位が光によって曝される。が、その声の主は寸前の所で声を上げた。
「誰だ。聖域を汚した者は!」
━━━。

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