〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第3章
第12話  【均衡】

 フレヤイ大神殿の地下深くの聖域。
そこは人々が思うような楽園ではなく、魔王モロクに対抗しようとする為に造られた“戦争の道具”そのものでしかなかった。

 ゴオオォォーー…━━。
グルームアンダーナイトの頭上には、巨大な火球が赤く燃え上がっている。
「神の意志に反するとは愚かな人間どもだ。」
ヤツが火球を振り下ろすと同時に、信徒たちと周りのモンスターが動き始めた。
しかし思った通りだ。
信徒たちとモンスターは、お互いに全く敵意を見せていない。
「殺れ。高尚なるフレイヤの信徒、エキオ、アガヴたちよ。」
茶色い服を着たエキオ、青い服を着たアガヴたちが襲い掛かる。
同時に火球が落ちる。
ズオオオォォォーーーォォオオオ……━━。
「おっせーんだよ!」
全力ではないと確信できるほどの遅さだった。
だが放たれた火球は床を溶かすほどの威力を持っていた。
「全員実験台になったってわけか…っよ!」
エキオのショーテルをかわし、グレートアックスの巨大な斧を殴りつける。
斬りつける、ではなく殴りつけたのは相手が人間の姿をしている為か、セネルにも精彩を欠いた様な動きが見られる。
「民である信徒達を巻き添えにするとはな。神の化身が聞いて呆れる。」
ヒュン…ザシュ…━━。
振り下ろされるショーテルを避けながら、エキオとアガヴたちを切り伏せる。
フィアンムが信徒達を袈裟懸けにしながら、静かに言う。
「その民を殺しているのはお前らだ。」
グルームが卑しい笑みを浮かべながら、指をさしてくる。
「神が創った命だけが本当の命、お前らが造った命はただの戦争の道具でしかないと言ったろ!」
キイィィーィィン…━━。
エキオたちのショーテルを受け止めると同時に、頭上に雷雲が渦巻く。
「魔法も使うのかこいつらはよー!」
クレナイがバク転をしながら距離を取り、ベノムナイフを投げつける。
ベノムナイフとは、アサシンが使うベノムという毒を塗りつけたナイフである。
「ギギ…。コノクライデハ神ノ信徒ハ殺セナイ…。」
中々タフな上に、きりがないほどに湧いて来る。
「接近戦だけじゃきりがねーな…。ユニー!バルジ!」
セネルたち前衛陣が、前で耐えつつ斬撃で切り伏せるが一向に減る気配がない。
全てを相手にしていたら、セネルたちの体力が先に尽きてしまうだろう。
「この星を覆う数多の流星よ、今我の力となり、その身を紅く焦して邪を滅さん!メテオストーム!!」
ドドドドド……━━。
ユニーの詠唱と同時に、魔法陣の上空から隕石が降り注ぐ。
「ク…クカカカ…ガアアアア…!!」
必死に隕石を押しとめるものの、さすがの凶暴化信徒と言えども、人間に隕石を止めれるはずがない。
集まって隕石を止める者もでたが、徐々に床に足がめり込む。
ミシ…メキメキ…バキャ…━━。
「神ノ、シシシ信徒ハァァァ…、楽園ニニニイイィィーーー行クノダアアア…!!」
ドドドドド…ズガアアアガガガガ…オオオォォ…━━。
「まぁこの調子でいきますか。」
リュウは溜息をつきながら、周りを見回す。
メテオストームで結構な数を減らしたつもりだが、まだ今のを何回も打たねばといわんばかりの数が見える。
「まぁまぁ。戦いは始まったばっかだぜ?もう終わりにするもりなんて勿体ねー…っよ!」
リュートが敵陣に飛び込み、蹴りや拳で自分の距離に入った敵を打ち倒し始める。
それを見て、セネルも羨ましそうな表情を浮かべて突っ込んだ。
「おらおらー!!セネル様に傷の一つくらいつけてみやがれー!」
グレイトアックスをぶんぶんと回しながら、思い切り床に叩きつける。
ハンマーフォールのつもりなのかしらないが、石版が捲り上がり攻撃技と化している。
「フィオナ、ルーシー、それにヨウブ!フィアンム!ラクとアイツを倒してきな!」
アズサが矢と放ちながら、フィオナに向けて言い放つ。
それを見て、ユウやアーウィン、セリアたちも賛同する。
「ザコはあたし達に任せて、頭をやっちゃって!」
アンジェがコルセオヒールを回しながら叫ぶ。
「…あいつら…随分と頼もしくなったなー。」
ルーシーが笑みを浮かべて背を向けて、グルームに向かって歩き出す。
フィオナも手を振り、背を向けてルーシーの後を着いて行く。
「ヨウブ、オレらも行くぞ。」
フィアンムに促されたヨウブは、言葉は交わさずロイと拳を交わらせて、そのまま歩き出す。
「んじゃ、ザコはオレらが華麗に倒すとしますかー!!」
エンブリオの叫びにアッシュは体制を低く構えて敵陣に足を走らせる。
敵陣につく頃には二人の姿は既に見えなくなっていた。
ザシュ…ズバ…━━。
前衛陣が戦いに入ると同時に後衛もルーシーたちに背を向けて戦い出す。
━━━━。

 キィィーン…ドガッ…━━。
「ちぃっ…!」
ヤツの懐に何度も飛び込むが、図体の割に動きがすばやくて攻撃に持っていけない。
その上、ヤツの拳には妙な不安が見え隠れする。
「口先だけか人間。」
逃げ惑うオレにグルームは勝ち誇る。
ガキィィン…━━。
「そんなに斬られたいなら斬ってやる。」
右手に持つラグナロクの刀身でグルームの拳を受け止める。
そして左手でバーサクポーションを取り出し、一気に飲み干す。
ゴク…ゴク…ガシャン…━━。
「ふぅ…。さてっと…本番と行こうぜ…!」
腕に力を込めて、刀身でグルームの拳を押し返す。
押し返すと言うよりは、押し戻してそのままグルームに走りこむ感じだ。
「おおおおおおーーー!!」
刀身を回転させ、そのまま上に切り払う。
ザシュ…ブシュウウーーー…━━。
「まだまだあああ!!」
ヤツの拳に飛び上がりそのまま肩へと駆け上がる。
しかしヤツは微動だにしない。
その上妙に足元から身体が熱くなるのを感じる。
「く…っそが…!」
気づいたときには、グルームの身体は赤く燃え上がり始めた。
シュウウウ…━━。
「灰になれ!」
グルームの言葉と同時に身体が爆発に包まれる。
ド…ッゴアアァァーン…オオオオォォォーー…━━。
どうやらヤツの体全体が爆弾の様なものらしい。
「ゲホ…ッケホ…ッ!」
爆発に包まれたと思ったら、その瞬間身体が横に飛ばされた。
「さんきゅー…な…ッゲホ…ッヨ…ウブ…。」
オレを助けてくれたのはヨウブだった。
どうやら仕方なくチャージアタックのスピードで突っ込み、爆発から遠ざけたらしい。
「これでヨウブに借りイチだな。」
クレイモアを肩に担ぎ歩いてきたのはフィアンム。
その後ろからルーシーとフィオナの姿が見える。
「一人でいい格好しようとするからだな。」
ルーシーはオレにヒールをかけながら、お説教を飛ばしてくる。
「主よ、聖なる力を以てして彼等を護りたまへ!アスムプティオ!!」
フィイイーィィン…━━。
グルームに近いオレとヨウブに、フィオナからアスムが飛ばされる。
「無茶なところは死なないと治らないのかしら?」
フィオナが呆れた様子でこちらに愚痴を飛ばす。
だがその顔は笑みで溢れていた。
「数が増えれば勝てるほど戦は甘くないぞ人間たちよ。」
人を見下すその表情。
創られた存在とその意義。
「人の“強さ”を知らないでよく言う。」
ヨウブの言葉にグルームが反応する。
「クハハ…ハハ…。人の力だと?今のお前らを見ればわかるではないか。」
「言葉の意味もわかってねーくぜに、粋がるんじゃねーよ。」
フィアンムが高らかに笑うグルームに一瞥を食らわす。
「お前は人に造られたただの“破壊者”だ。」
「神の化身に向かって“破壊者”だと?」
グルームが癇に障られた様に引っかかる。
「強大な力を誇示するだけのヤツはただの“破壊者”だってわかんねーのかよ。」
“力”は“強さ”じゃない。
“強さ”はそれに存在する根源的なものの強さだ。
「そこまで言うのなら、これから試してみるか?どちらが正しいのかをな。」
“力”は“強さ”の上に加わった表面的なものでしかないんだ。
それを見誤ったら、英雄もただの破壊者。
「最初からそのつもりだ。」
後ろで戦うセネルたちを見ると、まだ均衡を保っているようだ。
再び視線を戻すと、グルームはオレの言葉を聞いて笑みを浮かべていた。
その薄気味悪い笑みは、今までのと違う不吉な感じを発していた。
「さぁ来い。神の化身の力をその身に刻んでやろう。」
━━━━。

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