〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第3章
第11話  【Secret2〜フレイヤの化身〜】

―フレイヤ大神殿2階―
 そこでは鉄格子の扉が、重々しい雰囲気を放っている。
既に血痕の後はなく、証拠をかき消したという感じだ。
しかし、前にも感じた殺気までは消すことはできなかったらしい。
それがそこに“何か”が居るという動かぬ証拠。
━━━━。

〜PM11:00〜
 夜になるのを待って大神殿に再び足を踏み入れた。
鍵があっても、絶対に行くなと言われる場所だ。
それなりの警護や監視の目はあると見て間違いない。
「神殿関係者に見つかっても殺すな。意識を失わせるだけでいい。」
ギィ…━━。
前回と同じ窓に同じ細工を施しておいたので、そこから侵入する。
「よし、誰も居ない。今ならイケるぞ。」
例に習って、安全確保の為に4人がクローキングで先に入る。
誰も居ない事と、何も無い事を確認してから後のメンバーが全員入る。
「速度かけて、足音に気をつけて全速力で扉の前に行くぞ。」
中に全員入ったことを確認してから、窓の小石を一度取り除く。
万が一の為に、窓が開いているところを見られない為だ。
《主よ、彼等に天馬の羽ばたける翼を遣わさん。カントキャンディダス!!》
ヒュンヒュンヒュン……━━━。
小さな声でフィオナがそう唱えると、みんなにインクリースアジリティがかけられる。
「4人は常に前の気配に気を配って走れ。他は前以外を気をつけて突っ走れ。」
オレの合図と同時にみんなが床を蹴り走り出す。
間もなくして鉄格子の扉に辿り着いた。
「ヨウブ。さっきの鍵を使ってみてくれ。」
扉の前に立つヨウブをみんなが見守る。
ガチャ…ギィ…━━。
鍵が開いた音と同時に扉が開く音が聞こえた。
「よし、じゃあ支援回して中に入るが、人以外は殺せ。」
神殿の聖域にモンスターなどがいるはずがない。
そういう考えが“人以外”という言葉を選ばせたのだろう。
《主よ、死をも恐れぬ勇者に神々の息吹を与えん。クレメンティア!!》
《主よ、彼等に天馬の羽ばたける翼を遣わさん。カントキャンディダス!!》
クレメンティアをかけ、再度カントキャンディダスをかけなおす。
その間にハイプリーストのセリアたちはアスムをみんなに回す。
「さて、いこっかい。」
セネルが斧を肩に乗せて言った。
その顔は戦闘を楽しむ顔をしている。
が、セネルのその顔はみんなに頼もしさを与えるモノでもある。
「気ぃ抜くなよ。」
オレが階段に足をかけると、後ろからみんながついて来た。

今、聖域とは名ばかりの地獄に足をかけたことは誰も知らない。
━━━━。

 “聖域”と呼ばれるだけの神秘さがそこにはあった。
だがそれは、偽りのモノじゃないかと疑わせる、様々な装飾、凝った造りで一杯だった。
「ここが“聖域”?」
教皇も立ち入れないという聖域がここなのか?
不思議な違和感は感じ取れるが正体がわからない。
「とりあえずあそこに見えるのが次の階層への入り口だろ。」
神殿2階から結構下ってきた所が聖域の入り口であり、イコール入り口は聖域の位置としては高い所にある。
見晴らしが良く、奥まで見渡せる高台みたいな場所が聖域の入り口だった。
「見たところオレたち以外に何も居ないから突っ走ってくぞ。」
そう言うやいなや、セネルが先頭を駆け出す。
「いっちばんのーりー!」
叫びながら駆ける姿は、まるで子供がスキップをしているのと同じ感じに見える。
みんなは呆れながらもセネルの後をついていく。
「このポータルに入ればいいんだな?」
ヒュン…━━。
「おい待…っあんのヤロウ!」
セネルが無用心にも先に一人でポータルに入って消えた。
「あのバカ…!仕方ねぇーからオレらも入るぞ。」
仕方なくセネルの後に続いてポータルに足を踏み入れる。
ヒュン…━━。

 ポータルを抜けた先には、先程の一層とは違う雰囲気に包まれている。
どこか他の場所とは違う、不思議な力が感じられる…。
「なんか変だな。」
ルーシーが辺りを見回しながら前へ足を運ぶ。
みんなは離れすぎない程度に広がり、ルーシーの後を付いていく。
ズン…ズン…━━。
「おい…。何…だ…?この揺れ…は…?」
セネルの声は振動に遮られるように、途切れ途切れになる。
それにしても、この前感じた殺気に少し似ている気がする。
「おい、あれ…。」
エンブリオが指を向けた方向には、巨大な何かがこちらに歩いてきているのが見えた。
モンスター以前に、同じ生き物とは思えない、底知れない不吉な感じを漂わせている。
「私はフレイヤの化身にして、聖域のガーディアン。」
白い透き通る肌が時折白銀の様に輝き、背中からは火柱が立ち上る。
両の拳には、何かの呪術かルーン文字、或いは何かの古代文字が赤で書かれているのが見える。
「そして魔王モロクを排除する者。」
突然訳のわからないことを言い始める。
こいつがフレイヤの化身だと?
「我が名はグルームアンダーナイト。」
こいつがどうやら、オレらが殺気を感じ取ったヤツらしい。
自分をフレイヤの化身と言い、魔王モロクを排除すると言っている。
「この聖域には何がある?」
グルームアンダーナイトと名乗る者に、ここに在る謎を聞いてみた。
「何も在りはしない。言えるのはここが人類の聖域であるという事。」
こいつも此処で造られたのか?
生き物に見えなくもないが、プログラムにも見えて仕方ない。
「話は終わりだ侵入者。聖域を荒した罰を、死で償ってもらう。」
ヒュンヒュン…━━。
静かだった聖域が急速に息を吹き返す。
グルームが両腕を上げると同時に、ヤツの周りに信徒の格好をした者たちが現れる。
「人間…?」
ハロルドが信徒たちを見て驚く。
人間だとしても様子がおかしい。
血まみれの武器を持ち、服は無数の返り血で赤く染まっている。
「フレイヤ様ノ為ニ死ンデ貰ウ。」
正気を失っているのか、信徒たちは凶器を振りかざし襲い掛かってくる。
どうやら言っても聞かなさそうだ。
「ガルルルル…!!」
騒ぎを聞きつけてか、オレらの周りにはたくさんのモンスターたちが集まってきていた。
「何でこんな所に…!モンスターがこんなにいんだよ…!」
みんなは慌てて武器を取り出す。
しかしどれも見覚えの無いモンスターばかりだ。
「名前はホドレムリン。どうやらグレムリンの強化版の様ですね。」
グレムリンとは、生息範囲があまり広くない為有名ではないが、そこそこの強さを持つモンスターである。
本来“小悪魔”の意味を持つグレムリンだが、その風貌は異形の生物のそれに他ならない。
「強化版?ってことは、人工生物か?」
ファマスが楽器を取りながら聞く。
他の場所で見たことないなら、ファマスの言うとおり人工生物なのだろう。
「とりあえず先に進むには戦うしかなさそうだな。」
ラグナロクを鞘から抜いて構える。
オレとほぼ同時に構えに入ったルーシーが杖を構えて詠唱を始める。
そして他のプリーストたちも支援の準備をし始める。
「神の化身である私と戦おうと言うのか、人間よ。」
グルームアンダーナイトが両手を掲げると、巨大な火の玉が生成され始める。
「ねぇ…。もしかしてあれでファイアーボールとか言う…の…?」
ユニーが火の玉を見て、呆然としている。
もしあれがファイアーボールだとしたら、かなりのレベル差だということだ。
「確認の為聞いておくが、お前は元々この世に居た存在か?それとも創られた存在か?」
オレの質問にグルームは動きを止める。
「私はこの国の信仰心と“ユミル”の力によって創られた。」
“ユミル”と言ったか?
あいつが言った通りならば、何でここに“ユミル”があるかも問題だ。
「そうか…。創られた存在なんだな…。」
創られた命ほど哀れなものはない。
レッケンベルの実験に使われたフェイルとヤツが重なる。
「創られた存在と知って何かが変わるのか。」
グルームは再び喋り始める。
意思疎通ができるのか、グルームが止まっている時は信徒たちも動かない。
「神の化身ってのは人が創れるようなもんじゃねーんだ。」
この国に、フレイヤに対しての信仰心があるのは認めよう。
ただ、力の使い方が間違ってる。
「人の意思が生むのはお前みたいなヤツなんかじゃねー。」
タナトスも、フェイルも、かつてのオレもそうだった。
「…。」
グルームはただ沈黙を守り、オレの言葉を聴いている。
「人の意思が生むのは、どんなものにも屈しない“意志”と“勇気”だ。」
こいつに罪は無い。
ただ、このまま野放しにするわけにもいかない。
戦争の火種はその場で断ち切る。
「お前はただの戦争の“道具”でしかない。人には戦争の道具なんていらない。」
その言葉に反応してか、周りの信徒たちがピクリと動く。
グルームの癇に障ったのか。
「ならどうする。」
再び火の玉が大きくなり始め、同時に信徒たちがジリジリと近づいてくる。
ジャリ…━━。
一歩踏み出る。
「お前をここで倒す。それだけだ。」
グルームは人間の様に笑みを零した。
━━━━。

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