〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第3章
第8話  【開かない扉】

 どこの世界にも見解の相違などから、人種差別は生まれる。
ここ神聖都市アルナベルツにもそれは存在し、ことおいて首都のラヘルはそれが顕著である。
人種が違う間で結婚をしようとすると悉く親族にもみ消され、
もし隠してでも結婚をしようならば、ばれたら罪に問われる程である。
━━━━━。

―アルナベルツ首都ラヘル・ジェド邸宅―
 ラヘルに戻るやいなや、ジェド邸宅にいるビンセントに直行。
事の真相を確かめ、何であんな真似をしたのか聞くためだ。
バン…!!
ドアを荒々しく開けると、感情に任せてそのまま怒鳴る。
「ビンセントさん。何であんな真似をしたんですか…!!」
ビンセントはオレの怒気に負けたのか、ずっと押し黙っている。
やはり宝石以外にも何か問題があるのだろう。
「暗殺の件も含めて…全部、私の責任だ…。」
自分たちだけならまだしも、幼いフォビエも居たというのに、ビンセントさんがそこまでする理由は何だ?
「実はフォビエは……、私とジェニーの子供…なんだ…。」
『!?』
その場に居るフォビエとビンセント以外のみんなが驚いた。
「実の息子ならなおさら━━!」
「私とジェニーの…人種が違うからです。」
この国はとても人種差別が強いと聞く。
傍目ではわからないが、ここに暮らし始めた旅人たちにはそれが人目でわかるほど激しいものらしい。
「私達にそれがばれない為にこんな真似を…?」
フィオナが俯いた表情で喋りかける。
「それと今回の件を余所者の貴方たちの所為にすれば、私の失敗を隠すことができ、ジェド大神官の顔も保たれますので…。」
なるほど。
ということは、
「自分の失敗をもみ消す為に外部の者を使いたいが、それでは自分達の素性もバレてしまう可能性があるから亡き者に。ですか。」
ルーシーが淡々と述べると、ビンセントは黙ったまま頷いた。
「とりあえずこの事は隠しておきましょう。それと頼まれていた宝石です。」
オレが言うと、ユウがフォビエを前に出す。
「え、あ…、私を許してくれるのですか…?」
フォビエを見ながら、涙が溢れ出るのを堪えながらビンセントは喋る。
許す許さないというよりは、許すほかないというか…。
「もう一度聞きたいのですが、貴方とジェニーさんの人種は異なり、結婚は隠し通したまま、子供のフォビエが生まれた。」
オレの言葉にビンセントとフォビエは固唾を呑む。
「しかしそれがばれたらいけない為、ジェニーとフォビエに冷たく接していたと。それでフォビエが困らせようとして。」
本当は家族が笑って過ごせればいいのにな。
こういう場所で勤めている限り、それは叶わないのだろうけど。
「フォビエはわかったか?君のお父さんは家族の事を毎日考えてるんだぞ。」
フォビエは緊張の糸が途切れたように泣き出し、ビンセントへ駆け寄った。
ビンセントも息子を受け止めると、一筋の涙を頬に流した。
「じゃあこれで一件落着ってことで。ジェニーさんも含めて幸せに過ごしてください。」
オレが軽く会釈をすると、みんなも軽く会釈をし、階段を下りる。
最後にオレが降りようとしたときに、ビンセントが近づいてきた。
「この宝石を私のこの手紙と一緒に、フレイヤ大神殿にいるジェド大神官に持っていってください。」
ビンセントは先ほどオレたちが渡した宝石に、今までの経緯を書き綴った手紙と一緒に渡してきた。
「わかりました。では。」
確かに受け取ったと、二つを持って見せ、邸宅を後にした。
━━━━━。

 首都ラヘルには、街の北へ歩くと大きい建物が見えてくる。
フレイヤの信徒達が時には数千も集まるといわれている神殿。
セスルニムル・フレイヤ大神殿である。

 邸宅を後にしたオレらは、直接その足で神殿へ向かった。
「プロンテラの大聖堂と比較にならないなこれは…。」
ユウとアーウィンが神殿を真上に見上げて言った。
確かにこれはプロンテラの大聖堂とは比べ物にならないでかさだ。
「さすが宗教国家と言ったとこだろ。」
プロンテラにも宗教はあるが、国の大本が宗教と関係している訳ではない。
ルーシーが落ち着いて横を通り過ぎ、そのまま中に通じる扉に手をかける。
ガタガタ…━━。
「開かない…?」
何度も扉を開けようとしていると、後ろから声が聞こえてくる。
「あ、すいません。先ほど扉の調子がおかしくなってしまって…。」
神官の姿をした若い女性が駆けて来る。
どことなく知的な雰囲気がするのは、その神官の格好からだろう。
「申し遅れました。私は大神殿に仕える神官のネマと申します。」
ネマと名乗る女性は、爽やかな青色の髪の毛を靡かせて軽くお辞儀をする。
男性陣はそれに見とれて、返事が遅れる。
バシ…!!
「ちょっとあんた達何鼻の下伸ばしてるのさ。」
ヒナが男性陣の頭をパコパコと聖書で叩いていく。
聖書と言っても、かなりの重量と大きさのため、杖などの代わりに持つ者がいるほどだ。
「中とは連絡が取れないんですか?」
アンジェが叩かれる男性陣を尻目に、ネマに問いただす。
「中に双子の妹のパノ神官が居るのですが、中からも声がしなくてどうしたらいいか…。」
ネマは少しずつ慌てふためく。
「そういえば街の子供達が、いつも神殿の近くで遊んでいるんですけど、何か秘密の通路があるとか言ってたような…?」
辺りをうろついては、なお慌てふためいている。
「秘密の通路…ですか?」
オレの声が慌てふためいているネマに届いたのか、ネマはそこで足を止める。
「秘密の通路と言っても、何かイタズラをしてるだけって話でもあるんですよ。」
商店街とかそっちの方の子供達の事だろうか?
「ジェド大神官に御用があるので、私達もお手伝いしましょう。」
とりあえず中に入る為には、自分達も何かできれば、早く解決するに越したことはない。
嘘とも言い切れないし、街の子供達に聞いてみるか。
「じゃあ、街の子供達に聞いて来ますね。」
セリアが去り際に言葉と共に軽く礼をし、セスルニムルを後にした。
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―首都ラヘル南東・フレイヤの泉―
 ここラヘルの街の南東には、緑が生い茂り、綺麗な水が沸く泉がある。
子供からお年寄りまで、皆ここを憩いの場として使うらしい。
当然その子供の中には、遊び疲れた子供たちや等も混ざっている。

 街の一角に、緑が生い茂り、水が沸き、とても涼しそうな雰囲気を醸し出す泉がある。
そこには鬱陶しい熱波を出す太陽から、青々しい深緑が陰を下ろし、通りすがる人々を虜にしていた。
「君達ちょっといいかな?」
泉の池を眺める数人の少年たちに尋ねた。
いかにもヤンチャボウズって感じを出している。
「おにーさんたち誰?」
少年たちは、オレたちの服装が周りとは違う事に興味を示している。
「神殿の関係者なんだけど、フレイヤ大神殿の秘密の通路って知らないかな?」
何に反応したのかわからないが、少年たちは顔を見合ってクスクス笑い出した。
多分知っているのだろう。
「おにーさんたちに教えても良いけど、僕たち飴欲しいなー。」
子供お得意のおねだりか。
まー、こういう時の為の…。
「セネル。カートに飴くらいあんだろ?この子たちに上げてくれ。」
セネルがカートの中を漁ると、飴玉が姿を現す。
カートの中には大抵何でも入っている。セネルだけ。
「えとねー、秘密の通路はね━━。」
なるほど。
子供の悪知恵も捨てたモンじゃないかな。
「じゃーお礼にまたお菓子を上げちゃおう。」
アリスがカートの中をセネルと同じように漁る。
すると菓子袋と思われるモノが出てきた。
「わー、おねーちゃんすごーい!魔法使いなの!?」
アリスはクスクス笑うと手をひらひら振りながら、子供達の前から去る。
オレたちも少年たちに礼をして、アリスの後を追った。
━━━━。

 再びセスルニムル・フレイヤ大神殿前。
ネマに気づかれないように、そぉーっと外回りをする。
「多分ここらへんだな。」
神殿を正面に見て左の奥の方。
そう少年たちが言っていたのを思い出す。
「お、あそこじゃないか?」
アッシュが指を向けた窓には、わずかだが隙間が見える。
《小石を置いてあるから、閉まらないようになってるんだ。》
少年たちの言葉がまた浮き上がる。
「気づかれないうちに早く入るぞ。」
神殿関係者はネマしか居ないとはいえ、誰が見てるかわからない。
オレは最後まで、みんなが入るのを確認して、辺りを見回す。
「誰も居ないな。」
━━━━。
―神殿内どこかわからないところ―
 神殿のどこからか、不吉な声が聞こえる。
声と言うよりは、何かの叫び声の様な…。
それと同じく、人か獣かわからないが血の匂いも風に乗ってくる。
「ガアアア…ッ!!」
ザシュ…ヴォオオオオ…━━。
“得体の知れない者”が、“それ”に斬られ、そして燃えていく。
死体と化した“得体の知れない者”の強烈な腐臭が充満する。
「私はフレイヤの化身。悪なる者に天罰を下す者なり。」
“それ”の周りには、血の付いた凶器を持った教徒の様な人間が数人付いて廻っている。
「偉大なる神の化身━━━よ。我らの未来を切り開く最後の切り札。」
名前が聞こえない。
“それ”の名前を呼んだ人間は、どこか高貴な衣服を身に纏っている。
━━━━。

ミッドガルド王国のアサシンギルド。
シュバルツガルド共和国のレッケンベル。
そして、アルナベルツ教国のフレイヤ神殿。
今、邪悪な者たちのそれぞれの思惑が世界を混沌へと導かん。
━━━━。

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