〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第3章
第7話  【真相】

 ―氷の洞窟三層・中心部―
 本来居るはずのない氷の支配者クトルラナックスが中心部に現れた。
そして、極寒の地とも言われる氷の洞窟内部は、戦いの激しさにより熱気を発している。
まるで戦いが激しくなると、呼応するように熱く。
━━━━━。

 キィィーーン…ガシャン…━━。
ラグナロクが氷の尻尾と交わる。
「ならこれでええええ!」
後ろに宙返りしながら、ソニックエッジを放つ。
「笑止。」
クトウラナックスは微動だにせず、尻尾だけでソニックエッジを弾き落とした。
そして巨体とは思えないほど、蜘蛛の様に壁をよじ登り駆けてくる。
「おおおおおお!!」
宙返りの着地と同時に、頭上に向かってくるクトルラナックスに斬り上げる。
「我に力だけでは辿り着けぬ。」
尻尾を再び頭上から振り下ろす。
確かに、ヤツの言うとおり、4本足に尻尾があるヤツのが上手だろう。
それに術もある。
「力だけしか見えてないだけだろ!」
体を反転させ、尻尾に脚を乗せる。
そして振り下ろされる前に胴体目掛けて跳ぶ。
ザシュ…━━━。
「ッ…!!やるな若き人間。」
クトルラナックスの右脇腹に一閃を加えた。
が、ヤツの氷の表皮の為か、思ったよりダメージが通っていないらしい。
「少々本気を出させて貰うぞ。」
クトルラナックスの両手足に冷気が走る。
「ああ、そうしろ。死にたくないならな!!」
ツーハンドクイッケンと同時にラグナロクにオーラを吹き込む。
そして敵が動き出す前にコンセントレーション。
「吹雪に飲まれて死ね!」
気づくと眼前にクトルラナックスの右腕が迫っていた。
「こんなスピードで、当たってたまるかよ!」
避けるのは余裕だった。
だが、右腕の冷気までは避けられなかったのか、体がひどくぶれる。
「我の拳は、ただ破壊の為に非ず。拳一発一発にストームガストが込められている故、完全に避けきらぬ限り凍え死ぬぞ。」
ヤツの属性攻撃って事か。
並のザコの属性攻撃とはレベルがまるで違う。
避け切れなかった部分が氷付けになっちまう。
「たとえお前がいくら強かろうと、オレが負けるわけにはいかねーんだああああ!!」
ブシュウウウーーー…━━。
凍りかけた足にラグナロクを突き刺し、無理やり氷を割り、凍傷しかけた足の感覚を取り戻す。
「見事な即断即行だ。」
ブオオオォォーーーン…━━。
巨大な尻尾が洞窟内を暴れまわる様に振り回される。
「ルーンに秘められし大地の力よ、このルーンストーンに宿りたまえ。ジャイアントグロウス!!」
手に取ったルーンが緑色の光を放ち、オレを包み込む。
ドガアアーー…━━。
「なっ…!剣一本で止めただと…!?」
クトルラナックスは、今までそんなことはなかったと言うような顔をしている。
ジャイアントグロウスは、スリサズというルーンストーンを消費する代わりに、使用者の筋力を数分間上げる能力を持つ。
「悪いがオレが本気を出した以上、お前には死んでもらう。」
力が漲って来る。
だが力に溺れるな。
「はあああ!!」
ラグナロクを渾身の力を込めて、尻尾に振り下ろす。
バキバキ…ザシューー…━━。
「ぐっ…!我の尻尾をよくも、よくもおおおおお!!」
ゴオオオオーーーピシシ…ミキ…メキ…━━。
オレを囲む様にして、ストームガストが放たれる。
「戦場に散りし数多の英霊たちよ、その無念を糧とし我が盾とならん。ミレニアムシールド!!」
吹き荒れる嵐の中、オレの周りに光る盾が現れる。
ミレニアムシールドは、ルーンストーン・ベルカナを消費し、自分の周りに魔法の盾を張るスキルである。
キリエエレイソンなどとは違い、回数制限により攻撃を防ぐ。
「冷静を失くした時点で、お前に勝機は無いんだよ。」
我を失くした相手ほど、斬りやすいものはいない。
一瞬でがら空きの頭上を取る。
「人間ごときが、我の頭を足蹴に!」
両手がオレの両側から迫る。
《ルーンに刻まれし火の精霊たちよ、今封印を解かん。》
「燃え盛れ、イグニッションブレイク!!」
ブアアァァァーーーボオオオオーーー……━━。
脳天に突き刺したラグナロクから爆風が舞い上がる。
迫っていたヤツの両腕も彼方に吹っ飛び、胴体も無残に傷だらけ、いや火傷を負っていた。
「無念に散りし戦場の戦士たちよ、その熱き魂を呼び覚まし、この剣に力を注がん。」
クトルラナックスはもがくだけしかできず、暴れまわっている。
「まだだ!まだ終わりはしないぞ!」
そう言うと、ちぎれたはずの両腕が、元あった場所から生えてくる。
氷の魔獣だから、腕が氷で再生したのだろう。
「これで終わりだ!クラッシュブレイク!!」
ザシュ…ズガガガ…━━。
脳天に一撃、ラグナロクを突き刺した。
突いたというよりは、岩を砕くような音が響き渡る。
クラッシュブレイクは肉体の能力を上げるジャイアントグロウスとは異なり、武器の能力を最大限引き出すスキルである。
ちなみにオーラブレイドとは、“能力を引き出す”のと“能力を上げる”点で異なる。
クラッシュブレイクを使用する場合には、ライゾと呼ばれるルーンストーンを消費する。
―――――――――――――――――――――――――――
オーディン!! どうか、トールの炎からここを守ってくれ!!
グォオオオオオオオオオ!!
―――――――――――――――――――――――――――
クルトラナックスは激しい断末魔を上げて、その氷の巨躯を溶かしていった。
━━━━━。

 クルトラナックスが倒されたのを見て驚いてる男に近づく。
オレが倒した事を驚いたのは、みんなよりこの男の方だろう。
「ローガンさん。あんたの目的は何だ。」
ガタガタと震える男に質問を飛ばす。
少年の方が平然と座っている様子だ。
「ロ、ローガン…?オ、オ、オレはモーガンだバカヤロウ!」
まさかとは思っていたが人違いか。
「まーそれはどうでもいい。お前の目的は何だ?どうしてこんな事をした。」
男は予定が狂ったことにひどく怯えている。
「あんたらにガキの依頼を、た、頼んだ…ビンセントって野郎に言われて…!」
「なっ…。」
驚くオレらを他所に、男は次々と喋り続ける。
「誘い込んで、殺せば報酬をやると言われて、それで…!頼む…!見逃してくれ…!」
深く考え込むオレに必死に懇願するモーガン。
視界には入っているが、頭の中にはなかった。
代わりにルーシーが対応して、ヤツをこっぴどく叱った様で、少年を置いて帰っていった。
「とりあえずここは危険だ。君がフォビエだな?」
少年のロープをほどき、もう一度名前を聞く。
「うん。おにーさんたちは誰?」
フォビエのポケットから少し光が漏れているのに気づいた。
「フォビエ、私達はビンセントさんに言われて、君とそのポケットの中の物を返して貰いに来たんだよ。」
ビンセントの名前を出すとフォビエの様子があからさまに変わった。
「あんな人大嫌いだい!この宝石も返すもんか!」
相当ビンセントの事を嫌っているらしい。
飛び出した理由は、ビンセントが関係しているのか?
「とりあえず君とその宝石を連れ戻すよう言われている。」
とりあえず理由は後だ。
クトルラナックスと戦うことになっていなければとっくに脱出しているのに。
「ハロルド、ユーナ。フォビエを頼む。」
フォビエの手をユーナに渡して二人に面倒を見させる。
男が力づくで何とかするよりはましだろう。
「アーウィン。ラヘルのポータルを出してくれ。」
イイイィィィーーーーン……━━。
アーウィンがラヘルのポータルを出すと同時に、フォビエたちを先に入らせる。
「ラヘルってのは結構でかい宗教の国なんだな。」
みんなが入った後にルーシーが呟く。
確かに、これだけの宝石がそれだけの犠牲を生むのであれば、この国に宗教が相当根付いているという事だろう。
「まぁ、これでオレたちはこの国に関係を持つことができたからいいだろ。」
そう言い残して、ルーシーに手を振りながらポータルに足をかける。
━━━━━。

inserted by FC2 system