〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第3章
第1話  【侵食】

 宴から幾日かが過ぎた。
 あの次の日、レンを綺麗に正装させ、穴に埋めた。
 女性陣に身なりを整えられたレンは、ロードナイトの気品をより一層際立たせていた。
 ――――。

「喜んでくれたかな…。」
 アンジェがレンの墓の前でヒナに呟く。
「…きっと喜んでくれてるよ。」
 ヒナが少し間を置いてから返事を返す。
 二人を2階の廊下から見下ろしていたが、二人の背中からは寂しさしか感じられなかった。
「ラクー覗き見なんてやめろよな〜。」
 廊下の奥からソラの声が聞こえてくる。
 気配りの差かどうか知らないが、今もなお悲しむ女性陣をよそに、男性陣はケロっとしている。
「遊んでないでやることやれよな。」
 オレは投げやりに返事を飛ばした。
 男性陣が悲しむ素振りを見せないのは、多分気丈に振舞っているだからなのだろう。
 ルーシーがその良い例だ。
「やる事をやりに来ただけなのにさー。」
 廊下の反対側を指差して言った。
「お体の方は大丈夫ですかラクティヴ殿。」
 そこに立っていたのは綱吉だった。
 タナトス討伐の一回目お世話になったきりで、十分なお礼も言えなかった。
「あの時はありがとう。今回はどうした…――?」
 コンコン…――。
 その時突然ギルドに訪問者が来たようだ。
 ドアをノックする音、それに反応して誰かが駆けていく音が聞こえた。
「はいー。どちらさ…――!?」
 対応に出たアズサが声を止める。
 それに気づいたアッシュが居間から覗き込む。
「王国の…アサシンたち…!?」
 その声に居間に居たみんなが反応する。
 一階の尋常じゃない騒ぎにオレたちも気づいた。
「何の御用でしょうか?」
 アズサはうろたえるのを一瞬で止め、すぐさま応対した。
 そこには王国の印を烙印したアサシンの衣装に身を包んだ男たちが5,6人とプリースト1人が立っていた。
「Thousand Brave’sのマスターラクティヴとハイプリーストのソラを出して頂こう。」
 先頭のアサシンが喋るたびに、重く、冷たい殺気がビリビリと飛ばされてくるのがわかった。
 アズサはすぐさま呼びに動いた。
 相手が百戦錬磨を思わせるアサシンであり、それが一人ではなかったからだ。
「ラ…――。」
「オレをお呼びか?王国のアサシンが6人とは、一体オレに何の用だ。」
 玄関近くでその内容が聞き取れたオレは、アズサを後ろに退けて名乗りでた。
「『何の用だ』とは白々しい。よもやバレていないと思っているわけでもあるまい。」
 オレの返事に気を悪くしたのか、アサシンは殺気を増して喋った。
「“宿命の子”フィオナの逃亡にギルド一丸で肩入れした罪は、極刑を以て償ってもらうぞ。」
 まだ穏便に行きたかったが仕方ない。
 こうなったら全員…。
「と言いたい所だが、今日はその件の事で王国から使者として参ったのでな。」
 アサシンはオレの殺気に気づいたのか、更に言葉を並べた。
「とりあえずハイプリーストのソラと貴殿のお二方にお話があるので、上がらせて頂こうか。」
 拒む理由もないし、相手はオレらが犯罪人だと知っている。
 仕方なくギルド内に招き入れた。
「あんだけ殺気出しまくりで来られたら、サルでも気づくって…。」
 2階の階段を下りてくるソラの声が聞こえて来た。
 その様子は、緊張感の欠片もなく、頭をぼりぼりかきながら寝起きの様だった。
 ―――。

 カチャ…カチャ…――。
 居間のテーブルに座るアサシンとプリーストに紅茶が配られる。
 客人は客人だが、招かれざる客人と言った所か。
 アンジェとヒナは、いつもと違う客に緊張している様子だ。
「で、何の用だ?」
 全員に紅茶が行き渡った所で、ルーシーが話を切り出した。
 テーブルの窓側にアサシンたち、キッチン側のテーブルにはオレとソラ、それ以外は後ろで立っている。
「先ほども言った通り、貴方たちは今王国では第一級犯罪者として賞金首になっている。」
 その言葉に驚く者もいたが、ほとんどが予想していたと言う風な顔をしている。
 オレも予想していたことだ。
「だが王国は、ハイプリーストのソラをある仕事の為に差し出せば、賞金首の件も全て水に流すと言っている。」
 この言葉で皆が驚いた。
 何でソラなんだ?ある仕事?全部許す?
 たくさんの疑問が、みんなの頭に生まれただろう。
「ある仕事?」
 隣に座るソラが口を開いた。
「それは極秘任務ですので、私たちも知らされてはおりません。」
 極秘任務?
 それにお抱えの聖職者たちなら、王国内にもいるだろう。
「そんな危険かも知れない任務に、易々とソラを渡せると思うか?」
 これが普通の返答だろう。
 だが、今は立場が違う…。そう簡単に行くはずも無い。
「立場をわきまえてください。全員極刑を選ぶおつもりか。」
 リーダー格らしきアサシンの隣に座るアサシンが言った。
 何が何でもソラを連れて帰りたいって事か。
「オレが行けば済む話なんだろ。」
 ソラがゆっくりと口を開いた。
「ただし、あんたらが約束を破った場合は、こいつらがあんたらを殺す。」
 ソラがオレを指差しながら、アサシンたちに向かって強気の姿勢を見せる。
 アサシンたちは微動だにしない。
「最後の言葉は気に入りませんが良いでしょう。約束は破りませんから。」
 アサシンはふっと笑みを浮かべたが、どこか殺気が感じられる。
「では早速プロンテラに行きましょうか。」
 その言葉にアサシンたちはガタガタと席を立ち始める。
 同時にプリーストが静かに詠唱を始めた。
「…何かあったら、オレらの事は気にせず逃げろ。」
 オレはソラが横を通る際に、小さい声で呟く。
 ソラは言葉にはしなかったが、小さく顔を縦に振るのが見えた。
「では、これにて失礼します。」
 ヒュン…――。
 ワープポータルの渦が静かに消えていく。

「ラク、いいのか?」
 クレナイが椅子に腰をかけて言う。
「ソラがオレらの為を思って自分で行ったんだ。止められはしないさ。」
 ソラの強気な態度は、オレらへの信頼の証。
 それを止めてまで、あの場を潜り抜ける必要は無い。
「いや…、そうじゃなくてな。」
 クレナイが頭を抱えながら、口を濁らせた。
「さっきのヤツらなんだが…。」
 先ほどのアサシンの事を言おうとすると、また口を濁らせる。
「あの方達は、アサシンギルドの所謂“過激派”と呼ばれるグループなんですよ。」
 後ろからリュウの声が、オレとクレナイの間へと飛び出す。
「“過激派”?」
 わけもわからぬままクレナイとリュウに質問を投げかける。
「文字通り“過激”な行動をするアサシンの一派の事です。」
 クレナイが頭を抱えながら頷くのが見えた。
 それを横目にリュウは話を続ける。
「アサシンギルドは元は、“正義”ではない“悪”の側、又は妨げになる組織の要人等を殺す事を生業としたギルドだった。」
 無駄な殺しはしないってことか。
 今のアサシンギルドとはまるで正反対だな。
「しかし時を経るにつれて、ただ殺しを楽しむ者達が出てきた。それが“過激派”であり、今のアサシンギルドです。」
 リュウは顔を歪め、クレナイは机に顔を伏せた。
 この二人は少なくとも“過激派”側の人間じゃなく、なおかつそれがアサシンギルドだと思われ、心が痛んでいるのだろう。
「今のアサシンギルドのマスターであるカーティスは、“過激派”の出であり、一アサシンの時代は一般市民をも玩具の様に殺していた殺人鬼なんです。」
 カーティス。
 オレも騎士団の任務や、団長から何度か聞いたことがある。
「一方“過激派”と対立している“穏健派”は、ギルド創設時と同じ思想を持つ者達の集団であり、オレたちが所属する一派です。」
 “過激派”と“穏健派”。
 アサシンギルドの内部抗争も複雑なモノだとわからされた。
「それなのに、“過激派”の一派を王国上層部が使者としてよこすなんて、何かあるとしか思えない…。」
 確かに、カーティスと呼ばれる男は、団長の話だと毛嫌いされていた。
 なのにそれを上層部が使者として使いに出すのはおかしい。
 それになんでソラなんだ?
「とりあえず、何か起こってるのは間違いないだろ。」
 セネルが反対側の椅子にドカっと腰をかける。
「だけど、私たちには私たちのやる事がある。」
 マスミがセネルに続く。
「そうだな。とりあえずアルナベルツ教国の首都ラヘルに、魔王モロク関連について調べるとするか。」
 皆の意見をまとめるように言う。
 それを聞き分けた様に、皆が頷く。
「それより綱吉、今日はどうしたんだ?」
 すっかり忘れていたが、何気なく綱吉に話を振った。
「…先日、ルーンミッドガルド王国国王であるトリスタン3世が行方不明になりました。」
 『!?』
 綱吉が言いにくそうに、少し間を空けて言った。
 その発言は、この場に居る誰をも驚かせる。
「行方不明になった日にちは10月26日午後6時過ぎ、場所は峡谷都市ベインス。」
「確かベインスってアルナベルツの都市だったよね?」
 アンジェがヒナにぼそぼそと話しかける。
 みんなはその言葉に、少しの反応を見せた。
「魔王モロクの件に関係しているのか?」
 ロイが壁に寄りかかりながら、綱吉に飛ばした。
「それはわかりません。が、王国の方にも信用できる者が居ないと言う事で、ヘルマン団長からラクティヴ殿に報告をと。」
 綱吉の言葉に引っ掛かった。
「信用できる者が…居ない…?」
 オレが言おうとした言葉をフィアンムが先に口に出した。
 綱吉は、顔を歪める。
「ウィザードギルドの計画、アサシンギルドの妙な行動、他にも色々な所で王国内に動きがあるのです。」
 ウィザードギルドの廃案になった計画。
 使者としてのアサシンたちの随行。
 トリスタン3世の消息不明。
 他にも何か起こっているのか。
「確かに、何かが起こってるとしか思えないな。」
 オレは少し悩む風を見せる。
「これからアルナベルツ教国に行くのであれば、調査の方をお願いしたく参りました。」
 綱吉は床に片膝をつけ、懇願するように言った。
「頭を上げろって。オレらはお前の上官でもない。それに団長の頼みとあれば断る理由もないしな。」
 個人的に気になる事もある。
 それに何か嫌な予感も頭によぎった。
「じゃー、ある程度日にちが経ったら、もう一度こっちに来てくれ。その時には何か掴んどくからさ。」
 オレの言葉に、綱吉の表情が和らぐのを感じた。
 綱吉自身も大分心配になっているようだ。
「では早速団長にこの旨を伝えに戻ります。」
 そう言い残すと、綱吉はオレらの前から一瞬で姿を消した。
 やっぱり隠密の職だと思わされる速さだった。
「よし、オレらも早速準備に取り掛かるぞ。」
 ――――。

 国王の行方不明。
 双子の魔術師。
 アサシンギルドの不可解な行動。
 ウィザードギルドとアサシンギルドの繋がり。
 そして、ソラの王国帰還。

「魔王復活を狙って何かをする気なのか…?」

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