〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第2章
第15話  【〜Fake〜】

 監視する者がわざとオレに斬られ、死んだ直後の事だった。
 辺りを強烈な存在感が包み込むような感じがした。

 これが監視する者が言っていた絶望なのか?だが、こんなものじゃないはずだ。ヤツはかなりの自信に満ちていた。
「早くここを通過するぞ!」
 十層まである内の現在八層を通過している。
 七層で監視する者が言った絶望とやらには、いまだ遭遇していない。むしろ好都合なのだが。
 だが、七層より今の八層の方が、より強烈な存在感を感じる。少しずつ近くなっているのか。
「これで九層だ。そろそろ用心しろよ。」
 おかしい。そう思った。絶望を与えてやると言い捨てたヤツには、確実に殺せる自信があると言う様な笑みが見て取れた。
 だが、次で最上層だと言うのにまだ何も起こっていない。
「じゃあ支援をか…――。」
 ソラの腹から血が吹き出した。
「ようこそ。タナトスタワーへ。」
 そう言ったモンスターは、燃える炎を思わせる風貌をした人型のモンスターだった。
 どこから出てきたのかわからない。いつの間にかソラの目の前にいたらしい。
「セリア、フルナーゼ!二人でソラを見てやってくれ!」
 ルーシーがすかさず指示を出す。
「申し送れました。私の名前は“タナトスの絶望”。」
「!?」
 タナトス。確かにヤツはそう言った。
 タナトスの絶望?ヤツの思念が各個で動いていると言うのか?
「私が“タナトスの悲哀”。」
 隣に突然現れたそいつは、絶望を黒くした感じの姿をしていた。
「ボクは“タナトスの苦悩”。」
 二匹のモンスターの前に、小さい二足歩行のモンスターが姿を現した。
「そして私が“タナトスの憎悪”。」
 一番後ろから現れたのは、憎悪を名乗る黒い巨体の人型のモンスター。
 憎悪がオレらを見て喋りだした。
「ここまで来るとは中々の強さをお持ちで。」
 その口調からは、絶対に負けることはないと言う気持ちが見て取れた。
「お前らは何だ?タナトスから生まれた思念か?」
「その通りです。私たちは魔剣士タナトスから生まれた各感情です。しかし感情から生まれたと言っても、その感情通りに動くわけではなく、我が主魔剣士タナトスの為だけに動きます。」
 憎悪は饒舌な弁舌ぶりを見せた。
 チラッとソラに目をやると、不意をつかれただけで、傷自体はそこまで深くないらしい。
 セリアとフルナーゼが治癒をしているし、多少の痛みはあるだろうが問題は無いだろう。
「と言う事は、オレらを…――!!」
 キィィン…。
「そうです。排除しに来ました。」
「上等だ。」
 クレイモアで絶望の手刀を止め、振り払った。
 ―――――
「絶望はオレがやる!後の3体は二人一組以上で組んで倒せ!」
 オレは攻撃態勢を取りながらみんなに叫んだ。余所見する余裕のある相手じゃないからだ。
「お手柔らかに…。」
 笑って見せたその表情は、とても歪んだ感情を表しているかのようだった。
「Thousand Brave’sマスターのラクティヴだ。」
「ギルドのマスターですか。私は当たりの様だ。」
 軽く力量を見る具合でお互い牽制し合う。
「いや、一番の外れだ。」
 絶望はフフっと言葉を漏らした。
「行くぞ!」
 ツーハンドクイッケンを発動させ、ソニックエッジを横に一閃、縦に一閃して二発飛ばす。同時に駆け込む。
「これは空気の刃ですか。」
 腕で弾くかの様に差し出した絶望の右腕に、ソニックエッジが十字を描くようにぶつかる。
 十字にしたのは、単発では威力が低いためだ。交差させることによって、交わる部分の威力を高めさせるのだ。
「甘い。」
「それはどうでしょうかね。」
 ソニックエッジを止めてる間に背後に回り込み、確実に一撃を浴びせられると思い一閃。
「インビシブルか!」
 突然絶望の姿が消える。
 インビシブルとは、モンスター特有のスキルであり、使用者は身を潜めながらにして攻撃や移動ができるというスキルだ。
「姿は見失ったが、気配までは消えてないぞ!」
 ギャィィン
「さすがはマスターと言ったところですね。では、これにスピードを織り交ぜたらどうでしょう。」
 接触時に姿を現した絶望は、そう言うとまた姿をくらませた。
 スピードを織り交ぜる。この見えない状態の中で気配を頼りに探すが、スピードを混ぜてそれを錯乱させようと言う事か。
 だが、攻撃をする瞬間には必ず殺気が出る。それを狙ってカウンターを食らわせられれば…。精神を研ぎ澄ませろ…。
 ヒュン…――。
「そこか!」
 ザシュ…。
「中々の腕を持ってるようですね。甘く見すぎたようです。」
「…。」
「では、真っ向勝負と行きましょう。」
 今まではほんの肩慣らしってことか。上等だ。
 ソニックエッジを真正面に一発放ち、右斜め上に跳びもう一発。そして壁を使ってそこから右斜め前に跳んで三発目を飛ばす。
 ヤツの後ろを壁にするようにしてソニックエッジを放った。これでヤツの逃げ道や動きを限定できる。
「これくらいでどうにかなるとでも?」
 絶望は右腕を前に差し出すと、そこを外周部分のようにして丸い膜が張られた。
「私たちタナトスの思念にだけできる、イマジネイションバリアです。」
 バリアって事はキリエみたいなものか?迂闊に近づけないな。
「キリエとは少し違いますが、基本は同じです。微弱な飛び道具や物理攻撃を防いでくれるもので、発動させたら解除するか、大きい攻撃を与える以外ありません。」
 ソニックエッジを弱いと言ったか。仕方ない。
「ならこれでどうだ!!」
 バリアと接触直前、クレイモアを振りぬく瞬間、斬撃の前にソニックエッジを発生させ同時に攻撃を加えた。
 ジジィ…ブゥゥン…――。
「衝撃を重ね合わせてきましたか。」
 切れたバリアから右腕がオレの懐に飛び込んできた。
「く…っそ…!」
 ドゴォォン…ガラガラ…――。
「弾かれる瞬間に後ろに跳んで、衝撃を和らげるとは中々の反射神経だ。」
 ヒュッ――。
「な…!」
「褒め言葉は飽きたぜ。」
 土煙がなるべく広範囲に広がるのを待ってから、力を脚に込めて高速で駆け込んだ。
「ザコは引っ込んでな。」
 懐に入るまでにオーラブレイドをかけたクレイモアを左肩から右腰に全力で振り払う。
 絶望が断末魔を上げ、そして灰になった。

「このっ…!」
 リュウとロイが苦悩を相手にしていた。
「遅すぎるよ。」
 苦悩がリュウとロイの攻撃をヒラヒラと舞うように避けている。
 元々の小ささプラスすばしっこいため、かなりの命中率が必要とされる。
「こっちからいくよ。」
 小さな手の中に黒い雷が発生した。
 他のモンスターもダークサンダーは使用するが、それとは比較にならない程威力が凝縮されたものであり、食らうとひとたまりもない。ダークサンダーは大きさだけでは図れないのだ。
「…!!」
 リュウは腕を交差させ衝撃に備えるが、軽々とダークサンダーに弾かれ吹き飛ばされた。
 ガシャァァーン…ガラガラ…――。
 リュウはぺっと血反吐を吐き捨てた。
「仕方ないですね。ソラ!」
 リュウがソラに言うと、ロイの後ろに居たソラは何かの魔法を詠唱し始めた。
「こんな所で役に立つとは思ってなかったな。ディクリースエイジリティ!!」
「速度減少…!?」
 苦悩が気付いた時には既に術中にはまっていた。
 ディクリースエイジリティ、通称速度減少と呼ばれるこの魔法は、速度増加とは逆の効果をもたらす魔法である。
 ほとんどの敵はスナイパーやクラウン、ジプシーなどの後衛職の命中率を持ってすればたやすいのだが、そうでないときも多々ある。
「ではこっちの番ですね…っ!」
 ソウルブレイカーを苦悩に放った。
「…!!」
 当然みえみえのこの攻撃は避けられた。が、減少をかけられた苦悩の体は意志とは逆に鈍行を辿る。
 ソウルブレイカーを避けるだけでやっとの苦悩の目の前には、ロイがテュングレティーを構えていた。
「終わりだぜおチビちゃん。」
 突きに螺旋の動きを加えたピアースはスパイラルピアースと呼ばれるロードナイトの槍技の最高クラスに位置する。
 槍と自分の腕力の攻撃力に加え、槍の重さを加える一点集中型の攻撃技だ。
「そう簡単に調子にのるのは良くない。一つ勉強になったね。」
「こんな…はずじゃ…――。」
 絶望と同じく苦悩もその体が灰と帰した。

「ロードナイトとはこんなものですか。」
 悲哀がフィアンムと同じ速度で攻撃を繰り出している。
「バーカ。オレはお前の足止めをする役だって。」
 フィアンムはちょいちょいと自分の後ろに視線を送る。後ろにはアズサが狙いを悲哀に定めて、チャンスを狙っていた。
「こんな素早い動きをしている的を狙えると?仲間までいるというのに。」
「バカにすんじゃないよ。」
 フィアンムを狙い、避けられた手刀は石床を砕き、それが宙に舞う。それが悲哀を的にするのに邪魔な障害にもなった。
 だがアズサは動じない。
 ――シャープシューティング!!
 宙に舞う石片をも貫き、縦横無尽に動く悲哀に吸い込まれるように矢は飛んでいく。
 その矢はまるでフィアンムを避けるかのように軌道を描く。
「お前なんて眼中に無いんだよ。」
 ――――。
「はっ。張り合いのねーやつだ。」
 ズーン…―。
 憎悪の巨体が前のめりにして崩れ落ちた。
 死体が灰になると、そこからグレイトアックスが姿を現す。セネルが一撃を食らわしたようだ。
「私たちの出番無かったね…。」
 アークライト姉妹と後衛陣が淋しそうに愚痴を零した。
 タナトスの思念と言っても、各種類の特徴を掴めばそれほどでもないし、熟練者が何度も足を運べば慣れる位の敵だ。
 とは言っても、オレらがここへ来るのは初めての者が多い。過去の敗戦がオレたちの成長を速めさせているのだろう。
「敵の気配も無いし、少し休んだら上に上がるぞ。」
「サンクチュアリでも敷いて置くか。」
 オレが束の間の急速を言い渡すと、ルーシーはサンクチュアリを唱え始めた。
 みんなはその範囲内に入り、傷や疲れを癒している。
「…。」
 やはり何かおかしい。タナトスの思念は先ほどはああは言ったが、何か違和感を感じる。
 動きが単調だった気もする。力が伴ってないような…。偽者か…?

 ――絶望ヲ味ワウガイイ。

 監視する者の言葉が脳裏に蘇る。
 包み込むように悪寒が体を蝕み始めた…。

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