〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第2章
第13話  【死の塔】

 タナトスタワー
 魔剣士タナトスを封印するために建てられた物だが、現在に至るまで放置し続けた為、モンスターなどが徘徊するようになった。
 現在は共和国のジョンダイベント社が、タワーの取り締まりや、運営などを行っている。
 ジョンダイベント社とは、王国で言うカプラ社の様な転送などのサービスを行う会社である。

「タナトスタワーは、フィゲルから真東数十kmだ。」
 出発の朝が来た。みんないつもとは違う雰囲気を纏っている様に見える。
「まさか徒歩なんてことは…。」
 クレナイが青ざめた顔で言うと、周りもそんなバカなという様な顔をし始めた。
「そんな事したら、着くまでに疲れちゃうから、あらかじめポータルを取ってきてもらった。」
 『お〜!!』
 無駄に歓声が湧きあがった。この元気がいつまでも続けばいいが…。
「じゃー戻ってくるまでの間、ギルドは頼んだぞアッシュたち。」
 アッシュに拳を突き出した。
「おう。任せとけ。そっちも無事に戻って来いよな。」
 そう言ってアッシュがオレの拳に拳を当ててきた。オレは名残を惜しむようにして身を翻す。
「じゃー出発だ。セリア、ポータルを頼む。」
「タナトスタワーの間近なので、油断しないでください。」
 セリアの言葉に皆の顔に緊張が浮かび上がる。
 静かにセリアが唱えた後に光の渦が立ち上る。
「じゃあ、行ってくるぜ。」
 エンブリオやリュート、ロイがそう言って先に入り、それに皆が続く。
 そして最後にセリアが入ると、ポータルが少しずつ消えて完全に無くなった。
「さ、お前ら中に入って遊ぼうか。」
 アッシュが子供たちを連れてギルドに戻って行く。

 ポータルを抜けると眼前に高く聳えるタナトスタワーが現れた。それはまるで魔王の城の様に見えさせる雰囲気を醸し出している。
 それにこのたくさんの邪気が一層みんなに緊張を走らせる。
「すげーなこのおぞましい空気…。」
 リュートが言った。
「背筋がぶるっと来るような感じだ…。」
 セネルがリュートの言葉を後押しするように一歩ふみ出て言った。
「見てても前に進まないんだ。中に入ろうか。」
「そうですね。」
 オレが先陣を切った後にバルジが言って続く。
「ほらほら。ぼーっと突っ立ってないで行った行った。」
 唖然とするみんなを、後ろからルーシーが追い立てる。
 みんなはそれで正気を戻したかのように、走って後に続いた。

「タワーの中って案外モンスター少ないんっすね。」
 ヨウブが一層に入るなり言った。
「一層から上に上がってくにつれて、モンスターの数は増えて、モンスターが強くなっていくから油断するなよ。」
 フィアンムがヨウブの肩を叩く。
 騎士団の名残なのか、ヨウブはフィアンムに敬礼をした。それは部下が上官にするものであり、それを見てフィアンムは少し笑みを零した。
「タワー内部は一層一層がとても広いから、ぐずぐずしてたら上層に着くまでに日が沈むぞ。」
「ソラ、セリア、フルナーゼ、フィオナ。支援分担しとくぞ。」
 動き出す前に、誰が誰に支援をするか決めておこうとルーシーが言った。
 戦闘中何があっても、事前に決めておくのとそうでないのでは歴然の差がでるからだ。
「オレとヨウブ、セネルは前衛を固める。フィアンムとロイは後衛を頼む。」
 支援同様、オレら前衛もどこをどう守るか、攻めるかを割り振る。
「よし。じゃー一層と二層、三層、四層は敵も少ないしテレポートで飛ばそう。各層への階段で集合だ。」
 セネルとアリスがカートからテレポートクリップやハエの羽を、みんなに手渡し始めた。
 ハエの羽は、各フロアをランダムにワープする消耗品。
 テレポートクリップというのは、モンスターであるクリーミーのカードを挿したクリップの事で、クリーミーカードが付けられている物を装備すると、誰もがテレポートを使える様になる代物である。もちろんギルド資金から出したものだ。
「じゃー支援回して、確認したら飛ぶぞ。」
 一斉にインクリースエイジリティ、ブレッシングを皆にかけ回す。そして最後にアスムプティオを回したところでみんながテレポートを使った。

「全員いるな。じゃー開けるぞ。」
 二層の三層へ続く場所にはエレベーターがあり、一定人数が集まらないと開かない仕組みになっている。
 皆が居るのを確認して、エレベーターの扉を開ける。
「全員乗ったな?閉めるぞー。」
 ガシャン――。ウィーーーーン…――。ガコォォン…――。チィィン…。
「支援かけなおして、確認したらまたテレポートだ。」
 そうしてまた支援をかけなおしていく。
 当たりにはモンスターの気配がするが、姿がまだ見えない。居ないことに越したことは無いが、少し不気味な感じもする。
「よし、また各層への階段で集合だ。」

 五層へ繋がる階段の前まで来ると、五層からのモンスターの気配が伝わってくるのが確認できる。
「ここからはポータルや蝶の羽じゃないと戻れなくなるからな。各自緊急用に蝶の羽を持っておけ。」
 五層からは、扉が入る時にしか開かない仕組みになっているため、一度上がったら戻れないようになってしまうのだ。
「五層からは歩きで七層、いわゆる上層へ続くポイントまで徒歩で行く。モンスターも多数居るから用意しとけ。」
 上がる前に念を押してから上に上がった。
 コツコツコツ…――。

 五層は今までとは違う雰囲気を醸し出している。強力なモンスターが多数生息している為だろう。
「360度から敵が来ることと思え。」
 ルーシーたち支援組が静かに支援をかけなおす。
 後衛組であるユニーや、バルジがいつでも魔法を撃てる様詠唱を始めていた。
 ジジ…ジジ…――。
 何処からか電気が発生してるような音が聞こえてきた。
「プラズマか…。」
 前方から光る球体の様なモンスターがこちらに向ってきた。
 プラズマとはその名の通り電気の様な体質をしている。しかし見た目でわかるように色が違うものも多く見る。これは各属性によって色が分けられているらしい。
「全てを凍り尽くす嵐よ舞い起これ!!ストームガスト!!」
「荒れ狂う風、乱れる稲妻、支配を解き放て!ロード・オブ・ヴァーミリオン!!」
 待っていたといわんばかりに、ユニーとバルジが一斉に大魔法をお見舞いした。
 しかし少しタイミングをずらして図ったのか、ストームガストで凍らせ、その直後にロードオブヴァーミリオンがプラズマを襲った。
「オレらの出番がねー…。」
 セネルが構えていた斧を仕舞いながら言った。
「セネルその斧どうしたんだ?」
 ロイが後ろから声をかけた。
 確かにいつもと違う斧だ。
「あーグレイトアックスか。リヒタルゼン行った時に安値だったから買ったんだ。それとこれもあるぜ。」
 セネルはそう言うと、カートから更に巨大な斧を取り出した。
「ドゥームスレイヤーって名前らしい。一般人には扱えないよって言われたけど、オレには大丈夫かなって思って買ったんだ。」
 ドゥームスレイヤーと呼んだその斧は、通常の斧よりでかいグレイトアックスを更に上回る大きさで、これを人が使えるのかと思えるくらいだ。
 少し話しながら歩いていると、また敵の気配が進む方向から感じ取れた。
「こいつの出番かな♪」
 グレイトアックスを手にわくわくした顔を見せるセネル。
「あのジジイは…。」
 クレナイが言った先には、老人の様なモンスターが何やら言いながら近寄ってきた。
 その後ろからはガシャガシャ音を立てた宝箱の様なモンスターも数匹現れた。
「エルダーとそれに…。」
 レンが宝箱を見て少し詰まった。
「エンシェントミミックですね。」
 後ろからアクアが助け舟を出した。
 エルダーとはモンスターのウィザードの様な敵で、かつては名の在る魔術師だったが、死して尚その強力な魔法に取り付かれたモンスターである。エンシェントミミックは、遥か昔の宝箱に邪気が取り付いたもので、すばしっこくとても攻撃力が高いモンスターである。
「荒れ狂う風、乱れる稲妻、支配を解き放て!ロード・オブ・ヴァーミリオン!!」
 ユニーが唱えると同時に、セネルとヨウブが突っ込んだ。
「これだけで死なないでくれよな!」
「ギィィィィ!!」
 嵐がはれ、残った土埃の中からエンシェントミミックが勢い良く飛び出した。
「そうこなくっちゃーよ!」
 真正面に出てきたエンシェントミミックに、セネルグレイトアックスをいとも簡単に振り回し、一撃を食らわそうとした。
「ギッ!!」
 宝箱の両端から伸びる長い腕で地面を強く押し、セネルの一撃をひらりとかわした。セネルはそれを予測してたかのように笑みを零した。
「そんくらいで避けたつもりか!?」
 空を裂き地面に突き刺さった斧を無理やり引っこ抜き、その崩れた岩を斧に引っ掛けて遠心力で投げつけた。
 戦いを楽しんでるセネルを横目にヨウブがエルダーに突っ込んだ。
「クソジジイめ…!!」
 エルダーが詠唱を始めたのを見て、フルナーゼはレックスデヴィーナを唱えた。
 「汝、神の御言葉により罰を与える。レックスデヴィーナ!!」
 レックスデヴィーナは対象を一定時間沈黙による束縛を起こす補助魔法である。
 デヴィーナを食らった相手は、解除されるまでの間は一切の魔法詠唱やスキルの使用ができなくなり、もう一度かけるか、時間が経つまで効果は持続する。
「…!?」
 エルダーは慌てた様子を見せた。
 ヨウブはそれを見て笑みを浮かべた。
「オレらの前に出たのが不運だった…な!!」
 ガキィィン――。
 エルダーは手に持っていたウィザードロッドを盾代わりに、ヨウブの一撃を防ぎきった。
 だが、ウィザードロッドが壊れ、デヴィーナ状態のエルダーは最早なす術が無かった。
「往生際が悪いよジーさん!」
 一本の矢がヨウブを横を通ってエルダーに飛んで行く。
 エルダーはその矢を避けて見せたが、何故か放った本人のアズサは笑っている。
「一本しか見えないのか?」
「!?」
 放たれた矢の死角から、もう1本矢が飛び出てきた。
 それは跳んで避けたエルダーを空中で捕らえた。
「影矢って言うんだよ。覚えておきなさいよ。」
「ギィィアァァァ!!」
 倒れたエルダーの裏からエンシェントミミックが飛び出した。
「くそっ…!」
「汝、邪を隔絶する力を欲する。出ろ!セイフティーウォール!!」
 エンシェントミミックがアズサに到達する直前、アズサを囲む光が地面から吹き出した。
「焦らすなよなー。」
 ソラが危険を逸早く察知して、詠唱を始めていたようだ。

 ―タナトスタワー上層―
 冒険者のパーティが七層で悲鳴を上げていた。
「なんだ!?どうしたんだ…!!」
 敵が視認できないのに、次々と仲間が倒れていく。
「慌てるな!!主よ、邪悪な者を闇から引きずり出さん!!ルアフ!!」
 プリーストがルアフを唱えた瞬間、目の前に人型をした赤黒いモンスターが居るのが見えた。
「こいつは…っ!」
 ザシュ…――。
 冒険者数人の一団を殺したその赤黒く燃えて見えるモンスターは、ルアフの光から遠ざかるとまた姿を消した。
 死体は光になり、モンスターと共に上層へと消えていった。

「私の名前はタナトスの絶望…。絶望を与える者…。」

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