〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第2章
第11話  【胎動】

 ラクティヴがレッケンベルに乗り込み、事件を起こしてから数日が経った。
 フィッシの情報によるとレッケンベルは事件の詳細や、研究自体そのものの露呈を防ぐために、ただちに研究所を閉鎖、研究も一時中止となった。

「魔王モロクの情報について何かわかったことはあるか?」
 リヒタルゼンから帰還してからは、本格的に動こうと魔王モロク復活の情報をかき集めようとしているのだが、中々これといったものが無い。最初から行き詰ってしまっている。
「文献によると、封印通り以外の事態については何も書かれていませんね。予想外の出来事も起こりかねない。そんな事しか書かれていません。」
 マスミが分厚くて重そうな本を手に悩んでいる。窓から光が差し込み本を照らす。昼時の光に照らされてあたかも古代の古文書のように見える。
 ここはシュバルツバルド共和国首都ジュノーの国立図書館であり、ルーンミッドガルド大陸に誇る大図書館でもある。
「こればかりは、それを体験した人。要は前回早期復活を遂げた時に、それを目の当たりにした人から話を聞くしかなさそうだな。」
 ルーシーが本棚を漁りながら呟いた。
 体験した人…。その時を目の当たりにした人か…。
「オレの親はどっちも居ないからな。フィオナの…――。」
「私がどうかした?」
 ふと呟いた言葉に本を読んでいたフィオナが反応した。
「いや、何でもない。後一人居るんだが、プロンテラに居るから聞くに聞けないな…。」
「ヘルマン団長か?」
 ルーシーがオレの言葉に反応して身を翻した。
「ああ。だがオレらは今となっちゃお尋ね者として見られていてもおかしくない。行くには危険すぎる。」
 プロンテラを出てから結構な時間が経つ。だからもうオレらが消えたことが何を意味しているのか、それに気付いている者が王国上位に居てもおかしくはない。
「八方塞ですね…。」
 マスミが本を棚に戻しながら重そうに言った。ルーシーとフィオナも溜め息を漏らしている。
「とりあえずフィゲルに戻ろう。フィオナ、ポータルを頼む。」
 フィオナは頷いて詠唱を唱えた。すると館内に光の渦が立ち上る。
「はい、乗って乗って〜。」
 光の渦に順に入り、術者のフィオナが最後に入るとそれは消えた。館内には窓から差し込む光が神秘的な雰囲気を醸しだしていた。時は正午。

 同時刻フィゲルにて―――
 コンコン…。
「ユーナちょっと出てー。」
 ギルドにドアを叩く音が響く。ハロルドが昼ご飯の支度をしていたらしく、近くに居たユーナに対応するように頼んだ。
「はいー。今行きますー。」
 居間を慌てて出て行くユーナ。
「どちらさまでしょう?」
 ドアを開けるとそこには、天津の国を思わせるような服装をした男が立っていた。
「Thousand Brave’sマスターのラクティヴ殿は居ますでしょうか?」
「えっと…。」
 男が喋った後、ユーナの後ろから声が飛んできた。
「その声は綱吉か?」
 声の方向をドア越しから男が覗き込んだ。
「フィアンム殿―!!」
 ユーナの後ろをフィアンムが歩いてきた。
 この男綱吉は、王国隠密部隊で天津出身の忍者である。ラクティヴやフィアンム、騎士団とも行動を共にする事も度々あった。
「いきなりどうしたんだ?」
「ラクティヴ殿に至急報告をと、ヘルマン団長から仰せつかったもので。」
 どうやらラクティヴに緊急で伝えることがあるらしい。
「ラクさんならそろそろ帰ってくると思うけど。」
「もう帰ってきてるよ。」
 ドアの超えて庭の方から声が届いた。
 綱吉やユーナ、フィアンムが声の方向へ向いた。
「よう綱吉。久しぶりだな。」
 オレが綱吉に手を振ると、綱吉はそれどころじゃないと言った顔をして近寄ってきた。
「ラクティヴ殿、至急伝えよとの事がございますので――。」
「立ち話もなんだから中入ろうか。」
 綱吉の焦る気持ちを制して、ギルド内に綱吉を招いた。

 居間のテーブルにフィオナがコーヒーを運んできた。
「どうぞ。」
「かたじけない。」
 綱吉は少し遠慮しがちに礼をした。
「それで話っていうのは?」
「タナトスタワーの魔剣士タナトスはご存知ですね?」
 コーヒーを飲もうとして、差し出した手がピクっと止まる。止めたわけじゃない。体が反射的にそうしたらしい。
「魔剣士タナトスがどうかしたのか?」
 以前記憶の中、それとバフォメット、ヘルマン団長から魔剣士タナトスがどういうヤツか、今はどうなのか聞いてよく知っている。
 今はオレの親父の思念が入り込み、姿形がそれになっているらしい。
「タナトスタワーから異様な叫び声と、おびただしい数のモンスターが徘徊しているそうです。タワーの周りは邪気で荒んでいます。」
「すると…。」
 顎に手をやり少し悩んだ。
「はい、魔剣士タナトスが何かしらの“動き”を見せたらしいとの事です。」
「それをオレに言えと指示したのは団長か?」
 綱吉はコクリと頷いてまた喋り始めた。
「“騎士団を辞めて、王国を逃げたのは紛れも無い事実。しかし私はお前を息子同然に思っている。何もしてやれないが、できることだけはしてやりたい”そう言っていました。」
 やはり王国がオレたちに対して何かしらの対策を取っているらしい。多分綱吉がここに来たのも極秘なのだろう。
「綱吉はこれからどうするんだ?」
「私はラクティヴ殿の行動に間違いは無いと思っています。王国があなたをどう思おうとそれは王国の意志であって、私の意志ではありません。ヘルマン団長も同じでしょう。これからも私はヘルマン団長と一緒に行動をします。」
「ありがとう。ただ無茶はするなよな。」
「私は少ししたら、プロンテラに帰らなければなりません。あなたと接触してる事は団長と神父様以外知らないですから。」
「神父様?」
「ヘルマン団長が信頼できる人物が神父様のようです。」
 仲間はなるべく多くか。まぁ、神父様はルーシーの父親だしオレもよく知っている人物だ。安心して大丈夫だろう。
「そうだ。団長に伝えて欲しいことがある。」
 席を立とうとした綱吉を止めるようにして言った。
「共和国の大企業レッケンベル社と王国のアサシンギルドが接触しているのがわかった。何をしているかわからないが注意はしておいた方が良いだろう。」
「わかりました。必ず伝えます。」
「プロンテラならポータル出すぞ。」
 席を立ち、ギルドを後にする綱吉に言った。
「直接行くと怪しまれるので。」
 焦った顔で綱吉は言った。
「フェイヨンあたりなら嬉しいのですが。」
「丁度いい所に。ソラー!フェイヨンのポータル無いかー?」
 散歩か買い物かわからないが、何かから帰ってきたソラと丁度鉢合わせになった。
 ソラと綱吉は軽く挨拶をしている。
「フェイヨンならあるよ。」
 ソラは静かに詠唱を始めポータルを出した。
「では、また会いましょう。」
 綱吉は手を振ってポータルに消えていった。
「なんで綱吉がここに?」
 ソラが不思議そうにオレに尋ねてきた。
「これからは忙しくなりそうだな…。」
 オレは溜め息交じりに言葉を漏らした。ソラはそれを見てより一層不思議がっていた。
 チュンチュン――
 フィゲルの晴天な空に鳥のさえずりが響き渡る。

 ―フィゲル真東に位置するタナトスタワー最上階―
「化…け物…め…。」
 ザシュ――
 剣士から男へと真正面から剣が振り下ろされた。鮮血が剣に吸い込まれるように飛び散る。
「化け物?オレの事か?クク…ハッハッハッハ…――。」
 付着した血を吹き飛ばすかのように、剣士は剣を振り払った。
「その…剣…は…――。」
 男がその剣に見覚えがある風だったが力尽きた。
 振り払われたその剣の名は
「この剣か?こいつの名前はエクスキューショナー。オレの命を奪った剣であり、今のオレの相棒だ。」

 ――タナトスタワー最上階には人じゃない人が住んでいる。

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