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第2章
第3話 【三つ巴】
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リヒタルゼンから持ち帰った情報は次の三つ。
・レッケンベルが裏で何かをしていること。
・住民が少しずつ消えていること。
・行方不明者が多いこと。
リヒタルゼンから帰ってきてから間もない翌日。
オレはもう一度リヒタルゼンに行って、レッケンベルとその周辺の事を調べようと思っている。
「ルーシー、マスミ。もう1回リヒタルゼンに一緒に着いて来てもらいたいんだが。」
オレらはプロンテラを抜けてからは、仕事とかそういうものが一切無くなった。
それゆえ、毎日が自由である。
ただ自給自足の生活にはなったが。
だからどう時間を使おうと怪しまれずに済むわけだ。
「オーケー。今準備するわ。」
「信頼してもらえて嬉しいですよ。」
二人は快く引き受けてくれた。
こうして事を進められるのも、周りの信頼できる仲間あってこそだと実感せずにはいられなかった。
「どこ行くんですか?」
セリアがギルドを出ようとしたオレらに問いかけてきた。
「興味深いものがリヒタルゼンにあるんで、ポータルでちょっとね♪」
マスミが疑われないように笑みを返した。
「フィオナー!」
ギルドを出て二階にあるフィオナの部屋に向かって叫んだ。
「ラクどっかいくのー?」
『宿命の子』と知ったフィオナは随分と悩み苦しんでいたが、フィゲルの大自然で少しは癒えたらしい。
前よりも笑うようになった様に見えて嬉しかった。
「ちょっとリヒタルゼンに行ってくるからー!後のことは頼んだぞー!」
ルーシーとマスミは、フィオナと喋っている間にもゆっくりだが進んでいる。
それを横目で確認したオレは、フィオナに手を振って慌てて後を追った。
「どうしたんだろ?」
「どうしたん?」
フィオナが不思議がりながら窓から3人を見ていると、ヨウブが下から覗き込むように聞いている。
「いや、何でもないや。」
―――――。
ポータルを抜けるとそこには人工的な建物が視界を埋め尽くす様に、街を見下ろすように立っている。
「さて、今日も昨日と同じ様に調査頼む。集合も昨日と同じで5時な。」
「あいよ。」
「わかりました。」
一斉にオレらは違う方向に駆けていく。
「さて昨日のヤツは居るかな。」
昨日酒場らしき建物の前で話していた男がいるかどうかを確認するために、オレは貧民街へ向かった。
相も変わらず貧民街は、とても雰囲気が悪い。
西地区とえらい違いだ。
「まだ居るな。」
先日仕事を紹介されたと思われる男はまだ建物の前に居た。
昨日のは違ったのか?
「もし、そこの人…。」
「はい?」
後ろからの声に振り返ると、そこには40代くらいの女性が居た。
「うちのミーティアを知りませんか…?」
ミーティア?誰のことだ?人探しか?
「えと、私にはわからないのですがどうかしたのですか?」
女性はとても心配した顔をしている。
「私の名前はサフィーア=コクランと言います。実は娘が…。」
「サフィーアさんの娘さんが居なくなったわけですね?」
不謹慎かも知れないがこれはチャンスかもしれない。
もしかしたらレッケンベルに関連しているかもしれないからな。
「容姿や特徴とかを教えてください。」
「ミーティアは私のただ一人の子供で…。」
サフィーアさんはとても動揺している。
オレの話が耳に入ってないようだ。
「サフィーアさん!落ち着いてください!」
「すいません…。ミーティアの事を考えるといても立っても居られなくて。」
オレの声で我に返ったのか、サフィーアさんはミーティアの事について喋り始めた。
「ミーティアは一人っ子のため、他の友達と遊ぶことが多くて、よく遠くに出かけていたりしたようです。外見は、茶色い髪の色でポニーテール、胸には私が作ったブローチをしています。」
「ブローチの他に体に傷跡とか、そういうのはありますか?」
物品だと外されている可能性があるからわかりにくいため、他にわかるものが無いか聞いてみた。
「確か…胸のちょっと上に、蝶型の刺青みたいなものがあったと思います。」
「なるほど…。それでいつ居なくなったかわかりますか?」
「2,3ヶ月ほど前だったと思います。普段は時間を守る子なんですけど、その日はいつになっても帰ってこなくて…。」
2,3ヶ月前だとかなり前になる。
これは迷子とかそういうレベルじゃなくて事件のレベルだ。
レッケンベルがもし生体実験をしているなら、関わってる可能性が極めて高い。
「わかりました。私は旅の者ですが、何かあったら知らせます。」
「お願いします…。」
サフィーアさんに手を振って貧民街の奥へと足を進めた。
今日はここを中心に情報を集めるするか。
「ちょっとそこのアンタ!」
またしても不意に響く声が聞こえた。
オレはまたかと思いながら振り返ると、そこには誰も居なかった。
「どっち向いてんだよ!こっちだこっち!」
恥ずかしながらも声の主は前方に居た。
オレは照れながらその人の方へ歩いていった。
「私が何か?」
「あんたルーンミッドガルド王国の人かい?」
20代と思われるその男は、オレを見るなり敵意を向けてきた。
「元ルーンミッドガルド王国だ。それがどうかしましたか?」
男はオレが王国出身だと知ると、ケッと舌打ちをした。
何か恨みでもあるのか?
「王国の者に何か?」
「王国のアサシンがレッケンベルとやけに親しそうに話してたもんでね。レッケンベルはむかつくから、それに取り入ろうとする輩もむかつくんだよ。」
こんな所に王国のアサシン?
アサシンの依頼は王国から遠くても共和国首都ジュノーまでのはずだ。
それにレッケンベルと関係があるなんてことは無い筈だ。
アサシンギルド独断の行動か?
「君の名前は?」
オレは詳しく話を聞くことにした。
「オレか?オレの名前はフィッシ=ボーン。アンタは?」
「オレの名前はラクティヴ=グローリー。ラクでいい。」
フィッシ=ボーンを名乗る男は、オレの名前を聞くなり驚いた顔をしている。
「アンタあの!?王国の『剣帝』か!?」
「オレを知っているのか?」
オレは『宿命の子』であるフィオナの事を隠し、騎士団を辞めて王国を出た事を伝えた。
そして今何でここにいるのかも。
「なるほど。あんたの旧友がレッケンベルの噂の実験体になっているか心配だってことだな?」
「そういうことだな。」
「気に入ったぜ。アンタにはレッケンベルの侵入経路を教えてやろう。」
フィッシの口から予想だにしない言葉が出てきた。
「今何て…?侵入経路…?」
フィッシはニヤっと笑いながら、オレに言った。
「ここに居るヤツらはみんなレッケンベルの事を憎んでいる。自分たち裕福層だけが良ければいいって思っているレッケンベルが大嫌いなんだ。」
「それと教えることに何の関係が?」
フィッシは更に喋り続けた。やけに饒舌になっている。
「そこで『剣帝』のアンタが現れた。アンタはレッケンベルを調べようとしている。オレらはレッケンベルを憎んでいる。そこが共通点だ。」
「オレにレッケンベルを暴けって事か?」
フィッシは大声で笑いながら言った。
周りの住民たちがこちらを見ているのがわかる。
「おいちょっと声でかいぞ。」
「わりーわりー。そこまでは望まないさ。ただレッケンベルを調べて、噂が真実であるかどうかを確かめて欲しい。オレらにはその力が無い。だが、アンタにはその力がある。」
フィッシの言葉からは心意気が感じられた。オレは自分の感覚を信じて、フィッシを信じることにした。なにより王国のアサシンの事も気になる。
「でもどうやって入るんだ?」
問題はどうやって入るかだ。
ただでさえ巨大企業なのに潜入なんて無理に等しい状況だ。
「コイツとコイツをこうやってだな。あとはこの偽造した通行パスを持って行け。」
フィッシは白衣を着せ、白いひげとスピングラスをオレの顔につけ、通行パスを押し付けるように渡してきた。
「これで大丈夫だ。後はうまくやってくれ。」
本当にこれで大丈夫かと思ったが、通行パスまであるんだから大丈夫だろうと思い、しぶしぶその場を後にした。
「あ、これ持って行け。なにかあったときのためにな。」
フィッシは歩いているオレに蝶の羽を投げてきた。脱出用らしい。
「サンキューなフィッシ!」
手を上げてフィッシの思いに答えた。
「さて、随分時間くっちまったな。だが…。」
これだけ情報が手に入ればこっちのもんだろう。
後はいかにうまく慎重にこなせるか、オレの腕次第ってところだろう。
――――。
オレの目の前にはデンと構えた門、その奥には一際綺麗な道、両側には池。
そして道の向こうには巨大企業レッケンベル本社がある。
「今が午後2時だから後3時間か。ぐずぐずしてられないな。覚悟を決めるか…。」
白衣を着て、通行パスを首からぶら下げ、スピングラスにカツラに白いひげをつけて、レッケンベル本社へと足を進めた。
――――。