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第1章
第42話 【Unknown】
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プロンテラにモンスターが出現してから、2時間ほどが経つが一向に減る気配を見せないモンスターの群れ。
だが不気味な事に、オレの周りには人々はおろか、モンスターの一匹さえ姿が見えない。
上級モンスターのファラオとオシリスのプレッシャーのせいだろうか。
「さっきの威勢はどうした?」
ファラオがちょいちょいと挑発し、オレが動くのを待っている。
「調子にのるなよ、モンスター風情が!!」
ツーハンドクイッケンの効果を強めて、更に速い速度で攻撃をしかける。が、全て太陽剣で捌ききられる。
「がっかりだな。」
「くっそ…!」
太陽剣が体に向かって振り払われた。
オレは体を後ろに反らしそのまま後ろにバク転で避けた。
「中々素早いな。」
「臆病者と言われている様な気がするがな…。」
フフッと嘲け笑うようにファラオが口を開いた。
「その通りだ。」
「なめんじゃねえええええ!」
「我々二人を別々に倒そうと思ったのだろう?」
「!?」
オレがファラオに斬りかかると同時に、後ろからオシリスの声がした。
「くそっ!!」
2人同時はさすがに無理だ。
そう思いオレはファラオを攻撃せずに、そのまま脇を通り過ぎ間合いを取った。
「うおおおおおお!!」
体の制限が外れる様に、体が浮くような感覚。
同時に血管が茹で上がるような熱さと頭痛が体を襲う。
いちかばちかバーサクを使った。
「ほぅ、バーサクか!それで勝てると良いな。」
ファラオが笑い声を上げた。
「バーサクをしないと抗えないと悟ったのか。」
オシリスがそう言うと、ファラオとオレの間を割って入るように参戦した。
「どけえええええええ!!」
オシリスを置き去りにし、ファラオを神速の速さで斬りつける。
「ぐう…っ!」
「図に乗るな小僧―――!」
ファラオが太陽剣を振り上げた。
避けるのが間に合わない。だが問題は無い!
「遅いんだよ!!」
バーサクにより回避が落ちるが、その桁外れの筋力と速力で敵の攻撃を捌ききることができる。
オレは太陽剣が振り降ろされるのを見て、クレイモアを刀身のほぼ真ん中の衝撃が一番伝わる所に当てた。
「終わりだ!!」
太陽剣が空中に舞う。
「オシ…――。」
反対側にいるオシリスに助けを乞うファラオを横に一刀両断した。
ファラオの体が崩れ去りながら黒い光になり、元々居るはずのスフィンクスの方向に飛んで行った。
再び封印による眠りについたのだ。
「強くなっていたのは我々だけじゃなかったと言う事だな。」
オシリスのプレッシャーが少し増した。
体にビリビリと伝わってくるものがある。
「それでも、冥界の王が人間風情に負けるわけにはいかないのだ!」
オシリスが体からメテオアサルトを放ってきた。
放ちながらそのままアサシンダガーとスクサマッドで切りかかってくる。
「その人間に今から殺されるんだよ…!」
アサシンダガーを避け、スクサマッドをクレイモアの柄で受け止めてそのまま流す。
背後を取り、鞘で一撃。そして蹴りで下に蹴り落す。
「終わりだ!」
「私たちを倒したくらいでいい気になるなよ!」
倒れこむオシリスは高々と口にした。
オレはそのままオシリスの頭にクレイモアを突刺した。
オシリスもファラオ同様黒い光になり、ピラミッドの方向へと飛んで行った。
「くそ…っ。」
前はここまで苦戦を強いられなかった。
今回はバーサクをして尚全力を出さざるを得ない程だった。
オレの体が悲鳴を上げ、足がガクガク震える。
やはり強くなっているのは、一部のみじゃないらしい。
ジャリ……――。
「誰だ!」
後ろから誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
「自分から足を運んでくるとはな。」
オレはその後ろに居るヤツに言った。
後ろを振り向くと、ヤツラが言っていた黒騎士が立っていた。
黒い兜、黒い鎧、黒いマント、そして黒い巨大な剣。
顔を覆う兜からは血の涙の様なものが時折見える。
剣には血と思われる液体が生々しくついている。
「アンタは何者だ?この騒動の首謀者なんだろう?」
「…。」
黒騎士はオレの問いにも答えず、ただその場に立っているだけで、動く気配も見せない。
しかしそれでもとてつもないプレッシャーが感じられる。
オレが悪寒を感じたのはこいつのせいか。
「だんまりか。それとも力ずくで…か?」
オレがそう言うや否や、黒騎士が右手の大剣を構えた。
「やっぱりそう…――。…?」
突然胸から腹にかけて痛みが走る。
オレは黒騎士を見るが、黒騎士は動いてる素振りがない。
オレは自分の体を触ると、べったり血が手に付いているのが目に入った。
「ちくしょ…。」
とにかく攻撃されたのは間違いない。
相手の実力とオレの力の差が相当なのもわかった。
オレがまた黒騎士の方を向きなおした。
するとヤツの体が流れるようにこっちに向かってくる。
「なっ…!」
向かってくると思った瞬間、目の前に黒騎士が現れた。
先ほどの見えない攻撃と比べたら、止めることができる攻撃だが、それでもただクレイモアを構えてただけだからだ。
構えてなかったらまた斬られていたに違いない。
「こんの…バカ力め…!」
怪我を負っているとはいえ、まだバーサク状態であるオレの筋力を持ってしても、踏ん張っている足がズリズリ後ろに下がっていく。
「今度はごり押しだけか…?」
「…。」
やはり黒騎士が反応して喋ることは無い。
「さっき何もせずに攻撃を当てられたから、手抜いても大丈夫だとでも?」
黒騎士の足を払い転ばせる。
動けないようにそのまま鎧の継ぎ目を縫って肩を刺した。
まだ殺しはしない。
色々聞き出さないといけないことがあるからだ。
「…。」
「痛みも感じねーのか…!?」
黒騎士はオレのクレイモアを手で抜き取り起き上がった。
「まだやるつもりか?」
「…。」
「な…っ。血が!?」
オレは黒騎士から血が出ていないことに気付いた。
全力でクレイモアを刺したはずなのに、黒騎士の肩からは血の一滴も毀れていなかった。
「…。」
黒騎士が剣を持っている右手を動かした。
「!?」
まだやるつもりかと思ったが、突然黒騎士の回りを黒い光が覆う。
黒騎士は剣を鞘に納めてそのまま姿を消した。
「消えた…?いや、帰ったのか…?」
気付くと回りのモンスターたちも居なくなっている。
どうやら全員戻ったらしい。
「目的も正体もわからずじまいか。」
オレがそう呟いた時だった。
「ラク大丈夫だったか…!?」
ソラが戻ってくるのが見えた。
その後ろからみんなもいるのが確認できる。
「おーい!ファラオはどうしたー?」
「オレが負けるとでも?」
ソラが慌てて聞いてきたのに対して、強がって返した。が付け加えるようにして言った。
「なんてな。オシリスも居たからついでに倒したが、どっちも全力を出さないと勝てなかった。」
「上級モンスター2匹!?しかも強くなって…?いや、それよりも今は傷の手当てが先だ。ひどい傷じゃんか。」
ソラがオレの胸から腹にかけて、手をかざしヒールをかける。
「全部消えたのか?」
ヒールをかけて貰っている所に、みんなが到着した。
「多分な。気配も感じないとなるとそう見るのが一番だろう。」
「やるだけやりやがって。後始末が大変だってのによー。」
ルーシーがオレの答えに愚痴を零す。
どうやら愚痴を言うほど力が有り余っているらしい。
この調子じゃみんな元気そうだな。とみんなを見る。
「とりあえずギルドに戻るぞ。手当てとかは戻ってからだ。」
「了解―。」
「マスミ。ちょっとお願いがあるんだが聞いてくれるか?」
みんながギルドに向かって歩き出している所でマスミを呼んだ。
「何でしょうか?」
「できたらで良いんだが、上級モンスターの復活時期をもう一度調べなおして欲しいんだ。騎士団にも今回の件を報告するつもりだから、正式に諜報部にも指示が行くと思うけどね。」
「それでしたら諜報部の方に持ちかけてみましょう。」
「悪いな面倒ごと頼んじまってさ。」
「いえ、大丈夫ですよ。さ、みんなに置いて行かれちゃいますよ。」
マスミに礼をした。
マスミは笑って返事を返してくれた。
オレはマスミに引っ張られるようにして、そのままみんなの列に戻った。