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第1章
第41話 【プロンテラ市街戦】
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プロンテラのメインストリートにはモンスターと人との死骸がそこら中に転がっている。そして今なおメインストリートを中心に戦火は広がっている。騎士団や十字軍も部隊を出動させるも、モンスターの数が多く被害が拡大を見せる一方だ。オレらは動ける一般市民を城内及び城の奥にある砦内区域に避難させ、負傷者は大聖堂のプリーストたちに任せて殲滅に集中できるよう状態を整えた。
「これじゃ…!きりがない…!」
クロノがカタールで敵を薙ぎ払いながら、呼吸を荒くして言った。
ザシュッと音を立ててモンスターが倒れて行く。
「勝機はある!諦めるな!」
オレはツーハンドクイッケンを使いアヌビスの軍団に斬り込む。
軍団と言っても所詮攻撃できるのは前列のみ。
地の利をうまく使えば、そう難しい話ではない。
「四方が囲まれている場所に誘導しろ!」
そう言う間にもアヌビスの攻撃がオレに向かってくる。
オレはひょいっと跳躍して外壁の上に登った。
「目障りなんだよ!」
クレイモアを鞘から取り出す構えを取り、そして抜いた。
ソニックエッジを連射したいところだがきりがない。
メテオアサルトの要領でクレイモアで同じことをした。
前列にその闘気の刃が当たり薙ぎ倒す。
「ヴァオオオオオオオオン!!」
咆哮を上げて崩れさるアヌビスたち。
アヌビスの大群はオレを目掛けて突っ込んでくる。
「こっちだワン公!」
外壁の上を走り、四方に囲まれている場所へ誘導する。
住宅が立ち並ぶが避難させたから問題は無い。
大体がその場所に収まったのを確認した。
そして知らせるように叫んだ。
「今だああああああああ!!」
『神よ、我らに仇名す悪に裁きを。邪を滅する力を!マグヌスエクソシズム!!』
「ワナカ!!」
「遅いよ気づくのが。」
オレの合図に気付いたアヌビスが声を上げた。
同時にアヌビスたちの四方からマグヌスを唱える声が聞こえた。
ルーシー、ソラ、アンジェ、ヒナがオレの後に着いて来ていたのである。
「コレシキノコトデヤラレテナルモノカアアアアアア…。」
さすがに数が多いだけあってマグヌスだけじゃ殺しきれない。
もう罠ということがバレてしまったからマグヌスをもう1度唱える余裕はない。
「良くやってくれた!後は任せろ!」
アヌビスの後方から声が聞こえた。
見ると騎士団二番隊がアヌビスの後方を塞いでいた。
「イソラか!」
イソラはロードナイトで騎士団二番隊隊長だ。
ナイト時代から付き合ってた古い友達である。
「遅れてわりーな!」
囲まれた状態を打破しようと、アヌビスが二番隊目掛けて突っ込む。
「騎士団をなめるなよおおおおおおおおお!」
イソラが駆け出すと共に二番隊がアヌビスの軍団に飛び込んだ。
二番隊とアヌビスの大群の戦いが始まった。
「ラク!ここは二番隊に任せて他の殲滅を頼む!一番隊は副官補佐が率いてるから安心しろ!」
「死ぬなよな!」
「そりゃ言われずとも!」
二番隊がアヌビスの群れと交戦を始めた。
戦友と約束を交わしたオレは、その場を振り向くことなく後にした。
「しかしあれだけのアヌビスが居たとすると…。」
「ラク!」
そう考えていた所にソラが走ってきた。
「ファラオが!ファラオがメインストリートに現れたらしい!」
「やっぱりな…!周りに市民が居ないか確認するんだ!」
考えが的中した。
あの黒いもやを感じたのは、上級モンスターがいたからか。
しかしまだ胸につっかえるモノがある。
この悪寒はファラオの他のプレッシャーか?
とりあえずファラオを倒してからだな。
「ぐあああ…!!」
メインストリートに男の声が響く。
「大の大人が大声を上げるとは情けないぞ?」
「やめろファラオ!」
ファラオが他ギルドのナイトの頭を踏みにじっている。
オレの声が届いたのか、ファラオは首をグリンとオレの方に回す。
「来たなラクティヴ。お前さえ来ればこんなゴミで遊ぶ必要はない…。」
ファラオが足元のナイトを見て、足の力を強めようとした。
「やめろって言ったのが聞こえねーのか?」
ファラオの背後を取り、首筋にクレイモアを当てる。
ファラオの動きが止まり、ナイトは死なずに済んだ。
「足を上げろよ。」
「やはり楽しめそうだな。」
ファラオはそう言ってナイトから足をどかした。
「こんなヤツ殺す価値もない。」
ファラオはそのナイトを蹴り飛ばした。
ナイトは死んでは居ないようだがかなりの重症を負っている。
「てめぇ。ソラ!そのナイトの治癒を頼む!」
ソラが頷きその場を離れたのを確認したオレはクレイモアを構えてファラオを睨んだ。
「お前も知っての通り、魔王モロクの復活による魔力漏洩で我々上級モンスターは力が以前より増している。前と同じ様に、すんなり倒せると思わない方が良いぞ。」
ファラオが上級モンスターの力が増している事を口にした。
やはり魔王モロク復活が関係していた。
「御託はそれだけか?」
「悪いな。話はそれだけだ。これから死ぬヤツにこれ以上話もあるまい。」
「ハッ!口も達者になったみたいだな!」
オレは喋ると同時にオーラブレードとコンセントレーションを使った。
「もうお前には取り巻きなど必要ないな。」
そう言うとファラオが腰から、光り輝く太陽剣を取り出し斬りかかって来た。
太陽剣とは、ファラオが持つ太陽神ラーから授けられたもので、太陽剣で傷つけた相手から生命力を奪う能力を持っている。
「お前に剣が使えるとは驚きだな。」
キィンとファラオの一撃を防ぎ、そのままクレイモアで太陽剣を捌く。
太陽剣を捌かれ姿勢を崩したファラオの背後から一撃を見舞う。
「中々やるがまだ甘い!」
「チィッ!!」
背中にクレイモアを振り払おうとしたその時、頭上から稲妻が落ちてくるのに気付いた。
オレは攻撃をやめて後ろに跳躍する。が、更に後ろから殺気を感じ取ったオレはそのまま横に跳んだ。
「何だとっ…!?」
オレの背後にいたのは冥界の王オシリスだった。
オシリスとは体をミイラとして包帯で巻かれて王座に座る男性であり、エジプト神話の神の一柱である。
オシリスもファラオと並び上級モンスターであるが、本来はピラミッドの最上階に出てくるモンスターだ。
「2人揃って何でプロンテラに居るんだ!!」
上級モンスターが街に現れること自体ありえないのに、二体同時に街に現れるなど考えられなかった。
「そなたが良く知っている者が、私たちを進軍させたのだよ。」
「オレが知る者…!?」
オシリスはオレにそう言った。
オレは頭の中にそれらしき人物を浮かべたが、どれも身近にいる人ばかりだった。
「黒の騎士とお前は呼んでいるそうだな。まあ間違ってはいない。我らも黒騎士様と呼んでいるからな。」
「!!」
『黒の騎士』とこいつは今喋った。
やっと謎の端っこを捉えた気分になった。
「そいつの事を吐いて貰うぞ。」
「我ら2人を同時に相手にするというのか?」
オシリスが血まみれの包帯の中からアサシンダガーとスクサマッドを取り出した。
アサシンダガーとは、オシリスを妬み殺したセトが使った短剣であり、スクサマッドとは砂漠にある部族に古くから伝わる短剣と言われていて、絶対に壊れない素材でできている。
「お前ら2人だけでオレを相手にできるのか?」
オレは挑発するようにオシリスの問いに答えた。
「その減らず口をきけなくしてやるぞ、ラクティヴよ!」
オシリスとファラオが左右から同時に駆けて来る。
どちらも上級モンスター。
一遍に2人の攻撃を受けるのは得策じゃないな。
ここは一人ずつ各個撃破しかないか。
幸い2人は逆方向に位置している。それを使って早めに一人撃破するか。
「はぁっ!」
向かってくるファラオにソニックエッジを放った。
オレはそのままソニックエッジについて駆ける。
「お前の浅はかな考えはわかっているぞ!」
放ったエッジは予定通り太陽剣でかき消され、クレイモアの斬撃も太陽剣によって止められた。
「それだけか?」
「だと思うか?」
止められたクレイモアからエッジが一発飛び出る。
それはファラオの腕から肩、そして左頬に走る。
「ただ止められるだけの攻撃をすると思うか?」
クレイモアは止められるつもりだった。
だから振りをソニックエッジを放つように高速でやってみせた。
「この顔に傷をつけたな…。」
ファラオがツタンカーメンマスクに傷をつけられて怒っている。
ツタンカーメンマスクはファラオの象徴とも言える黄金の仮面である。
もはや顔と言っても良いだろう。
「お前は…、私をどこまで怒らせれば気が済むんだ…?」
ファラオの体が赤く光バチバチ音がしている。
そのとき後ろにも殺気を感じた。
「お前は後で相手してやるって…!」
短剣を振り上げ、がら空きの腹に一発蹴りを食らわせて吹っ飛ばした。
オシリスドガッと音を立て壁にぶつかった。
「お前の相手は私だぞ!」
「くっ…。せわしいヤツだな!」
オシリスに蹴りを食らわしたと思ったら、ファラオが目の前まで詰めてきていた。
オレはファラオの一撃を受け止めたが、爆裂状態の攻撃はさすがに流すことができない。
重量感がある攻撃なだけに、防ぐので精一杯だ。
「落ちろ!!」
「ぐあッ…!」
ファラオは太陽剣でオレを押さえ込みながらも、無詠唱でサンダーストームを唱えた。
続けざまに太陽剣を切り払ってくる。
「のやおおおおおおお!!」
太陽剣を避けて腕を切り付けた。
「確かに強くなっているな。」
ファラオがニィッと笑みを浮かべた。
オシリスもそろそろ動き出す頃合だ。
早くファラオを倒さないと。
それより騎士団員たちが来たら、更に死者が増えてしまう。
プロンテラは昼間だと言うのに、雲に覆われ、煙があちこちから立ち昇り、モンスターと人々の叫び声が響いていた。