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第1章
第40話 【急襲】
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お昼時になったから5人の稽古を終わらせて、みんなで昼食にした。
稽古をつけていただけのオレとは違い、4人は相当疲れたようだ。
他のみんなと食べる量が倍近く違う。
次々と大皿から取っては腹に入れ、大皿に手を伸ばしては…。
「もうちょっと行儀良く食べられないの?」
セリアがリュートに向かって言った。
「修行の後は腹が減るんだよー。」
「そのとーり!」
リュートを味方するように、エンブリオが食べながら言った。
「アンタもよ。」
それを見ていたフルナーゼが、エンブリオの頭をばしっと叩いた。
「まあまあ、二人ともそう熱くならずに。」
レンがセリアとフルナーゼを止めに入った。
「2人もうるさくするのはいいけど、行儀よく食べるのよ?」
マスミが2人に言った。
「わかりましたー。」
リュートとエンブリオがふくれっつらをして席についた。
「それにしてもこんな人数で食事とか初めてだな。」
「元々があれなもんでしたからね…。」
リュウとクレナイが人数の多さに圧倒されている。
「大家族とかのレベルじゃないなこれは…。」
ソラがその多さを口にした。
それもそのはず会議用のテーブルでそのまま食事をすることなんて、今まで一度もなかった。
だが今はその会議用の大きいテーブルでさえも席の余りが無いほどの人数で囲まれている。
「おかわりいる人―?」
フィオナが席を立ち上がりそう言った瞬間だった。
「はいはい!」
「オレもオレも!」
「オレが先だああああ!!」
「あ、ティーズの分のお肉もおねがーい!」
男性陣が一斉におかわりに飛びつく。
そして何故か違う物をねだる者も居た。
アズサがティーズの分もと言っているらしい。
ふと思いついたが、人数が増えてから食費がハンパないことになっていることを、フィオナたちから聞いた。
それもそうだろう。
この人数とおかわりに飛びつく人数を見れば…。
「昼食でこの有り様…。」
オレが食費の事を考えて口に出した一言にセネルが反応した。
「まあ、人数少ないよりはましだべ?」
パンをちぎり、口に放り込みながら笑って言ってきた。
「まーな…。」
確かにセネルの言うとおり。
ギルド創設時の少ない人数と比べたら賑やかで喜ばしい。
創設時はオレとルーシー、セネル、ソラのみ。
女が誰一人として居ない、とてもむさ苦しい食事だったのだ。
それを考えたら幸せか。と思い笑みを零した。
「おい、何だか外が騒がしくないか?」
窓の外を眺めていたロイが異変に気付いた。
「そうだな。しかも人の声がうるさいって言うよりは、建物が崩れたりするような…。」
「もしかして昼間っからテロか…!?」
各々が想像を膨らませた。
同時に窓を開けて外を見た。
「おいおい…。街中にデュラハンが居てたまるかよ…!」
ケルト伝説の中に出てくる、首無しの騎士デュラハンが外を歩いているのを見つけた。
デュラハンは本来現世には存在しないモンスターだ。
実際は世界樹イグドラシルの奥にある「死者の街ニブルヘイム」と言われる死者のみの街に居るのだ。
「全員戦いの準備だ!強敵が居るかもしれないから、装備にぬかりがないようにしろ!」
オレが全員に戦闘準備を促した。
「食後の運動にはもってこいだな。」
リュートが腕をブンブン振り回している。
セネルもパキパキと腕の骨を鳴らして「戦闘準備はできてるぜ」と言った顔をしている。
各自が部屋に武器や防具を取りに戻る。
「クラウ!さっきの稽古忘れてないだろうな?」
「もちろん!」
クラウが自信満々と言った顔をしている。
「だけど、クラウたち3人はルーシーたちの傍を離れないこと。他での交戦は許さないからな。」
「ラジャー!」
3人が頷いてルーシーの方を見た。
「子守は任せとけよな。」
ルーシーがぐっ親指を立てて見せた。
「全員揃ったな?」
ルーシーが頷いたのを確認して、みんなが揃ったか部屋を見回した。
「新生”Thousand Brave's”の初戦闘だが、お前らはみんな怪我人だ。無理はするなよ!」
ギルドのドアを開けるや否やモンスターがオレらに気付いて遅いかかって来る。
「行儀が悪いってのはこういうヤツらのことじゃないのっ!!」
エンブリオがいきなり襲い掛かってきたモンスター相手に叫ぶ。
エンブリオはグラディウス2本でアノリアンと呼ばれる鰐の戦士の攻撃を受け止める。
「全くその通りだ。」
エンブリオがアノリアンを抑えているうちに、リュートがアノリアンのわき腹に拳を打ち込んだ。
「各自離れすぎないように距離を開けろ!」
狭すぎると戦いづらくなるため、一定距離を開けるよう言った。
「ウガアアアアアア!!」
「イビルドルイドか!!」
オレの真下に魔法陣が浮かび上がり、そこから大きく尖った岩が突き出す。
「お前も魔道に堕ちたんだな…。」
イビルドルイドは魔道に堕ちたプリーストの成れの果てである。
強力な魔力を欲しがり、その身を悪魔に売り渡した哀れな末路である。
オレはイビルドルイドを、魔道に堕ちた親父と重ねた。
「オレはそんな風になりはしない!!」
動きの遅いイビルドルイドの魔法発動直後を狙い、クレイモアを首目掛けて斬り払った。
「何だあれは?」
イビルドルイドの首が落ち、その体が砂のように崩れるのと同時にオレはそれを見つけた。
メインストリートの方には黒い霧の様なものがかかり、薄気味悪い雰囲気が発されていた。
「ヨソミヲスルナ。」
「ちぃっ…!!」
オレがそちらに気を取られている内に背後をパサナに取られた。
パサナは砂漠の王ファラオと呼ばれる上級モンスターの番兵であり、死して尚ファラオの墓を護り続ける狂気の男だ。
男と言ってもモンスターとなんら変りないが。
「オラオラアアアア!ラクティヴだけじゃないんだよザコどもおおお!」
セネルがパサナを拳で弾き飛ばし、倒れたパサナに斧を投げ込む。
オレらはギルド周辺のモンスターたちを殲滅しながらメインストリートに向かった。
「結構大規模だな。」
ソラがメインストリートを見て言った。
「というか大規模だろ。どこの金持ちがやったんだかな。」
モンスターたちを倒しながらロイが言う。
オレはロイの意見も最もだと思ったが、果たしてテロだけでこれだけの枝を折れるだろうかと疑問が浮かび上がった。古木の枝は大量にあるが、そんなに安いものではないからだ。
「素敵なワン公のお出ましだぜ。」
「我ニ仇名スモノハ皆殺シダ。」
犬と言うよりかは狼に近い風貌をし、3mはあろうかという巨体から鋭い爪による一撃を繰り出してきた。
「おっと…。」
フィアンムがアヌビスと呼ばれるファラオの尖兵の一撃をヒラリと避けた。
「マダマダ。」
アヌビスは攻撃する間を与えないと言う様な速さで、フィアンムに攻撃を繰り返す。
オレはその様子を見て体を心配した。
「これくらい一人で何とかできますからね!」
オレの行動を読み取ったのか、オレの方を向いて大声で言ってきた。
同時にクレイモアを鞘から抜き、ツーハンドクイッケンを使った。
「これくらいで攻撃を封じたつもりか?」
繰り出された腕を切り落とし、そのまま横に一刀両断した。
「アヌビスハマダマダイル。我ヲ倒シタクライデツケアガルナヨ人間ドモ。」
消えながらヨウブにそう捨て台詞を吐き捨てた。
「確かにこりゃ多いな…。」
ヨウブの目の前には何百とも数えられないアヌビスが居た。
「うおらああああああ!!」
ヨウブの脇を叫びながら通り過ぎるクレナイとアッシュが見えた。
「バカ!数がおお…――。」
突然戦場に詩が流れた。
後ろを振り向くとブラギの詩を演奏するファマスと、その範囲内で詠唱を唱えるユニーとバルジが見えた。
「大気の水よ、我に仇名す者に制裁を!ストームガスト!!」
「荒れ狂う風、乱れる稲妻、支配を解き放て!ロード・オブ・ヴァーミリオン!!」
クレナイとアッシュがアヌビスの集団に着く数秒前に、ユニーとバルジが放った大魔法がアヌビスたちを襲う。
魔法が収まりそのまま特攻をかけるクレナイとアッシュ。
「私も出るわ。」
アリスがファイアーブランドとアイスファルシオンの宝剣2本を両手に持ち、アヌビスの軍団に走り出した。
前にはアヌビスの軍団、後ろにはまだ多くのモンスター。
善戦はしているがどうみても数が多い。
力の優劣には不安が残らないが、不穏な空気に不安がよぎる。
さっきまで晴れていたプロンテラ上空には、黒々とした暗雲が立ち込めていた。