〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第1章
第39話  【強く在るために】

 新生”Thousand Brave’s”が誕生してから数日が過ぎた。
 オレは騎士団から一ヶ月の休暇を出されたので、別段やることもなくみんなとの会話や遊びに時間を費やすことで、限りある休日を楽しんでいた。

「ヨウブーいいでしょー?なー。」
 居間で会話を楽しんでいたオレの目にクラウが止まった。
「まだケガが残ってるからなー…。」
 クラウがヨウブに何か頼んでいるようだ。
 だがケガがあるから渋っているらしい。
「どうかしたか?」
 オレは二人を割ってはいるように口を挟んだ。
「クラウが稽古つけてくれって言うんですけどね。オレまだ完治してないからどうしようかと…。」
「稽古?」
「うん!オレ強い騎士になりたいから、今から頑張らなきゃいけないんだ!」
 稽古か。
 自分を鍛えて欲しいとクラウがヨウブに頼み込んでいたらしい。
 ヨウブのケガの度合いを見ると、動く程度ならいいが稽古はまだできそうにない。
「何で強くなりたいんだ?」
 オレがその理由をクラウに尋ねた。
「ラクの様にみんなを護れる騎士になりたいんだよ!」
 オレとヨウブは目をパチクリさせ見合った。
「よし、ヨウブはまだケガが残ってるからオレが稽古をつけてやろう。」
「てっきり断られるかと思って、ヨウブに頼み込んだのに!」
 クラウが笑って痛いところをついてきた。
 確かに直接頼み込まれていたら、稽古をつけていた自信がない。
 子供はそういう所を良く見ているのだなと実感せざるを得なかった。
「準備はできてるか?」
「バッチリ!」
 クラウはバスタードソードを手に持ち答えた。
「じゃー修練場行くか。ヨウブはしっかり休んでおけよなー!」
 ヨウブに手を振り、クラウを連れて地下の修練場に向かった。

 修練場では既に先客が居たらしい。
 と言っても、地下にある修練場は地上にある建物より遥かに大きい敷地面積を誇る。
 だから誰か先に居ても、模擬戦などしない限り邪魔になることはない。
「猛虎硬爬山!!」
 リュートの声が聞こえる。
「このっ!」
 ロイが叫びを上げて一撃を耐えようとする。
 盾でその強力な一撃を捌いて後ろに下がりながら、パイクをリュート目掛けて突き出す。
「ッ…!」
 パイクはリュートの頬を掠めた。
 頬の皮が裂け、そこから血がにじみ出る。
 リュートは血をぺろっと舐め、笑みを浮かべた。
 どうやらセネルと同じタイプらしい。
 というかあいつらはもう体の方は大丈夫なのかと聞きたかったが、真剣勝負にも見えるからやめておこう。
「こうでなくちゃ面白くねーよな!」
「オレもそう思うぜ!」
 リュートとロイのやり取りを横目にしながら、オレとクラウは空いている場所に向かった。
「もの凄い戦いだね…。」
 クラウがまだ2人を見つめている。
 その目は歴然の差に驚く気持ちと、あんな風になれたらという希望が入り混じっている。
 オレはその様子を黙って見つめていた。
「とりあえず剣を構えてみろ。」
 空いている場所を見つけさっそく稽古を始める。
「もっと腰をシャキっと!引きすぎだぞ!」
「こう?」
 まずは構えからやらせてみたが、腰が引けている。
 無理もない。平和な街にずっといるから、戦ったこともまだ一度も無いだろう。
 オレは手本を見せながら基本からやらせることにした。
「剣をしっかり握り…、こう…。やってみろ。」
「剣をしっかり握って…。腰は引かせない…。」
 クラウが見よう見まねで、オレと同じ姿勢を取る。
 さっきよりは多少良くなったがまだまだだ。
「もっと普通に立つ様に腰を真っ直ぐにしてみろ。」
「立つように…立つように…、こう…?」
「よし、その形を忘れずに剣を前に振り下ろすんだ。声もちゃんと出すんだぞ。」
 そこそこ姿勢が取れたので、そのまま素振りをさせることにした。
「やぁッ!」
 掛け声と共にブンッとバスタードソードが振り下ろされる。
 まだ振りが遅い。
 これじゃ斬れる物も斬れないだろう。
 オレはもう一度手本を見せることにした。
「姿勢はそのままで、心を無心にするんだ。剣を振ることだけに、敵が居ると思って思い切り振り下ろすことだけを考えろ。」
 そう言ってオレは目の前にあるカカシにクレイモアを払った。
 バキャ・・・――。
 無残にもカカシは真っ二つに割れてしまった。
「ここまでしろとは言わないが、要領は同じだ。」
 カカシが真っ二つに割れて倒れた。それを見たクラウは刺激されたのか、やる気が俄然出たように声を出した。
「ラクすげー!」
「お前もできるようになるさ。」
 目を輝かせて言うクラウの頭を撫でた。
「おっしゃー!やってやるぞおおおお!!」
 自信が出てきたのか、クラウは夢中で剣を何度も何度も振り払う。
「姿勢が崩れてるぞ。」
「はいっ!」
「オレの様に…か。」
 『みんなを護る騎士』として見てくれていたクラウを見てフッと笑う。
 オレはいつの間にかそう思われているらしい。
「やってますねー。」
 後ろを振り向くとヨウブが居た。
「大丈夫か?」
「日常生活を送るくらいなら、もう問題ないっすよ。」
 しっかりとした足取りでこっちに向かってくる。
 ヨウブ自身が言うとおり、日常生活には支障はないらしい。
「クラウ、ラクさんに稽古してもらってんだからちゃんとやれよな。」
「うるさいなー!今話しかけないでよ!」
「今何かを掴みかけてる所らしいから、そっとしといてやれ。」
 クラウに軽く言ったつもりだったが、あまりの真剣さに驚くヨウブの肩をポンと叩いた。
「リュートとロイはあんなに激しくやってるけど大丈夫なんすかね?」
 こっちを来るのにヨウブもあの2人の激しい動きを横目にして通り過ぎたのだろう。
 心配と驚きが入り混じるような声でオレに尋ねてきた。
「何言っても聞くやつらじゃないだろう?」
 あれだけ激しく動いているのだから大丈夫だろうと思い、軽く笑って返した。
「ラクさんとヨウブも来てたんですかー?」
 クラウを背にして会話をしていると、前方から声が聞こえた。
 アッシュとエンブリオが稽古でもするかの様な格好をしている。
「お前らも体の方は良いのか?」
「バッチリっすよ!今からエンブリオさんと体動かそうとして来た所ですよ。」
 アッシュとエンブリオは腕まくりして見せた。
「全治一ヶ月って言われてんだから、あまり無茶しないようにしろよ?」
「軽く体動かすだけだから大丈夫だよ。」
 エンブリオが笑って見せた。
「それに強くならないといけないですしね。」
 エンブリオに続いてアッシュが言った。
 強くか…。
 みんな思うことは同じらしい。
「じゃあ軽くいきますかね♪強くなるためにッ!」
 そう言ってエンブリオがグラディウスを両足から取り出した。
 エンブリオも同じくグラディウス2本を取り出して構えた。
「おまえら…!軽くじゃない…――。」
 その本気さが滲み出る顔を見てオレは止めようとしたが、言い終わる前に2人はぶつかりあった。
「チェイスウォーク!!」
「!?ならオレは…!トンネルドライブ!!」
 エンブリオがチェイスウォークで姿を消したのに対し、アッシュはトンネルドライブを使い姿を消した。
 チェイスウォークはアコライトのルアフや、マジシャンのサイトでも姿をあぶりだすことはできない。
 ただし地面指定攻撃を受けるとスキルが解除されてしまう。トンネルドライブは姿は消せるがあぶりだされてしまう。スキルを使っても解除される。
「それで逃れたと思うなよ?」
 エンブリオが地面の砂を撒いた。
 するとエンブリオらしき姿がその場に浮かび上がる。
「やばっ…!」
「遅い!!」
 トンネルドライブは移動速度が遅くなる。
 その上見破られたから、アッシュが解除しようとしたが、既に後ろにエンブリオが迫っていた。
「まだ…っ!」
「な…っ!?」
 背後を完全に取られたと思ったら、隠し持っていた石を後ろ向きのままエンブリオの顔目掛けて投げつけた。
 人は誰しも目の前に物が飛び出ると、目を瞑ってしまうものだ。
「ちぃっ!!やるじゃんアッシュ!」
「いやいや…。動き速くてついていけませんよ…。」
 目を逸らした一瞬を狙って、アッシュはエンブリオと距離を取り、つかの間の休息と言った感じでお互いに謙遜しあっている。
「言っても聞きもしないからなー…。」
 2人を見てオレが呟いた。
「こうなったら終わるまで続きますよ…。」
 ヨウブがオレの横で呆れるような声を出している。
「まあ、目的も無しに無闇に体を酷使するよりはいいだろう。」
「そう…ですね。」
 リュートとロイ、アッシュとエンブリオ、そしてクラウ。
 5人それぞれが『強く在るために』そう胸に秘めてるその思いが顔と行動に出ているのが良くわかった。
「さてっと。それじゃ稽古見てくるかね。」
「じゃーオレは戻りますねー。」
 手を振るヨウブに応えるようにオレも手を振った。
 そして再びクラウの下に戻り稽古をつけることにした。
「ほら、姿勢が雑になっているぞ!」
 オレはクラウの稽古ついでに、4人が無理をしないように見張ることにした。
 4人はそうとも知らずに修練に励んでいた。
 吹き抜けの天井を見上げると、ちょうど太陽が真上に来る当たりまで来ていた。

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