〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第1章
第38話  【新生Thousand Brave’s】

 マスミとシンの結婚式と、シンの葬式を行ってから3日が過ぎた。
 そして今日、”Holy Cursade”の現マスターのマスミから会議をしたいと言われ、今日オレらのギルドに来ることになっている。
 急なことで迷ったが、何でも大事な話らしい。と言う事で今日”Holy Cursade”がやってくる。

「というか、後少しで時間なのにお前らなにやってるんだーーー!」
 オレがくつろいでいる皆に怒鳴った。
「だって会義と言っても”Holy Cursade”とでしょ?ならそんなキチっとしなくてもいいんじゃ――。」
「会義は会義!どこと会義するから変るなんてことはないんだよ。わかったら準備準備!」
 間の抜けた事を言ってきたので、間髪入れずに喝を入れた。
「はぁーい。」
 ふてくされた返事が返ってくる。
「ラクー。」
「どうかしたか?」
 スティルが何か聞きたそうにやってきた。
「今日のかいぎっていうのには出ていいの?」
 前回はそういえば大事な同盟交渉の件だったから、部屋でおとなしくしてるよう言ったんだったっけか。
「うるさくしないなら、一緒に出てもいいぞ。」
「2人にもそう言ってくるー。」
 オレの言葉を聞いたスティルは、居間を出て2階に駆けて行った。
「フィオナー。紅茶でも用意しといてくれ。」
「わかったー。」
 フィオナがそう言ってキッチンに向かう。
「他のヤツは、準備できたら席に着いてくれー。」
 オレの掛け声と共に、みんなはガタガタと椅子に座りだす。
 丁度クラウとテレーゼを呼びに行ったスティルたちも戻ってきた。
「すいませーん。」
「ご到着のようだ。」
 ドアの方からマスミの声が聞こえてきた。
「お待ちしていました。どうぞ中へ。」
 ドアの向こうには”Holy Cursade”のみんなが立っていた。
 オレはみんなを中に招きいれ、前と同じ様に居間のテーブルに座らせた。
「今紅茶出しますのでお待ちください。」
「今行くよー。」
 キッチンの方からフィオナの声が聞こえてきた。
「どうぞ。」
 カチャカチャとカップをみんなの前に出していくフィオナを見て、会議を始めることにした。
「ではこれより緊急会議を始めたいと思います。マスミさん今回の内容を。」
 オレがそう促すと、マスミが立ち上がった。
「今回は急な会議を受けていただいてどうもありがとうございます。」
 その言葉にオレらは軽くおじぎをした。
 ”Holy Cursade”のメンバーもそれに答えるようにおじぎを返してきた。
「会義の内容ですが、”Holy Cursade”を解散して、今のメンバーを”Thousand Brave’s”に加入させて頂たいと言うことです。」
「それは合併と言う事ですか?」
 オレは突然の言葉に驚いたが、そのまま質問を返した。
「いえ、私たちが新規加入させていただく形です。」
「”Holy Cursade”の方はよろしいのですか?」
 今度はルーシーが質問した。
「元々”Holy Cursade”は亡きマスターシンのギルドです。シン亡き今は私たちが居ても、ただの殻だけが残っているに過ぎません。そこで私たちは話し合いました。」
「どのような?」
「私たちは、その殻にいつまでも閉じこもっているわけにはいきません。シンもそう思っているでしょう。それが直接解散に繋がったわけじゃありませんが、”Holy Cursade”はシンのギルドです。
 ┃シンが居なければ”Holy Cursade”じゃないのです。しかし、”Holy Cursade”は私たちの心の中にもあります。今までの記憶と共に。だから形だけの”Holy Cursade”を解散して、シンの意志を引き継いで行こうということになったのです。」
「それで何故私のギルドに?」
「それはあなたはシンが唯一認めた人だからです。シンが認めたなら私たち”Holy Cursade”も同じ意見です。それと助けてもらったご恩があります。」
「助けた?私たちなら助けられましたけど、助けた覚えは…。」
「騎士団からの依頼があったとはいえ、シンの意志を汲んでくれました。そして一緒に戦ってくれました。それが何よりの助けでした。」
「厄介ごとが多いですようちは?」
 笑ってマスミに言った。
「あなた方たちとなら、それも本望ですよ。」
 ”Holy Cursade”のメンツは笑って頷いた。
「みんなはどうだ?」
「そんな事聞くまでもないだろ?」
 ソラが言った。
「一緒に戦った時から既に仲間だと思っていますよ。」
 バルジが笑みをこぼしながら言った。
「そうそう、戦友は親友じゃないですか。」
 リュウがバルジに続いて言った。
 クレナイたちもそれに頷く。
「部屋もまだ余ってるしな。」
 ”Holy Cursade”の方にセネルがニカっと笑いを飛ばす。
 オレはみんなの意志を受け取り、席を立った。
「では、”Holy Cursade”を解散し、現時点を以て亡きシンを含む元”Holy Cursade”のメンバーを”Thousand Brave’s”に入ることを許可します!」
 ギルド内に歓声と、新たな仲間たちを迎え入れる笑みが響き渡る。
「あ、それと彼女たち4人もギルドメン――。」
「言わなくてもわかってるわよ?」
 フィオナがオレの口を止め、そう言って来た。
「彼女たちも、もう私たちの仲間でしょ?」
 ヒナが4人を後ろから組んで笑った。
「マスミたちも、この4人よろしくな。」
「あなたたちはこの前の方たちですね。」
 マスミが軽く会釈をした。
「これからはよろしくおねがいしますね。」
「こちらこそ。」
 マスミと4人が挨拶をしあう。
「じゃあ元”Holy Cursade”のメンバーには、ギルド内の簡単な説明を――。」
 先日ハロルドたち4人に言ったのと同じ様に、元”Holy Cursade”のメンバーたちにギルド内の説明を簡単に済ませた。
「へぇー。地下に修練場があるのか。」
「いつも開放してあるから、好きなときに使ってくれて構わないよ。」
 楽しそうな顔をしているリュートに言った。
 元”Holy Cursade”のメンバーは、マスミ指揮の下部屋割り等を済ませることにした。
 オレたちはそれを見て楽しんでいる。
「また一層騒がしくなりそうだな。」
 ルーシーがオレの肩によりかかり言って来た。
「より一層楽しくもなるから良いだろ?」
 肩に顔を乗せているルーシーに笑いながら言った。
「ここのギルドにも華が咲いて良かった。」
 ルーシーがそう言った時、後ろから悪寒に襲われた。
「私たちじゃダメだったかしら…?」
 時既に遅し。
 ルーシーはアンジェ、ヒナ、アズサ、それにフィオナに袋叩きにされてしまった。
「ちょ…!いや言葉の文だって…!イテッ…やめてくれーーー!」
「何やってんだか全く…。」
 そうこうしてたらマスミがこちらに向かってきた。
「賑やかですね。」
「賑やかと言うより、騒がしいって感じですよ。」
 二人で騒いでいるみんなを見て笑みがこぼれる。
「そういえば、”Holy Cursade”で使っていた家屋は良いんですか?」
「あそこは既に売り払いましたので。」
 マスミが問題ないよ。と言う風な顔をした。
「あ、あとね。」
「何でしょう?」
「マスミにサブマスターを頼みたいんだけど良いかな?」
 “Thousand Brave’s”には元々ルーシーとソラがサブマスターをしていた。
 今回メンバーが増えたことと、ギルド1個が入ったことによって、少し変えようと思ったのだ。
 ”Holy Cursade”から一人、うちから一人と言った感じだ。
「”Holy Cursade”から一人、うちから一人って感じでサブマスターを出したいのですが。」
「私で良ければお願いします。」
 軽く会釈をして快く引き受けてくれた。
「うちからはルーシーを出すから、何かの時は2人に頼むよ。」
「こちらこそ、これからお邪魔になりますがよろしくおねがいします。」
 オレが握手を求めて手を出すと、それに応じるようにマスミも手を出し握手を交わした。
 袋叩きにされているルーシーのもがく姿がちらほら見える。
 リュートたち新メンバーとクレナイたちが楽しそうに談笑をしているのが見える。
 その様をオレとマスミは部屋の隅から眺めていた。
「これからは賑やかになりそうですね。」
 こうして”Holy Cursade”を迎え入れた、新生”Thousand Brave’s”が騒がしい声と共に産声を上げた。
 新生”Thousand Brave’s”が誕生してから数日が過ぎた。
 オレは騎士団から一ヶ月の休暇を出されたので、別段やることもなくみんなとの会話や遊びに時間を費やすことで、限りある休日を楽しんでいた。

「ヨウブーいいでしょー?なー。」
 居間で会話を楽しんでいたオレの目にクラウが止まった。
「まだケガが残ってるからなー…。」
 クラウがヨウブに何か頼んでいるようだ。
 だがケガがあるから渋っているらしい。
「どうかしたか?」
 オレは二人を割ってはいるように口を挟んだ。
「クラウが稽古つけてくれって言うんですけどね。オレまだ完治してないからどうしようかと…。」
「稽古?」
「うん!オレ強い騎士になりたいから、今から頑張らなきゃいけないんだ!」
 稽古か。
 自分を鍛えて欲しいとクラウがヨウブに頼み込んでいたらしい。
 ヨウブのケガの度合いを見ると、動く程度ならいいが稽古はまだできそうにない。
「何で強くなりたいんだ?」
 オレがその理由をクラウに尋ねた。
「ラクの様にみんなを護れる騎士になりたいんだよ!」
 オレとヨウブは目をパチクリさせ見合った。
「よし、ヨウブはまだケガが残ってるからオレが稽古をつけてやろう。」
「てっきり断られるかと思って、ヨウブに頼み込んだのに!」
 クラウが笑って痛いところをついてきた。
 確かに直接頼み込まれていたら、稽古をつけていた自信がない。
 子供はそういう所を良く見ているのだなと実感せざるを得なかった。
「準備はできてるか?」
「バッチリ!」
 クラウはバスタードソードを手に持ち答えた。
「じゃー修練場行くか。ヨウブはしっかり休んでおけよなー!」
 ヨウブに手を振り、クラウを連れて地下の修練場に向かった。

 修練場では既に先客が居たらしい。
 と言っても、地下にある修練場は地上にある建物より遥かに大きい敷地面積を誇る。
 だから誰か先に居ても、模擬戦などしない限り邪魔になることはない。
「猛虎硬爬山!!」
 リュートの声が聞こえる。
「このっ!」
 ロイが叫びを上げて一撃を耐えようとする。
 盾でその強力な一撃を捌いて後ろに下がりながら、パイクをリュート目掛けて突き出す。
「ッ…!」
 パイクはリュートの頬を掠めた。
 頬の皮が裂け、そこから血がにじみ出る。
 リュートは血をぺろっと舐め、笑みを浮かべた。
 どうやらセネルと同じタイプらしい。
 というかあいつらはもう体の方は大丈夫なのかと聞きたかったが、真剣勝負にも見えるからやめておこう。
「こうでなくちゃ面白くねーよな!」
「オレもそう思うぜ!」
 リュートとロイのやり取りを横目にしながら、オレとクラウは空いている場所に向かった。
「もの凄い戦いだね…。」
 クラウがまだ2人を見つめている。
 その目は歴然の差に驚く気持ちと、あんな風になれたらという希望が入り混じっている。
 オレはその様子を黙って見つめていた。
「とりあえず剣を構えてみろ。」
 空いている場所を見つけさっそく稽古を始める。
「もっと腰をシャキっと!引きすぎだぞ!」
「こう?」
 まずは構えからやらせてみたが、腰が引けている。
 無理もない。平和な街にずっといるから、戦ったこともまだ一度も無いだろう。
 オレは手本を見せながら基本からやらせることにした。
「剣をしっかり握り…、こう…。やってみろ。」
「剣をしっかり握って…。腰は引かせない…。」
 クラウが見よう見まねで、オレと同じ姿勢を取る。
 さっきよりは多少良くなったがまだまだだ。
「もっと普通に立つ様に腰を真っ直ぐにしてみろ。」
「立つように…立つように…、こう…?」
「よし、その形を忘れずに剣を前に振り下ろすんだ。声もちゃんと出すんだぞ。」
 そこそこ姿勢が取れたので、そのまま素振りをさせることにした。
「やぁッ!」
 掛け声と共にブンッとバスタードソードが振り下ろされる。
 まだ振りが遅い。
 これじゃ斬れる物も斬れないだろう。
 オレはもう一度手本を見せることにした。
「姿勢はそのままで、心を無心にするんだ。剣を振ることだけに、敵が居ると思って思い切り振り下ろすことだけを考えろ。」
 そう言ってオレは目の前にあるカカシにクレイモアを払った。
 バキャ・・・――。
 無残にもカカシは真っ二つに割れてしまった。
「ここまでしろとは言わないが、要領は同じだ。」
 カカシが真っ二つに割れて倒れた。それを見たクラウは刺激されたのか、やる気が俄然出たように声を出した。
「ラクすげー!」
「お前もできるようになるさ。」
 目を輝かせて言うクラウの頭を撫でた。
「おっしゃー!やってやるぞおおおお!!」
 自信が出てきたのか、クラウは夢中で剣を何度も何度も振り払う。
「姿勢が崩れてるぞ。」
「はいっ!」
「オレの様に…か。」
 『みんなを護る騎士』として見てくれていたクラウを見てフッと笑う。
 オレはいつの間にかそう思われているらしい。
「やってますねー。」
 後ろを振り向くとヨウブが居た。
「大丈夫か?」
「日常生活を送るくらいなら、もう問題ないっすよ。」
 しっかりとした足取りでこっちに向かってくる。
 ヨウブ自身が言うとおり、日常生活には支障はないらしい。
「クラウ、ラクさんに稽古してもらってんだからちゃんとやれよな。」
「うるさいなー!今話しかけないでよ!」
「今何かを掴みかけてる所らしいから、そっとしといてやれ。」
 クラウに軽く言ったつもりだったが、あまりの真剣さに驚くヨウブの肩をポンと叩いた。
「リュートとロイはあんなに激しくやってるけど大丈夫なんすかね?」
 こっちを来るのにヨウブもあの2人の激しい動きを横目にして通り過ぎたのだろう。
 心配と驚きが入り混じるような声でオレに尋ねてきた。
「何言っても聞くやつらじゃないだろう?」
 あれだけ激しく動いているのだから大丈夫だろうと思い、軽く笑って返した。
「ラクさんとヨウブも来てたんですかー?」
 クラウを背にして会話をしていると、前方から声が聞こえた。
 アッシュとエンブリオが稽古でもするかの様な格好をしている。
「お前らも体の方は良いのか?」
「バッチリっすよ!今からエンブリオさんと体動かそうとして来た所ですよ。」
 アッシュとエンブリオは腕まくりして見せた。
「全治一ヶ月って言われてんだから、あまり無茶しないようにしろよ?」
「軽く体動かすだけだから大丈夫だよ。」
 エンブリオが笑って見せた。
「それに強くならないといけないですしね。」
 エンブリオに続いてアッシュが言った。
 強くか…。
 みんな思うことは同じらしい。
「じゃあ軽くいきますかね♪強くなるためにッ!」
 そう言ってエンブリオがグラディウスを両足から取り出した。
 エンブリオも同じくグラディウス2本を取り出して構えた。
「おまえら…!軽くじゃない…――。」
 その本気さが滲み出る顔を見てオレは止めようとしたが、言い終わる前に2人はぶつかりあった。
「チェイスウォーク!!」
「!?ならオレは…!トンネルドライブ!!」
 エンブリオがチェイスウォークで姿を消したのに対し、アッシュはトンネルドライブを使い姿を消した。
 チェイスウォークはアコライトのルアフや、マジシャンのサイトでも姿をあぶりだすことはできない。
 ただし地面指定攻撃を受けるとスキルが解除されてしまう。トンネルドライブは姿は消せるがあぶりだされてしまう。スキルを使っても解除される。
「それで逃れたと思うなよ?」
 エンブリオが地面の砂を撒いた。
 するとエンブリオらしき姿がその場に浮かび上がる。
「やばっ…!」
「遅い!!」
 トンネルドライブは移動速度が遅くなる。
 その上見破られたから、アッシュが解除しようとしたが、既に後ろにエンブリオが迫っていた。
「まだ…っ!」
「な…っ!?」
 背後を完全に取られたと思ったら、隠し持っていた石を後ろ向きのままエンブリオの顔目掛けて投げつけた。
 人は誰しも目の前に物が飛び出ると、目を瞑ってしまうものだ。
「ちぃっ!!やるじゃんアッシュ!」
「いやいや…。動き速くてついていけませんよ…。」
 目を逸らした一瞬を狙って、アッシュはエンブリオと距離を取り、つかの間の休息と言った感じでお互いに謙遜しあっている。
「言っても聞きもしないからなー…。」
 2人を見てオレが呟いた。
「こうなったら終わるまで続きますよ…。」
 ヨウブがオレの横で呆れるような声を出している。
「まあ、目的も無しに無闇に体を酷使するよりはいいだろう。」
「そう…ですね。」
 リュートとロイ、アッシュとエンブリオ、そしてクラウ。
 5人それぞれが『強く在るために』そう胸に秘めてるその思いが顔と行動に出ているのが良くわかった。
「さてっと。それじゃ稽古見てくるかね。」
「じゃーオレは戻りますねー。」
 手を振るヨウブに応えるようにオレも手を振った。
 そして再びクラウの下に戻り稽古をつけることにした。
「ほら、姿勢が雑になっているぞ!」
 オレはクラウの稽古ついでに、4人が無理をしないように見張ることにした。
 4人はそうとも知らずに修練に励んでいた。
 吹き抜けの天井を見上げると、ちょうど太陽が真上に来る当たりまで来ていた。

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