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第1章
第34話 【生還】
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”Summons Devil”捕縛の依頼と、バフォメットから真実を聞いたあの日から3日ほどの時間が過ぎた。
あの後騎士団員が増援とプリースト部隊をヴァルキリーレルム3番砦に救援として呼んだ。
「ラクティヴ隊長!!返事をしてください!!ここで一体何があったんですか…!!」
「…。」
「ラクティヴ隊長の傷はたいしたことないから後回しにするんだ!!今は重傷者の救命が先だ!!」
騎士団員とプリーストたちの声が飛び交うのがわかる。
「お…おい…!あれを見ろ…!」
騎士団員が指を指した方向にはシンが無残な姿で倒れている。
騎士団員が急いでシンの元に駆けて行く。
「シン…は…もう…死…いる…。」
「ラクティヴ隊長大丈夫ですか…?!」
丁度オレが喋った時に横を通った隊員がオレの声に気付いた。
「息をしていない…。プロンテラ十字軍新鋭隊シン殿の戦死を…確認しました…。」
駆けつけた騎士団員の後に続いて、プリーストが駆けつけ命を引き取っているのを確認した。
「他の者も容体がかなりひどい!急いで大聖堂に戻り治癒を始めないと!」
「わかりました!プリースト部隊は人数分の騎士団員を担架の変わりにして、大聖堂治癒院にお戻りください!我々がこの場を収拾します!」
プリースト部隊の隊長らしき男が頷いた。
「では、先に戻ります!」
そう言うと、騎士団員を数名連れてプリースト部隊がこの場を後にした。
「隊長!?どうかしましたか隊長!?返事をしてください…!!」
オレはここで意識を失くした。
あの騒動から3日経つが未だにみんなは目を覚まさない。
無事なのはオレだけだったらしい。
みんなは全知数ヶ月を告げられ、絶対安静との事だ。
かくいうオレもあの日から一週間は任務は無しと言われ、こうしてみんなが目を覚ますのを待っている。
あの時バフォメットが引いてくれて本当に良かった。
オレはそう思い安堵の溜め息を出した。
「ラクティヴ様、ヘルマン騎士団長とグレイ副団長がお見えです。応接室の方に…――。」
「いや、その必要は無い。」
みんなの病室の窓から外を眺めていたら、後ろからアコライトの声と団長の声が届いた。
「この通り足を運んだから、君は下がってよいぞ。」
オレが振り返るとアコライトは一礼をして部屋を後にした後だった。
団長と副団長がオレの方を見ている。
「ご苦労だったなラクティヴ。」
「すいません…。」
団長の後に謝礼を詫びた。
「何を謝る?」
「シン殿を…そして皆を護れなかった事を…。」
あの時の場面が鮮明に頭に浮かび上がる。
何もできなかった自分の無力さを思い知り、オレは下を向く。
「顔を上げなさいラクティヴ。」
副団長がオレを労うように声をかけてくれた。
いつもより口調が優しい気もした。
「君は立派に依頼をこなしました。戦いには死者は付き物。それをあなたは一人に抑えました。」
「人の命の重さは…数じゃないでしょう…?」
オレはやりきれない思いが込み上げ、耐えられなくなり途中で口を挟んだ。
「確かにその通りです。しかし君は多くの命も護りました。それを思えば、シン殿も報われるでしょう。」
「その通りだラクティヴ。しかしラクティヴの言う事も最もだ。だから泣く事を恥じなくてよい。」
副団長に続いて団長が言った。
その言葉にオレは気が緩み、涙が溢れこぼれてきた。
「う…っありがとっ…ご…います…。」
「その涙と気持ちを忘れるでないぞ。シン殿と仲間たちの為にも。」
「ラクティヴ。君に後で面会したい人たちが居る。時間と余裕ができたら、大聖堂の神父様の所に顔を出してください。」
団長がそう言って出て行く。
副団長が後に続きながらそう言い残して、病室を後にした。
オレはみんなが寝ている病室で一人止まらぬ涙と闘っていた。
涙も枯れる程泣いたオレは、みんなの目が覚めるまでにまだ時間がかかると思い、副団長に言われたとおり大聖堂の神父様の所へ行くことにした。
治癒院は大聖堂内部にある病院の事である。
そのため治癒院から大聖堂までは廊下1本で繋がっている。
オレはその廊下を大聖堂の方へ歩いていた。
「ラクティヴー!」
大聖堂の域に入った時、前から3人の子供が叫びながらオレの方へ向かってきた。
「フィオナ姉ちゃんは大丈夫なの…!?他のみんなは!?」
テレーゼたちが心配した顔でオレのマントを引っ張りながら泣き喚く。
「大丈夫だよ。今は治癒院の方でみんな寝ているから。」
テレーゼが泣きそうだから、頭を撫でながらそう言った。
「良かったぁぁぁ…。」
泣きじゃくるテレーゼたち。
「そうだ。今から神父様の所に行くから、3人ともみんなの病室に居てくれないかな?」
思いついたように3人に言った。
会わせた方が心配は減るし、看病と言うほどでもないけど傍に誰か居て欲しかったから。
「わかった!クラウ、スティル早く行こう!」
「うるさくするなよー。」
廊下を治癒院に向かって走る3人に手を振りながら言った。
3人もこっちに手を振りながら走って行った。
3人を見届けてオレは再び神父様の所に足を運ばせる。
「神父様、ラクティヴです。」
コンコンとドアをノックしながら言う。
「どうぞお入りください。」
神父様の声が返ってきたのを確認してドアを開いた。
「君たちはあの時の…。」
中に入ると”Summons Devil”に捕虜として捕まっていた4人の女性たちが居た。
「神父様?これはどういう…?」
「治癒院の方で治療をしたのですが、傷の方は治りました。
┃ですが精神的ダメージが大きかったので、私の方で心の整理などをしていたのです。
┃それであなた方にお礼をしたいそうなので、わざわざ来てもらったのですよ。」
そう神父様が言うと、4人が深々と頭を下げてきた。
「私たちを助けてくださってどうもありがとうございます…。」
ロードナイトのレンと名乗る女性が4人を代表して礼の言葉を述べた。
「あの牢屋の中での私たちは…。」
「いや、話さないでいいよ。辛い事を思い出させたくないから。」
レンが喋ろうとしたが、オレはそれを止めた。
容体が良くなってきているらしいから、ここで思い出させたくはなかった。
「気を遣わせてすいません…。」
「そんなことないって。それと敬語で話さないでいいよ。」
「命の恩人にそんな…。」
神父様が口を挟んで言った。
「この人はそういう方ですから、そんな事は気にしませんよ。彼の優しさはこういうところにあると私は思いますよ。」
フッと笑いながら4人に言った。
「神父様、茶化すのはやめてくださいと前から言っているのですが…。」
オレはおだてあげられた様な気がして、頬が赤くなるのを感じた。
「ふふ…♪聞いた通りの気さくな方ですね…♪」
4人の内の一人が明るい声を上げた。
「あ、すいません…。私の名前はハロルドと言います。見ての通りジプシーとして踊り子をやっています。」
ハロルドと名乗った彼女は、それは美しい衣装に身を包み、砂漠の国のお姫様の様な雰囲気を出していた。
「私はユーナと言います。十字軍のパラディンです。」
ハロルドに続いて挨拶をし始めた。
オレはその度に彼女たちに会釈をした。
「私はアクア。プロフェッサーをしております。」
「レンにハロルド、ユーナ、アクアだね。よし、みんな覚えた。」
4人に笑って見せた。するとレンが口を開いた。
「私たちはもう帰る所がありません…。あつかましいお願いですが、私たちを…その…ギルドに入れてくれないでしょうか…?」
彼女たちはもう”Summons Devil”に捕まったときから、仲間に見捨てられたらしい。オレは少し考えた。
「狭いギルドで君たちが良いなら歓迎するよ。」
笑いながらそう言ったら、彼女たちは泣きそうになりながら喜んだ。
「ありが…と…ざいます…。」
「女性が泣くと、男が悲しむよ。」
笑ってハンカチを彼女たちに渡した。
「そう…ですね♪」
やっと彼女たちにも元気が出てきたみたいだ。
「これから治癒院のみんなの病室に行くけど、君たちも付いて来るかい?」
オレはここの用も終えたことだし、みんなの所に戻ろうとついでに4人に聞いてみた。
「ラクティヴ様が良ければ。」
「様はいらないって。今度言ったら怒っちゃうよ?」
笑いながらペチッと4人の頬を叩いて見せた。
「神父様よろしいでしょうか?」
「良いでしょう。ですが4人は定期的に来てくださいね。」
「神父様どうもありがとうございます。」
4人が軽く会釈をしたのを確認して、オレはドアを開けた。
「では失礼しました。」
ドアを閉めて治癒院へと続く廊下を歩き出した。
4人がオレの後ろでわいわいおしゃべりを楽しんでいるのが聞こえた。
「ラクティヴさんて子供っぽく見えるよね〜。」
「でもカッコイイ所もありますよね?」
「ラクティヴさんって婚約者いるんですかね?」
「女性だったら放っておかないでしょ♪」
確かに楽しんでいるが、オレの事を勝手なイメージつけたりして楽しんでいる4人が居た…。
全く…。と思ったが意外とリラックスしてるなーと思い少し安心した。
「レンー?誰が子供っぽいって?」
ギクっとしたレンがオレに返事を返してきた。
「え、あ、いや…。私が24歳なので、私と比べたら子供っぽく見えるなーと。」
「ラクティヴさんって何歳なんですか?」
レンを助けるようにして、ユーナが聞いてきた。
「えーっと今年で20歳だよ確か。」
オレが答えると同時に驚いた声が聞こえた。
「わかっー!」
驚いた声の主はハロルドだった。
「で。ラクティヴさん婚約者とかは?」
間髪入れずにアクアが聞いて来た。
「バカ!そ、そんな事聞いてどうすんだよ…っ!」
突然の質問にオレは焦って答えた。
4人はその様子を見逃してはくれなかったようだ。
4人でニヤニヤ笑いながらこちらを見ている。
「あー!やっぱりいるんですね婚約者!」
「すごい気になる…。」
「幸せ者ですねその人はー。」
「私も恋したいです…。」
それぞれがもの凄い勝手な事を言っているが、心底楽しんでいるように見えたので何も言わないで4人を眺めていることにした。
「ほら、ここだよ。」
盛り上がる彼女らを、みんなが寝ている病室に案内した。
4人は話をするのをやめ、静かに病室に入った。
「みなさん…、大丈夫…なんですか…?」
レンが責任を感じている様な顔をしながら言った。
「全治一ヶ月らしいけど、命に別状はないようだから心配しなくていいよ。」
「でも…。私たちが…――。」
「君たちがそんな浮かない顔をしてると、こいつらが悲しむよ。責任は感じることはないんだよ。オレらの意志で今回の依頼を受けて、オレらの意志で君たちを助けただけだ。」
責任と言う言葉を言いそうになった彼女らを制するように、オレが話して宥める。
「オレらが君たちを助けられたのは、君たちが生きることを望み、この前までそれを強く信じて在り続けたからだ。だから責任じゃなくて、むしろ胸を張っていてくれ。」
「はい…。ありがとうございます…。」
彼女たちは再び目に大粒の涙を浮かべた。
「さて君たちも疲れてるだろう?もうギルドに戻って休んでてもいいよ。」
4人は首を横に振った。
「いえ…。もう少しみなさんを見ていたいので…。」
オレはしょうがないなーと、フッと笑みを浮かべた。
「じゃー、君たちにこの場は任せていいかな?少し騎士団に用があるんだが。」
「わかりました。」
4人は快く承諾してくれたので、4人に手を振り病室を後にした。
廊下を歩きながら窓の外を覗いた。綺麗な夕日が街を照らしていた。