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第1章
第31話 【解き放たれた悪魔】
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プリーストが召還したバフォメットは、バフォメットJrを召還し、オレとシン以外に邪魔をさせないように向かわせた。
バフォメットは以前封印された時の事を恨んでいるようだ。
だからオレたちだけは自分の手で殺すためにJrと戦わせなかったのだろう。
「そっちが来ないんなら、こっちから行くぞバフォメット!」
ツーハンドクイッケンを使い、高速で斬撃を繰り出す。
バフォメットはクレセントサイダーで難なくそれを捌いた。
「少しは強くなっているようだな。」
「黙れ!」
クレセントサイダーを避けた後、後ろに距離を取るように跳躍をした。
「食らえええええ!」
シンがホーリーアヴェンジャーを十字の形を描くように薙ぎ払う。
その十字の形が具現化してバフォメットに飛んで行く。
「ホーリークロスなど!」
その巨躯に生えている太い腕で十字の光を受け止め握りつぶした。
「シン!横に跳べ!」
バフォメットがそれをした直後にシンが横に跳ぶ。
オレはシンが横に体重をかけたのを確認して、ソニックエッジを2連射してバフォメットに放った。
そのままソニックエッジの刃についてく様に後を駆ける。
「小ざかしいぞ!」
クレセントサイダーで一発目のエッジをかき消し、左腕で二発目のエッジを受け止める。
だがそれは予想の範囲内。
クレセントサイダーに当たらないように態勢を低くしたまま、カッツバルゲルを前に構え懐に入り込む。
「甘いぞラクティヴ!」
口から黒い炎の様なものが吐き出された。
とっさにオレは避けたが、避けた部分にあった石のタイルに炎がメラメラと燃え移っている。
ダークブレス。
バフォメット特有のスキルであり、触れたものを内と外から焼き尽くす暗黒の炎である。
「お前も甘いんだよ!」
オレがソニックエッジを放った時、横に跳んだシンはそのままバフォメットの周りをグルリと回る様に、背後に周ったようだ。
バフォメットの背後から高く舞い上がるシンが見えた。
「これでも食らえ!」
左腕につけている大きな十字架が刻まれている盾を、ブーメランの様にバフォメットに向けて投げつける。
先ほどのオレと同じように盾の後を追うようにバフォメットに突進していく。
「こんなもの!」
バフォメットが盾を左腕で振り払う。そのままクレセントサイダーを真正面に切り払った。
「なに!?」
盾の後ろに居たはずのシンの姿が居ない。バフォメットのクレセントサイダーは虚空を斬る。
「引っ掛かったな?」
逆方向に振り払われた盾の裏からシンの声がした。
「うおおおおおおお!!」
そのまま盾を地面代わりにして、ホーリーアヴェンジャーを突き立てバフォメットの背中目掛けて跳んだ。
「良いアイディアだったが、それだけか?」
バフォメットの左腕が逆方向のシンに向かって行く。
シンが裏をかいたと思ったら、バフォメットがその裏を行っていたのだ。
「私を昔のままだと思うなと言った筈だが?」
「ぐぁ…っ…。」
シンはバフォメットの腕に捕まり、バフォメットが腕に力を入れるたびに叫びを上げている。
メキメキ・・・ミシ・・・――。
「手を離しやがれええええええええええ!!」
前よりバフォメットの力が増しているのを信じざるを得なかった。
シンの体が悲鳴を上げているのを見て、オレはバフォメットの左腕に斬りかかる。
「そんなに欲しければくれてやるぞ!」
オレのカッツバルゲルはバフォメットの左腕をかすめただけで空を斬った。
その直後に背中に衝撃が走る。
「なっ…!?」
「すまない…。」
バフォメットがオレに目掛けてシンを投げつけたらしい。
そのままバフォメットはオレら目掛けてクレセントサイダーを振り下ろす。
このままじゃ二人とも当たる!!
「シン!悪い!」
シンを足で蹴り、クレセントサイダーの軌道上から逸らした。
しかしオレはまだ軌道上にいる。青白く光る鎌がオレ目掛けて振りかかる。
「くっ…そおおおお!」
両手でカッツバルゲルを抑えたが、勢いを殺すことはできずそのまま鎌ごとグシャッと地に叩きつけられる。
「クク…。すまない。力が有り余って制御しきれていないらしい。」
「ラクウウウウウウ!」
シンがオレの名前を叫ぶのが聞こえる。
しかし体が動かない。
両腕に力を込め、ググッと体を持ち上げようとするが、先ほどの一撃が予想以上に効いている。
「カアアアアアア!!」
倒れているオレの目の前にJrが飛んできた。
「しまっ…!」
完全に不意を突かれたと思った瞬間、Jrがその場に倒れ込み、そして砂のように崩れ去った。
「いつまで寝てんだ?ラク。」
Jrが飛んで来た方向からセネルの声が聞こえた。
振り返ると、セネルがオレの方に向かって歩いてきているのが見えた。
「全く。てめーの息子か知らねぇーが、ザコでオレらを殺せると思ったか?」
オレの前で立ち止まり、カートの中をゴソゴソと漁りながら、背を向けたままバフォメットに喋りかけた。
「ほれ、これでも飲めよ。」
セネルがオレに向かって白ポーションを投げてきた。
白ポーションは、ポーションの中で最高の回復力を持つものだ。
ルーシーたち支援もまだ手が離せないようだから、ヒールの代わりにということらしい。
「他の…みんなは…?」
セネルに問いかける。
するとセネルは心配するなと言う風な顔をして口を開いた。
「バフォメットの子供だからって、上級モンスターじゃないザコにオレらが殺られると思うか?」
そう言ってクイッと親指を後ろに向けた。向けられた先に視線を送った。
「オオオオオオン!!」
「まだまだこんなモンじゃ、終わらせないぜ!?」
そう叫びながらアッシュが二刀のグラディウスでJrを圧倒している。
Jrの鎌を左のグラディウスで捌き、右のグラディウスでJrを斬り付けている。
「神よ、我らに仇名す悪に裁きを。邪を滅する力を!マグヌスエクソシズム!!」
そう言ったルーシーの先には、神々しい光を浴びて苦しんでいるJrが見えた。
「プリーストたちは、Jrをこんなかにいれちまえ!」
マグヌスエクソシズムは退魔用の魔法で、プリーストたちにとっては唯一の強力な攻撃魔法だ。
しかし亡者や悪魔にしか効かない為、あまり使っている者はいない。
ルーシーは昔魔物退治を大聖堂での仕事として請け負っていたので、その名残で今でもマグヌスを使っている。
「わかった!」
ルーシーの声がアンジェやヒナ、アーウィン、プリーストたちに届いた様だ。
そう頷いたプリーストたちはマグヌスエクソシズムの中に入り、Jrを誘い込む。
「フン。Jrたちで何とかなると思ったかだと?」
Jrたちがやられるのを見たバフォメットが口を開いた。
「Jrたちはただの捨て駒にすぎない。君たちの力を見るための物だよ。」
自分の部下がやられたというのに、バフォメットは笑みを浮かべてオレらに吐き捨てた。
そのままバフォメットは喋り続けている。
「おかげで君たちの力量がわかった…。私が本気を出すまでもない羽虫同然だという事がね。」
「なんだと?」
「しかし…。ここまで馬鹿にされては私の気が納まらないのでな。君たちには絶望を味わってから死んでもらうことにした。」
そう喋り続けていくうちに、バフォメットの殺気、プレッシャー、魔力が膨れ上がっていくのを感じた。
「さぁ、これからが本番への幕開けだ、ラクティヴたち!私を楽しませてくれ!」
バフォメットの周りには雷のようなものがバチバチと鳴り響き、体が赤く光る。
角は山羊のそれとは比べ物にならないほど、研ぎ澄まされ、クレセントサイダーと見間違うような形に変って行く。
そして背中からは悪魔の象徴の様な漆黒の翼が生えてきた。
「ククク…。この姿になったからには、お前らには死を覚悟してもらおう。」
バフォメットはその巨大な漆黒の翼で宙に浮いた。
戦いの最中に壊れた天井から月の光がバフォメットを後ろから照らし出す。
その姿は悪魔と呼ぶに相応しい姿だった。
「誰も来ないのか?」
バフォメットが勝利の余韻に浸るような顔で言った。
「言われなくても!行ってやるってんだよおおおおおおおおおおお!」
クレナイがカタールをギラリと光らせ、バフォメットに突っ込んでいく。
「大勢いるのだから、一人で突っ込むなよ。」
そうバフォメットが言った次の瞬間、風切り音が響き、凄い速度で吹き飛ぶクレナイの姿が見えた。
「イヤアアアアアアアアアア!!」
ヒナが悲鳴を上げる。
ドガァァ・・・ッ――。
クレナイは音を立て壁にめり込んだ。
「悪いな。この姿の力はまだ慣れていなくてね。勢いが余ったらしい。」
「キサマアアアアアアアア!!」
ヨウブとフィアンムがツーハンドクイッケンを使い、左右から攻撃を仕掛けた。
「早まるんじゃねー!」
ソラとルーシーが、先走る二人にアスムプティオをかけた。
「アスムプティオがあれば、少しは変ると思ったか?」
そう言ったバフォメットは微動だにせず、二人の斬撃を食らった。
「喋ってる余裕はない…――。なにっ!?」
二人のクレイモアはバフォメットの皮膚にめり込みもしなかった。
「…!?…―――。」
バフォメットは右腕を動かした。
だけに見えた。
しかし、右腕を動かしただけのバフォメットから、二人は今向かってきた方とは逆方向に飛んでいく。
「おっと済まない。全力でかかる戦う者に対して、余力を残して戦うのは失礼だったな。」
圧倒的数に囲まれているのにも関わらず、バフォメットが薄く嫌らしい笑みをこぼした。
姿、言動、プレッシャー、その全てがその場にいたオレらに戦慄を覚えさせた。
絶望が少しずつ体を蝕み始める…。