〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第1章
第25話  【攻城戦】

 交渉が決裂した次の日。
 日曜日の夜、各都市の郊外にある砦のある領域に、希望と夢を抱く者たちが大勢集まる。
 攻城戦が始まる前になると、各砦の前には数え切れないほどのギルドが集結する。
 砦はプロンテラ、フェイヨン、ゲフェン、アルデバランの四都市の郊外に各4個ずつ置かれている。
 この合計16個の砦を我が物にしようと、毎週激しい争奪戦が繰り広げられるのだ。
 ――――。

「いよいよだな。」
 そして今日。
 オレらは違う理由だが、プロンテラの郊外にあるヴァルキリーレルムと呼ばれる砦の前に来ている。
 狙うはヴァルキリーレルム3番砦。
 16個ある砦の中でも、王城と呼ばれるに相応しい外見と大きさを誇る砦だ。
 砦の周りには騎士団の二番隊、三番隊が待機している。
「おまえら作戦は頭に全部叩き込んだな?」
「おうよ!ぬかりはないから任しておけって!」
 セネルが景気よく答える。
 だがオレらの作戦は、作戦と呼べるほどの物ではない。
 数が圧倒的に多い”Summons Devil”には、数で不利なオレらに作戦と呼べるものが浮かばないからだ。
 ようは正面突破と呼ぶ作戦だ。
 気を失うと外に出されてしまうから、戦力を削がれる前になるべく一回で済ませるためにも、これが最善だと思う。
「いつでも入れるように支援回しておけよ!」
 ルーシーがソラたちプリーストに声をかける。
「わかってるよ!」
 そう。
 ただ一つ普通の正面突破と違うのは、オレら「だけ」で突破するわけじゃない。
 攻城戦は大規模ギルド戦である。
 だから”Summons Devil”を攻め落とそうとしているのは他にもいるわけだ。
 そのギルドたちの後ろ、或いは前に出て一緒に攻めると言うものだ。
 通常の場合、ギルド主のギルド以外には攻撃をしかけない。余計な交戦を避けるためだ。
「女は男が円を組むから、その中から絶対出るな!」
 オレがフィオナたち女性陣に声をかける。
「男は捕虜に捕らえられても、拷問だけですむ!女は違う!絶対相手の手に落ちるな!」
 フィオナをそっと抱き寄せる。
「心配するな。オレとおまえは護りあう。絶対離さないからな。」
「円の中に居るから安心してよね。」
 頬をにゅいっと掴んでくる。
 こんなくだらないやりとりを、後でも楽しめるように今ここで依頼を遂行する。
「おっと、他のギルドさんが来たみたいだぜ!」
 木の上に上っているセネルがそう叫んだ。いよいよだ。
「よし!支援を回すんだ!」
 ルーシーたちが一斉に支援をかける。
「主よ、聖なる力を以てして我等を護りたまへ!アスムプティオ!!」
 みんなに光の膜ができる。
 同時にブレッシング、エンジェラスがかかる。
 エンジェラスの鐘が綺麗な夜に舞い響く。
「ラク!今日はこっちだろーよ!」
 セネルがカートの中から、オレのクレイモアを取りこっちに投げた。
「さんきゅーな。」
 セネルにドラゴンスレイヤーを投げた。
 それをカートの中にしまう。
「武器を取れ!集合だ!」
 皆がオレの周りに集まり円陣を組む。
「我ら!今決戦の地へ!信じろ!我らの刃は折れはしない!例え歩みが離れても我らの心は共に在る!生きて再びこの場所へ!」
 武器を取り出しガシッと頭上に上げぶつけ合う。
 もう恐怖は消えた。
 あるのは護りたいという気持ちだけだ。
「行くぞ!捕まるんじゃねーぞ!」
 先に他のギルドが中に入ったのを確認して、オレらもそれに続いて砦内に入る。
「ガーディアンは遅いから無視していくぞ!目指すは”Summons Devil”とエンペリウムだけだ!」
 先に入ったギルドが”Summons Devil”のメンバーたちと戦っている。
「手ー貸すぜ!」
 クレイモアを鞘から抜き、”Summons Devil”のナイトに切りかかる。
「オレの前に出てきて無事で居られると思うなあああああああ!」
 ナイトが剣を振り上げる。
 同時にクレイモアをその剣を押し上げる様に当てる。
 剣が中を舞う。
「それでもナイトかよおおおおお!」
 バク宙をして相手の背後を取る。
 足を払って額にクレイモアを差し出す。
「今度会うときは牢屋の中だな。」
「うわあああああ!」
 ナイトが叫びを上げると同時にクレイモアを切り払う。
 するとナイトが音も無く消えた。
 砦外に放り出されたのだ。
「助かるよ。」
 先行していたギルドのモンクが言ってきた。
 オレらはオレらのすることがあるとそのモンクに伝えて戦闘に戻る。
 ”Summons Devil”のヤツらは倒すが、他のギルドを構っている余裕はない。
「キャアアア!」
 先行していたギルドの女ウィザードに”Summons Devil”に雇われたアサシンが迫っている。
「女ばかり狙いやがってええええええ!!」
 セネルがウィザードとアサシンの間に入るようにして斧を振り下ろす。
「何だおまえは?」
 アサシンが気に食わなさそうにセネルに聞いてきた。
「あー?オレの事を知らないのか?」
 明らかに殺気を込めてセネルを見るアサシン。
 セネルはその殺気を上回るかのように威圧感をかもし出した。
「なら覚えておきな!ホワイトスミスのセネルをなあああああ!」
 後ろに引っ張っているカートをアサシン目掛けて振り払う。
「はっ!そんなもん食らうと思ってるのか!」
 元々素早いアサシンは、ひょいっと上に跳躍して軽々セネルのカートをかわす。
 そのまま壁を蹴り、二刀のダマスカスを振り下ろして来た。
 ダマスカスは特殊な素材でできており、絶対壊れないと言われている。
「思っちゃいねーよ!本命はこっちだからな!」
 腰に挿していた2本のスティレットを跳んで来るアサシン目掛けて投げる。
「こんなものおおおお!」
 ダマスカスでキィン!と振り払う。
「おまえはタイマンのようだが、生憎ギルド戦なんでね!」
 アサシンが卑下た笑いを浮かべながら口走る。
 すると横から” Summons Devil”のブラックスミスが出てくる。
「2対1でどこまで強がれるかな?セネルさんよおおおおお!!」
 ブラックスミスがツーハンドアックスを横に薙ぎ払う。
「おまえらがチームワークを語るとは驚きだな。だが…、本命はこっちだって言ったぜ?」
 セネルが笑みを浮かべてそう言うと、セネルを含むアサシンとブラックスミスを囲むように魔法陣が浮かび上がる。
「見知らぬ方!後ろに跳んでください…!荒れ狂う風、乱れる稲妻、支配を解き放て!ロード・オブ・ヴァーミリオン!!」
 セネルがその声の主の言うとおり後ろの跳ぶと、その直後に二人が風に刻まれ、頭上から稲妻が乱れ堕ちた。
 二人は声を上げる間もなく、砦外に放り出された。
「助かっ…。逃げろアンタ!」
 セネルが先ほどのウィザードに礼を言おうとした時だった。
 ウィザードの後ろからアサシンの手が伸びる。
 ウィザードは振り返る余裕もなく、アサシンの手に堕ちる。
「この女は貰ってくぜ!ハハハハ…!」
「いやああああ!!」
 アサシンのスピードには追いつけない。
 どんどん奥へと向かっていく。
 その上周りを見ると敵に囲まれていることに気付く。
 先ほどのギルドはほとんどやられたようだ。
 するとなると、他の女もか?不安がよぎる。
「ちくしょうがっ!」
「セネル、円陣を崩すなよ!敵が多い!」
 ルーシーが混戦の中、我に任せて飛び出ようとするセネルに叫びを上げた。
「聖なる光よ、聖なる力になり、我の力になりたまへ!ホーリーライト!!」
 聖職者だが、この状況。
 戦わずには居られない。
 少しでも多くの攻撃が必要だから、少量のダメージでも与えられるなら。
 そう思ってのホーリーライトがモンクに当たる。
「ホーリーライトなんて攻撃になってないぜ、聖職者さんよおおおお!」
 ホーリーライトは直撃したが、そのままモンクは拳を突き出してくる。
 モンクはアコライトからなることのできる職で、プリーストとは違い、戦闘能力がある。
 とはいえ刃は厳禁なので拳を使った攻撃である。
「くっ…!」
 モンクが拳の3連打を放ってきた。
 さすがに全部受けるとダメージを食らってしまう。
 腰にぶら下げているスタナーを手に取る。
「そんなもの聖職者が持ったって意味はないんだぜー?」
「勝ち誇ってるようだが、後ろにちったぁ気配ったらどうだ?」
 モンクが自分に負けは無い。といった様な顔で叫ぶ。
 が、ルーシーは動揺せずにそう言った。
「その通りだよモンクくん♪修練が足りないようだね!!」
 モンクの後ろからアッシュが現れる。
 短剣を首に押し当てる。
「その言葉そっくり返すぜ?」
 モンクが指をパチンと鳴らすと、オレらの円陣の周りに数え切れないほどの人数が現れた。
 これじゃ象対蟻のようだ。と言わんばかりの圧倒的差。
「聖なる光、邪を隔絶する聖なる壁を!我等を護りたまえ。バジリカ!!」
 ソラがバジリカを唱えた。
「とりあえずどうしようかねこの差を…っ!」
 バジリカを唱えたソラが、顔を歪ませて言った。
 オレらは余りにも無謀な数で挑んだものだと今思い知った。
 数々のギルドが潰される理由もここにあるだろう。
 オレらが確かに振り払った恐怖がまた心の底から、体を包むように侵食していく…。

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