〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第1章
第24話  【決裂】

 心配していた事態も難なくこなし、“Hory Crusade”との会義を無事に迎えられることとなった。
 今日の午後2時にシンたちがオレらのギルドに来る予定になっている。
 会義前だと言うのに、皆陽気な雰囲気を醸し出している。
 昨日ギルドに来た子供3人の影響だろうが。これはこれで良い雰囲気だと思っている。
「じゃあ、この昼食後の予定を話す。食べながらでいいから聞いてくれ。」
 テーブルを囲むみんなにそう言って耳を傾かせた。
「この後2時に“Hory Crusade”のシン殿と他の幹部たちが、オレらの溜まり場に依頼の件の事を会義しにくるわけだが。こっちは別に出向くわけじゃないから、少数で出なくてもいい。むしろ全員出てくれ。」
 オレの席に一番近いテレーゼたち3人に目をやる。
「おまえらは部屋で遊んでろよ?」
 頭を撫で笑いながら言った。
「またぁー?」
 クラウとスティルがぶすっとした顔で文句を言った。
「後で遊んでやるから。」
 暇があればな。とそう言おうと思ったが、それじゃ収まらなさそうだったので言わないことにした。
「それでだが、意見があるときは突然言わないで、断ってからにして欲しい。」
「ラク、オレとヨウブは騎士団の任務よりこっち優先で良いんだよな?」
 ロイが聞いてきた。
「ああ、そうだ。オレのギルドに居るから、依頼の件が優先される。でも二人とも騎士団の方にそう言って置いた方が良いだろう。」
「らじゃー。」
 ロイとヨウブが頷く。
「話はこれで終わりだが、何か質問あるヤツいるか?」
「特に何もないっすね。」
 アッシュが言うと、みんなもそれに続いて頷く。
「ですね。」
「じゃあ、話は終わりだ。そろそろ来る時間だからここで会話でもして時間を潰しててくれ。」
 そう話を終わらせると、女性陣が食器を片すために腰を上げた。
「じゃあ、その前に昼食の後片付けをしちゃおっか。」
 アンジェが切り出す。
「そうですねー。」
 それに続いてヒナとフィオナも席を立つ。
 うちのギルドには女性が少ないため、こうして女性陣が動く時だけ華があるように感じる。やけに男が多いだけだからかもしれないが。
「そういえばラク。」
 ロイが何か質問してきた。
「どうした?」
「データルザウルスやオークロードが、早期復活しているってことは他のやつもか?」
 他のヤツが早期復活しているから、ありえるだろうな。いや、確実だろうと思った。
「まあそうだろうな。“Hory Crusade”にプロフェッサーのマスミさんがいるから聞いてみるといい。それより、それがどうかしたか?」
「いや、セネルじゃないんだが、オレも武器が欲しくてな。」
「タートルジェネラルか。」
 ロイがコクリと頷く。
 タートルジェネラルとは、今まで未開だったタートルアイランドと呼ばれる亀の形をした島のダンジョンの最下層に居る上級モンスターである。
 船乗りの間でその島への航路が開拓されたことによって、タートルアイランドにも、冒険者が足を運ぶようになったのだ。
「スパイラルピアースをするには、ポールアクスのが良いからな。」
 ポールアクスとはタートルジェネラルが手に持っている槍のことだ。
 槍と言うより、先に斧が付いた様な感じの、いわばハルバードの様なものである。
 しかし破壊力は比にならないほどであり、重量感がある。
 槍の中でも最高級品とされている。
「セネルと同じ理由で、武器の強化が必要だと思ってね。」
 ロイとそんな話をしていたときだった。
 ドアがコンコンと鳴った。そのあとに声が続いて耳に届く。
「“Hory Crusade”のシンですが、同盟の件でお伺いしました。」
「わざわざありがとうございます。」
 オレより先にフィオナがドアを開けていた。
 その後に続いてオレが玄関の方に顔を出す。
「ラクティヴさん、ご無沙汰です。この女性は?」
 シンが驚いたように聞いてくる。
「すいませんシン殿。そのハイプリーストは…―。」
 オレが先に出なければならない場面だったので詫びようとした。が、フィオナが先を走る。
「ラクティヴの嫁のフィオナです。」
 にっこり微笑んで“Hory Crusade”の面々に自己紹介をするフィオナ。
「ラクティヴ様にはこんなに綺麗なお嫁さんがいたんですねー。」
 シンの後ろからマスミが顔を覗かせる。
「コホン。会義なので中にどうぞ。」
 会話をそこらへんにして、“Hory Crusade”のみんなを居間に招いた。
「フィオナにアンジェ、ヒナ、シン殿たちに紅茶を出してくれ。」
 3人にそう促し、3人がキッチンに行っている間に“Hory Crusade”のみんなを席に着かせた。
「では、これから” Hory Crusade”と”Thousand Brave’s”による会義を始めます。」
 長方形のテーブルの左側に”Hory Crusade”を。その反対側にオレらが座る形になっている。オレはマスター兼進行役として、長方形のテーブルの一番端、でっぱっている所に位置を取っている。
「まず自己紹介から。私が”Thousand Brave’s”のマスターラクティヴです。」
 立ち上がって” Hory Crusade”の方へ軽く会釈をする。すると” Hory Crusade”も会釈を返してくる。
「次にサブマスターのルーシー。ルーシー=ローティスです。」
 ルーシーが立ち上がり会釈をした。
「ローティス?では神父様の息子に当たる方ですか…?」
「そういう事ですね。あまり知られたくない事ですが。」
 苦笑いをしながらシンに言葉を返す。
 今まで言わなかったが、実はルーシーは神父様、いやジェイド=ローティス神父の息子に当たるのだ。
 オレも初めは驚いた。
 だが実力などを見れば頷ける。
 ギルドメンバーの中でも知っているのはオレとフィオナ、それにソラだけだろう。
 他の者が知っても得することではないうえに、知れる事でもない。
「次にセネル。」
 ――――――――――――。

「最後に嫁のフィオナ。フィオナ=エメラルディアです。」
 フィオナの紹介でこっちの紹介が終わろうとした。その時ガタンと椅子が転がる音がした。
「エメラルディア!?」
 マスミがすごいビックリした顔、いや慌てている顔か?とにかくすごい顔をして立ち上がった。
 これにはシンたち” Hory Crusade”もビックリしているようだ。
 みんながマスミを見上げる。
「どうかしたのかマスミ…?」
 心配そうにシンが声をかける。
「いや、何でもないです。すいません…。」
 心に何かひっかかるような顔をしながら、無理に押し込めようとしているそんな様をしながら席に座る。
「ではこちらの紹介も。” Hory Crusade”のマスターのシンです。」
 シンがオレらに向かって軽く会釈をする。
「サブマスターのマスミ。マスミ=ムラサメです。」
 今日は前と違って、プロフェッサーの正装である服を着ている。
 マスミの他にもそうそうたるメンツが揃っている。
 チャンピオンのリュート。チェイサーのエンブリオ。etc
「次にフィアンム。次に双子のアリス=アークライト、ユニー=アークライト。」
 ――――――――――――。

「以上です。」
 シンがまた一礼し、そして席に座る。
「では、本題に入りたいと思います。今回” Hory Crusade”に出向いてもらっての会議ですが、最近攻城戦で卑劣な行為をしているという” Summons Devil”の制圧及び捕縛の事についてです。」
 オレがそう言うと、居間にいる全員がコクリと頷く。
「今回私は騎士団一番隊隊長としてではなく、ギルドマスターとして騎士団から依頼を受けました。それに当たり” Hory Crusade”の援護、同盟をと思いまして会義の場を借りています。」
「ラクティヴさん、よろしいでしょうか?」
 シンが手を上げてオレに発言を求めてきた。
「シン殿の発言を許可する。」
「ありがとうございます。」
 シンがオレに会釈をする。
「私たちの方は、今回この件でかなりの意見を出し合い、すれ違いもありました。…―――。」
 シンがオレたちと同じような境遇を淡々と喋りだす。
「ですが、私たち” Hory Crusade”は”Thousand Brave's”の同盟の案を呑みたいと思います。」
 オレは少しの安心と驚きを感じた。
 皆も少し驚いているようだ。
 元々ダメ元だった話だからなおさらだろう。
 しかし次第にみんなの顔に安堵が浮かんでくる。
「ただし、あなた方の真摯な気持ちがあるかどうかを知りたい。」
 突然の言葉にオレらは動揺した。
「っふざけんじゃねーぞ…!」
 椅子が倒れ、テーブルがバンと震え響いた。
「オレらがどれだけぶつかり合ったかわからないで!」
 クレナイが怒鳴り散らす。
「だからそれを証明していただきたい。」
 シンはクレナイの怒鳴り声に、微動だにせず答える。シンの雰囲気がどこか違う。
「クレナイ座れ。」
「先にこの件を持ちかけてきたのはアンタじゃないのか…!」
 クレイナに言うが聞こえていないらしい。
 そのままシンを攻め立てている。
 シンはクレナイをじっと見つめている。
「クレナイ!」
「…っ!でもっ…!」
「座れと言っている!!」
 クレナイが舌打ちをして椅子を立て直し席に着く。
 シンがそっと口を開いた。
「残念です。この案は決裂の様ですね。」
 シンがそう言って立ち上がると、他のメンツも立ち上がり席を後にした。
 その後をクレナイが追う。
「よせ!」
 クレナイを制して言う。
 帰り際にシンがオレの方をじっと見つめてきたのがわかった。
 何かを訴えるような目をしている。
「まぁ、最悪の事態も予想してたしな。」
 ルーシーが場の空気を変えるように言った。
 予想していた事態が起こっただけのこと。
 そう言い聞かせるようにみんなも場の空気を変えようとする。
「仕方ないな…。こうなると後ろ盾が無いわけだから、遅いほうが攻めるのに不利になるわけだ。」
 オレが話を元に戻す。
「でしょうね。作戦なんて大規模な作戦は立てられないわけですから。」
 バルジがオレに続く。
「じゃあ決行は丁度明日が攻城戦の日だから、明日にしようと思うが。」
「オレは異論ないぜ。今日中に作戦立てれば良い訳だしな。」
 カタ・・・――。
 窓の外から何か音が聞こえた。
「誰だ!」
 リュウがバンっと窓を開けるがそこには誰も居ない。
「ネコかなんかだろ。」
 リュウが不自然な気配を感じたらしいが、それほど気にも留めずに会議は進んだ。
「じゃあ作戦は…―――。」
 数時間に及ぶ作戦会議が続いた。
 後ろ盾が無い以上オレらでどうにかするしかない。
 騎士団の捕縛部隊は手を出せないのだから。
 交渉が決裂になってからオレは、異様な不安に包まれた。
 みんなを護れるのか…?
 誰一人として相手に捕まらないようにできるか…?
「一人で何とかしようとしてんじゃねーぞ?」
 セネルのビンタが右頬に飛んでくる。
「ああ、わかってるよ。」
 みんながオレを見ている。
 マスターのオレが弱気になっていてどうする。
 そう自分に言い聞かせてみんなの輪に戻っていった。
 不安があるならみんなで手を取ろう。
 恐怖があるならみんなで笑おう。
 決戦は明日…。

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