〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第1章
第23話  【Homemade Family〜そしてひとつに〜】

 ”Holy Crusade”との会義まで後一日。
 今日の夜また会議を開くことになっている。
 これでオレらのギルドの方針が決まるというわけだ。
 昨日までとは違い、もうオレには不安や恐怖なんてこれっぽっちもない。
 昨日みんなに元気を貰ったから。

「よう、ラク!」
 ギルドの庭に立っているオレの後ろからルーシーの元気な声が聞こえてきた。
「やけに自信満ちた顔してるな。」
 ルーシーの方を向くと、不思議そうにオレの顔を覗き込んできた。
「まーな。」
 笑って一言返した。
「我に秘策あり!って感じだぜ。」
「ちげーよ。みんなを信じてるだけだよオレは。」
 ほぅ!とたまげた顔をしているルーシー。
「それでこそ、オレらのマスターだな。」
 オレの横に並んで庭の方を向いて二人で笑いながら立つ。
「マスター元気になりましたねー!」
 後ろを振り向くと、ヨウブ、バルジがニヤニヤしながらこっちを見ている。
「あー!おまえらのおかげだよ!」
 少し遠くにいる二人に、大きな声を出して言い返した。
「それは感謝してもらわないとですねー。」
 そう言いながらまた後ろから声がした。またー?と笑いながら後ろを振り向く。
 そこにはアッシュとアズサがいた。
「行って来なティーズ。マスターと遊んでお出で。」
 アズサがピィーと口笛を鳴らすと、ティーズがこっちに飛んでくる。
「こらティーズ!やめ…っ!やめろって…!イテテテ!」
 ティーズはじゃれているつもりなのだろうが、くちばしが結構痛いのだ。
「ぷっ…!ハハ…!アッハッハッハ…!」
 みんながオレを見て大きな声で笑い出す。
 その声は庭に響いた。
 例えるなら、とても幸せそうな家族が庭で遊んでいる様子だ。
 オレはそんな幸福感を覚えながら、時間が過ぎるのをとても惜しそうに思った。
「じゃーオレもこれであいこってことで…。」
 突然後ろからリュウの声がした。同時に頭をポカッと軽く叩かれた衝撃がはしる。
「わりーな迷惑かけちってさ。」
 頭をぼりぼりかきながら、クローキングを解除して出てきたリュウに言う。
「まー対して気にしてませんからね。それより、マスターの後を取れたのが嬉しいですよ♪」
 笑いながら返してきた。
「ラクー!」
「フィオナか。」
 フィオナが駆け寄ってくる。
 何故かフィオナの後ろにはテレーゼ、クラウ、スティルの3人が着いてきていた。
 何の用だろうと思いながら、4人がこっちに来るのを眺めていた。
「ラク、依頼に参加するに当たって私もギルドに入れてくれない?」
 いつも突然言うなー。と思った。
 でももう断る理由もない。
 この前護ると決めたから。
「オレから言う事は無いよ。後は後ろに居るみんなに聞きな。」
 オレらを見ているみんなの方を指さしてみせた。
 みんなはニヤニヤしながら笑ってみている。
 あれほど茶化されるのがキライだったのに、もう今はこの感覚が心地よく、くすぐったい。
「オレらも反論はねーぜ♪」
 ルーシーがそう言うと、みんなもそれに合わせて頷いた。
「良かったな。」
「えへへ♪」
 嬉しそうに笑うフィオナの後ろに居る、3人に目が留まった。
「そういえば3人をどうして連れてきたんだ?」
「ほら、3人とも。お願いするときは自分で言うって決めたでしょ。」
 3人の背中を後押しするかのようにフィオナが言った。
「その…。ぼくたちも…、えっと…。」
 スティルがおどおどしている。横からクラウが一歩前に出てきた。
「何やってんだよもう!」
 スティルを制すかのように後ろに戻した。
「えっと…、オレたち3人もギルドに入れてください!」
 突然の申し出にオレは驚いた。
 これを見ていたみんなもさすがに驚いたのか、口をあんぐり開けたままこっちを見ている。
 言った本人のクラウも、自分で何を言ったのかわからないという様な顔をしている。
「この子たちが孤児院に居ることはわかってるよね?」
「それは知ってるがどうしてだ…?」
 話が全然飲み込めないオレをよそに、フィオナがそのまま話を続ける。
「親が居ないこの子たちが、こんなのが家族なのかなーって、私に言ってきたのよ。」
 なるほど。
 親とか家族の様に大勢で暮らして楽しそうなオレらを、自分たちの描く家族と重ねたのか。
 内容がわかれば、それはそれで嬉しく思った。
「また同じ場面の様な気もするが…。オレは良いけど、他のヤツラに頼んで来なよ。」
 しゃがんで3人の頭を順に撫でて言う。
 3人はとても恥ずかしそうに見えるが、それよりもとても嬉しそうな顔をしているのがわかった。
「あの…、私たちを…。」
 今度はテレーゼが言おうと頑張っている。その横からまたクラウが出てこようとした。
「こらこら、邪魔しちゃダメだろボク。」
 ヨウブがクラウを制して、テレーゼに最後まで言わせようとした。
「もっかい頑張って言ってみなよ。」
 テレーゼの肩をポンと叩く。
 クラウはチェッとした顔をしているが、スティルはそれを横目に笑っている。
「あの…!私たちをギルドに…っ!入れてください…!」
 恥ずかしさと緊張を堪えてテレーゼが深い礼をしながら、みんなに聞こえるように大きな声で言った。
「良くできたね♪」
 アンジェとヒナが3人を抱き寄せた。
 すると3人はとても嬉しそうに笑い合っている。
「じゃあテレーゼ、クラウ、スティル!君たちをこれから、オレら”Thousand Brave's”のギルドメンバーになることを許可する!」
 ルーシーがみんなで3人を囲み、入団式の様なものをやっている。
「あの子達のあんな顔見たこと無いわ。」
 驚いてるフィオナだが、その満面の笑みを初めて見れたのが嬉しいのか、涙が出そうなほど目がウルウルしている。
「嬉しいか?」
 フィオナに問いかける。
「何だかね…、孤児院出の子は内気で、それぞれの理由もあるけど、真っ直ぐ育たない子もいるの。」
 今までの事を思い出すようにフィオナが喋りだす。
「それを思うと…、あの子達が真っ直ぐ育ってくれて、あんな事を言ったのがとても嬉しくて…。」
 笑いながら大粒の涙が目から零れ落ちる。
「おいおい泣かなくてもいいだろー?」
「いいじゃんバカー…!」
 庭に笑いあう声が混ざり合い、そして響く。
 いつまでもずっと変わらずにこんな平和が続くと良いな…。
 そんな風に思った。

 日も沈み、フィオナ、テレーゼ、クラウ、スティルの4人を加えた食事も終わり、予定通り最後の会議が行われる事になった。
 テレーゼたち3人は参加しないため、新しく与えた部屋に居るようにと会義への参加をさせないことにした。
 子供には危険過ぎることでもあるから。
「これから一昨日の会議の続きを始める。」
 長方形の机をぐるりと囲んでいるみんなを前に始まりを告げた。
「とはいっても、朝にだいたい皆の意見は聞いたが…。」
 クレナイの方に目をやる。
「オレだけか。」
 クレナイがオレに答えるかのように言った。
「そのようだから、クレナイの意見を聞きたい。」
 みんながクレナイの方を心配そうに見つめた。
 ヒナだけがまっすぐ澄み切った目でクレナイを見ていた。
「オレは…。出るぜ。」
 一呼吸入れてから、クレナイは依頼に賛成との意志を示した。
「だけど一つ条件がある。」
 オレを真っ直ぐ見つめて言ってきた。
「条件とは?」
 オレがクレナイに聞き返すと、みんなもオレの意見がクレナイに向かうのを見て、クレナイの方を見つめ返す。
「”Summons Devil”を必ず全員捕縛すること。それと捕虜になっている女子供を全員助け出すことだ。」
 みんながほっとする。
 同時にクレナイの強い意志がみんなの目を真剣にさせた。
「その条件は心配するな。もとよりヤツらを逃がすつもりはない。」
「そうそう、オレらが全員とっちめてやろうぜ!」
 セネルがみんなを鼓舞するように、ダンッと机を叩いて声を張り上げた。
「女子供はオレが助けてやるぜぃ!」
 ルーシーが目を輝かせて言った。
「やれやれ…。」
 笑いながら首を横に振り、ふぅーっと溜め息を漏らすクレナイ。
 それを見てオレはやっとギルドが一つになった気がした。
 これで後は明日の会議だけだ。
「まぁ、意見が全員一致したが、明日の”Holy Crusade”との会義で同盟が結ばれるとは限らない。その事だが…。」
「まぁまぁ!ダメだった時のことなんて考えてるとダメになっちまいますよ。」
 ソラが暗い会話になるのを察したのか、オレを制してそう言った。
「そうっすね。ダメだったらそんとき考えればいいことですよ。」
 ヨウブがそれに続く。
「オレも同じくー。」
 ロイが言う。アズサ、リュウ、アッシュ、バルジ他のメンツもそれに頷く。
「じゃーそういうことにしよう。明日は昼の2時に”Holy Crusade”がこっちに来ることになっているから、それまでに昼食を済ませて、会義できるようにしておくこと。」
 全員が頷いた。
 その時を狙ったかのようにテレーゼたちが居間に入ってきた。
「難しい話はつまんないよー。」
 クラウが駆け寄ってくる。
「わかったわかった。お兄ちゃんが遊んでやるからなー。」
 セネルとルーシー、ソラが3人とじゃれるようにして居間を出て行く。
「さてっと…。あの3人はあいつらに任して、オレらは明日の準備でもするかね。」
「りょーかい!」
 みんなで明日のために、椅子、机等の配置換えを始めた。
「それがこっちで…――。」
 まだ完全にとは言えないが、少しずつでも確実にまとまってきているみんなを見てオレは、何だか明日がうまく行きそうな感じがした。

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