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第1章
第22話 【Union】
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会義まで後二日に迫っている。
前日にもう一度オレらの方でも会義をしようと思っている。
バラバラのまま会義なんてできはしないけど…。
昨日帰ってきたら、なんだかんだみんな心配してくれたり、今回の件を前向きに考えてくれていた。
それが唯一の救い。ただ、クレナイとヒナが折れないらしい。
ルーシーに相談をしようと、居間に足を運ぶ。
「クレナイとヒナの様子はどうだ?」
丁度居間で座っていたルーシーに問う。
「ヒナはわかってくれそうだが…、クレナイが折れそうにないな。」
「そうか…。」
「ヒナは、クレナイを護れればそれでいい…とさ。」
ルーシーが溜め息を一つ漏らしてオレに言ってきた。
「ラク、これは一つの案として聞いてくれ。」
「何かあるのか?」
「出ることを拒むヤツらを攻めるつもりはないが、ラクにも非はある。だからあえて今回の依頼に関わりたくないヤツは削ぐ…。こちらのメンツが減ることで、゛Holy Crusade゛との同盟が危ういかもしれないけどな…。」
ルーシーが重い口で喋り続けた。
「まぁ、ここではおまえがマスターで、みんなはおまえを信頼してるからな。オレらを引っ張るのはおまえだ。今までそれで満足してきた。これからも頼むぜ。」
ルーシーはオレの胸を拳でポンと叩き、自分の部屋に戻っていった。
オレはルーシーの提案が、今の最善の策ではないかと悩んだ。ただ、”Holy Crusade”との同盟が無くなったら意味がない。それよりこちらに危険が及ぶ。そんな事を考えながらオレはギルド内を歩き出す。
「クレナイ、入るぞ?」
着いた先はギルド内2階の一番外側に位置するクレナイの部屋だ。
コンコンとノックをしながら、部屋の中にいるだろうクレナイに喋りかける。
「…。」
だが返事がない。
居留守をしているのか、それともオレをまだ許せないのか…。
どちらとも取るのが一番だろう。心に罪悪感が駆け巡る。
「入るぞ。」
ガチャ・・・――。
ドアを手にかけ開こうとした瞬間、鍵じゃなくてチェーンがかかっていた。
ガッと大きな音を立てたドアは少ししか開かない。
だが中の様子を見るには十分だった。
ベッドの上で壁の方を向いているクレナイが居るのが見えた。
「そのままでいいから、オレの話を聞いてくれ。」
「…。」
返事をしないクレナイにそのまま喋り続ける。
「昨日フィオナを追いかけに神父様のところへ行ったんだ。そこで何て言われたと思う…?」
「…。」
クレナイはなおも沈黙を続ける。
だがそれは承知の上だ。
オレはそのまま口を動かす。
「『心配すること』と『護ること』は得てして違うものだと言われたよ…。これがどういう意味だかおまえにはわかるか…?」
溜め息を一つ吐き、間を置いてからまた喋る。
「心配することは悪いことじゃない。ただそれはヒナにとって枷でしかならないときもある。おまえがヒナを護りたいと思っているなら、ヒナもきっとそう思っているだろう。」
「…。」
「ヒナは、おまえを護れればそれでいいそうだ。おまえの心配を、ヒナが心配しているのがわかるか?」
クレナイは微動だにしない。
「オレが勝手に依頼を受けたことについては謝る。ただどうしても見過ごすことはできなかった。すまん…。」
もう話は終わりなんだが…。と思いながらもクレナイは反応しない。
「明日、もう一度会義をするから、その時にまで考えておいてくれ…。」
少ししか開いてないドアをバタンと閉め、そのまま部屋を後にしようとした。
その時ヒナがこちらに向かってくるのが見えた。
「マスター、ちょっといいですか…?」
ヒナがマスターって呼ぶのは、たまにしかない。
いつもはラクかラクさんなのに。
よほど大事な話なのだろうと思いオレはヒナの話を聞くことにした。
「じゃー居間にでも行こうか。」
ヒナがコクリと頷き、一階に下りた。
「丁度誰も居ないね。話ってのは?」
話しづらそうなヒナを気遣い、先に話を切り出した。
「その…。依頼の件ですが…、私も一緒に出させてください…。」
突然の言葉に驚いた。
折れそうだとは聞いていたがこんなあっさり行くとは思ってなかったからだ。
オレはその理由を聞いてみることにした。
「いきなりどうしてだ?」
「マスターとフィオナさんを見てたら…、少しわかったんです…。」
オレは黙ってヒナの話を聞く。
「心配することは、必ずしもその人のためにならないってこと…。『心配すること』と『護ること』は違うんだって…。」
「オレは昨日の夜、神父様にそれを言われてやっとわかったとこだよ。」
笑いを含みながらヒナに言った。
「ヒナは賢いな。言われる前にわかっちゃうんだからな。」
机の反対側に座っているヒナに手を伸ばし、頭を撫でる。
「マスターやめてください…。恥ずかしいですよ…。」
頬を赤く染め、少し元気がでたかのように笑いながら言ってくる。
「やっと笑ってくれたな。」
撫でるのをやめてヒナにそう声をかけた。
「クレナイには…、私から話しておきます。迷惑をおかけしてすいませんでした。」
ヒナが立ち上がり、オレに礼をした。
「頭を上げろヒナ。悪いことはしてないだろ?むしろオレが謝る方だ。」
そう言うとヒナが頭を上げて嬉しそうに言った。
「ありがとうございます。」
「おぅ、これからもよろしくな。」
握った拳をヒナの方に差し出す。
「私も、これからもよろしくお願いします…!」
ヒナも拳を出しゴツッと合わせる。
「じゃー、私はこれで。」
ヒナが軽く会釈をし、自分の部屋に足を運び出した。
「終わりました…?」
突然居間の奥にある、キッチンから声がした。驚いてそちらに顔を向けた。
「アンジェか…。びっくりさせないでくれよ。」
苦笑いをしながら、アンジェに挨拶をする。
「真剣な話でしたから、出るに出られなかっただけですよ。」
笑いながらキッチンから出てきた。
アンジェはプリーストの衣服の上からエプロンを着ている。
どうやら夕食の支度をしていたのだろう。
「アンジェは…、今回どうするんだ?」
おそるおそる聞いてみた。
誰もが賛成になびくというわけじゃない。
それを覚悟して聞いた。
「私ですか?」
不思議そうに聞いてきた。
「私は賛成ですよ。まぁー、さっきの話を聞いてから意志を固めた感じですけどね。」
「そうか。悪いな迷惑ばかりかけてさ。」
首を下げて、アンジェに言った。
「何言ってるんですかー。マスターが居たから私たちはここに居て、今までやってこれたんですよ?むしろ感謝してますよ。迷惑なんてお互い様です♪」
アンジェがオレに元気出してください!と言う様に笑顔を振りまく。
オレはそれがとても嬉しかった。
「そう言って貰えると嬉しいよ。」
ハハハッと二人の笑いが居間に響く。
「さてっと…。ご飯作っちゃうのでまた後でですよ!」
グイッと腕まくりをして、キッチンに戻っていくアンジェ。
オレはそれを見ながら、やっと肩の重荷が取れたような気がしたのを感じた。
「あ〜〜!アンジェさんすいません!一人で晩御飯作らせてしまって!」
フィオナがドタドタを居間に駆け込んでくる。
「まったく…。」
オレの恋人だからってギルドメンバーじゃないのに。と思いながら、顔に笑みが浮かぶ。
――――。
「夕食できましたよー!!」
フィオナが居間と廊下の境目で2階のメンバーたちに大声を放った。
それと同時に2階の階段からドタドタと、腹減ったと言わんばかりの早さで足音が聞こえてきた。
「腹減ったあああー!」
セネルが先ほどのフィオナの声を遥か凌ぐ大きい声をあげながら、居間に流れ込んでくる。
「おおー!今日はモロクの肉料理か!」
今にも涎が垂れんばかりという面持ちで、セネルの後に続いてルーシーが入ってきた。
その後をソラ、リュウ、ヒナと続き、ロイ、バルジ、アッシュ、アズサ、ヨウブもやっとご飯だ!という感じで入ってきた。
「あー、オレ最後か?」
クレナイがそう言って、頭をぼりぼりかきながら居間に入ってきた。
「クレナイ…。」
そう喋りかけようとしたときだ。
「マスター、明日会議すんだろ?その時わかるから今はいいだろ。」
この明るい雰囲気を壊したくない。
そう言ったようにも見えた。
オレはそんなクレナイを見て、全てがとても嬉しく思えてきた。
ご飯をこうやってみんなで囲んで食べることも、一言一言会話をして笑い合えることも。
「そうそうラク!」
セネルが食べながら喋りかけてくる。
品がない…。
そう言いたかったがこれもまた楽しく見えたので言わないことにした。
「どうした?」
「オークロードが復活してるって言ったよな?」
ゲフェンでの任務のことを話したが、覚えていたのか。
「倒されて無ければまだいるはずだな。どうかしたか?」
セネルが目を輝かせて言ってきた。
「今度暇なとき倒しに行かないか?」
上級モンスターを軽々倒しに行こうという言葉に驚いたが、データルザウルスを考えるとそれほどでもない。
セネルがそのまま喋り続ける。
「ツーハンドアックスから、ブラッドアックスに変えたいんだよな。」
ブラッドアックス。
それはオークロードが持っている巨大な斧である。
名前の通り「血を呼ぶ斧」。
刃がとても残忍なほどギラリと光っていて、相手は戦意を喪失するのではないかというくらい、今まで倒してきた相手の血の匂いがついている。
破壊力も抜群の斧だ。
「これからの戦いには武器強化も大切だと思うんだよ。」
さらに口に食べ物を放りながら喋り続ける。
だが、言っていることは間違ってはいない。
これから強力な敵と戦うには、体を鍛えるのもそうだが、武器強化も大事な要素になるだろう。
「任務ない時ならいいぞー。」
そう思ったから、任務外の時なら。と言い放った。
「よっしゃ♪」
またもや目を輝かせるセネル。
セネルに釣られてみんなに活気が戻る。
同時にギルドが団結した感じがした。
オレはその様を笑いながら眺めていた。