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第1章
第21話 【「心配すること」「護ること」】
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闇夜を切り裂きひたすら走り続ける。
心臓の鼓動が大きくなり、息づかいも荒くなる。
しかしそれも構わず走り続ける。
泣いて悲しむフィオナの顔が頭の中に浮かぶから。
「はぁっ・・・、はぁっ・・・。」
着いた先は大聖堂。
聖堂のドアをバンと荒々しく開ける。
プリースト、アコライト達が驚いている。
それを横目に神父様が居る部屋に歩き出す。
コンコン・・・コンコン・・・――。
静かに叩いたつもりが、ドア荒々しい音を立てる。
「誰かね…?」
「ラクティヴです、神父様。」
「お入りなさい。」
そう神父様の声が聞こえると、ドアを開ける。
「どうかしましたか?」
「フィオナが来ませんでしたか…?」
神父が不思議そうに聞いてくる。
「フィオナが?どうしてですか?」
オレはまごついたように言った。
「ちょっと…。その、問題がありまして…。」
「それで?」
間髪入れずに聞いて来る神父様。
「走って出て行ってしまい、心配で…。神父様のところに来ていないかと…。」
フィオナにとって神父様は第二の親の様な存在であり、子供の頃からの相談役の様な人でもある。
それだから、悩み事や泣きたいときなどは、神父様のところに来ることが多いのだ。
オレはフィオナ絡みで、神父様と良く話すのだ。
「フィオナならさっき来ましたよ。」
神父様が笑うように言った。
「え…?じゃー、なぜそのような嘘を?」
「あなたの真意を知るためですよ。」
全て見透かされているようだ…。
この人の前では隠し事は無理だな。と苦笑いをした。
「ラクティヴ、あなたは一つ誤解をしているようですね。」
「何を…?でしょうか…?」
神父様がオレか、フィオナ、どっちを心配していってるかはわからないが、心配している様子が顔に出ている。
「フィオナの事が心配で何か言ったそうですね…?」
「はい…。今回の任務…いえ、依頼が危険なもので…。」
ふぅー。っと溜め息を吐いてから神父様が口を開く。
「確かに。間違ってはいませんが、意味を間違えていますよ。」
「…?」
「「心配すること」と「護ること」は得てして違うものです。」
オレは黙って考えている。
「あなたはフィオナを心配して言ったのかも知れませんが、フィオナはあなたを護りたい。そう思っているはずですよ。」
「はぁ…。」
そう言い終えると、神父様は笑いを含みながら言った。
「フィオナなら聖堂裏の墓地にいるでしょう。早く行ってやりなさい。」
「いつもご迷惑をおかけしてすいません…。」
そう神父様にお礼をし会釈をして、神父様の部屋を後にした。
聖堂の廊下を外に向かって歩きながら、神父様に言われた言葉を頭の中で考えていた。
「「心配すること」と「護ること」の違い…?」
「ラクティヴこんなところで何してるの?」
後ろを振り向くと、テレーゼがオレの後ろに立っていた。
「いや、神父様にちょっと用事があっただけだよ。」
苦笑いしながらごまかした。
「もう子供は寝る時間だろ?」
笑いながらテレーゼの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「わかったよぅ…。じゃーおやすみ!」
テレーゼがこちらに手を振りながら走り去っていく。
再びオレは聖堂の廊下を歩き出し外に出た。
――――。
聖堂裏には小規模だが墓地がある。
昼は明るく木々の隙間から差し込む太陽の光がとても綺麗な場所で、ここで休む人も少なくない。
しかし夜は明かりも消え墓地と言う事もあり、人がいなくなる。
「フィオナー!」
そんなに大きくない墓地だが、暗くて良く見えないので大声を出してフィオナを呼ぶ。
墓地の片隅にある1本の木に誰かが居るのが見えた。
「フィオナか…?」
木陰から人が出てきた。
月明かりがそっとそれを照らし出す。
「何しに…、来…っ…のょ…。」
静かな声だが確かにフィオナの声だ。
下を向いているその声は微かに震えている。
「フィオナ…。さっきは…――。」
「何で…!私には何もさせてくれないの…!?」
突然フィオナが声を荒げる。
「…。」
言葉が見つからない。なんて言えばいいのだろう…――。
「ラクは私の事考えているつもりだけど…、私もラクの事考えてるの…!」
時折強い風がオレとフィオナの間を通り抜ける。
「ラクが私を護りたいのわかるけど…っ!護られるだけはイヤ…!」
「フィオナ…。」
「あの時…、私がもっと強ければ…。ラクはあん…なに傷つかな…すんだのっ…に…。」
声がまた震えている。
あの時…。
アビスレイクの事を思い出しているのか…。
「わかったよ、フィオナ。その言葉に甘えて、オレもフィオナに護ってもらいたいんだけどいいかな…?」
神父様の言っていたことがわかった気がした。
オレはフィオナに自分の考えを押し付けていただけなのかもしれない。
今も今までも。
フィオナは今まではそれでも良いと思っていたのかわからないが、アビスレイクの件で思ったのだろう。
自分が護られているだけなのがイヤだと…。
「このバカ…。絶対死なせないんだから…!」
駆け寄ってくるフィオナをそっと抱きしめる。
肩がまだ震えているのがわかる。
「悪いな…。今までわかってやれなくて…。」
頭を撫でながら言う。
「わかってくれたから…。もう…っ大丈…夫…。」
「オレの前じゃ強がらなくていいよ、フィオナ。」
強がっているが声も肩も震えているフィオナにそう声をかけた。
「うぅ…うわああああん…!えぐっ…うっ…ひぐっ…。」
「よしよし…。」
相当我慢していたようだ。
泣いているフィオナを見てオレは嬉しかった。
こんなにもオレのことを思っていてくれた事が今わかったからだ。
肩の震えを止まらせるように抱きしめた。
「オレもフィオナを怖い目にあわせないよ。」
そう言うとフィオナはコクリと小さく頷いた。
まだ問題は山積みだと言うのに心は何故か晴れ晴れしている。
多分一番大事な事がわかったからだと思う。
「じゃー戻ろうか。」
フィオナが頷き、オレらは手を繋いでギルドの方に歩き出した。