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第1章
第18話 【出会い】
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相変わらずプロンテラは天気が良い。
昨日と変わらず燦々とした太陽が照り付けている。
メインストリートの商人たちには、とても厳しい陽気だろう。
その暑さにも関わらず露店を見に来る客の脚は一向に減らない。
「明日からまた任務か…。」
明日からの任務続きの日々を思うと自然にため息が漏れる。
メインストリートの賑やかな雰囲気の中、オレだけが暗い雰囲気を醸し出しているようだ。
「すいません。」
突然オレへ言うように声が聞こえた。
声の方向を向くと一人のパラディンが立っていた。
パラディンはクルセイダーの上級職にあたり、クルセイダーと同じく、『来るべき聖戦』に備える騎士である。
攻撃よりは防御にとても優れていて、冒険者の間でも前衛を張ることが多い職である。
「ギルドThousand Brave'sのマスターで騎士団の一番隊隊長のラクティブ様ですか?」
「そうですが。この私に何か御用でも?」
騎士団の任務以外でオレに何か?と不思議そうに聞き返す。
「私は、ギルドHoly Crusadeのマスターであり、王城に仕えるパラディンのシンと言う者です。」
どおりで見た事があると思った顔だ。
パラディンのシンと言えば、プロンテラ十字軍でも有名である。
「ああ、あの有名なシンさんでしたか。」
「あなたほどじゃないですよ。「剣帝」の通り名の前じゃ私など霞んでしまいますよ。」
少し世間話などをしていたが、他にも何かあるのだろうと思い、話を聞いてみた。
「それで、私に何か?」
「ええ。あなたも週末の攻城戦は知っていますね?その攻城戦において、不当な輩が居ると。この頃多くのギルドの間では有名になっているギルドがあるのです。」
攻城戦とは、週末に行われるギルド対抗戦で、各都市にある砦を自分のギルドの物にしようと激戦が繰り広げられるである。
ギルドには時間ごとに宝箱が出現し、普通のアイテムから、通常では絶対に手に入らないレアアイテムが入っている。
だからかなりの人気を誇るイベントである。
週末の夜になるとそれは始まり、砦奥にあるエンペリウムといわれる結晶を割ると配下になるのだ。
砦内では戦闘不能になったら、砦外に強制排除されるから、死亡するということはない。
「不当な輩?なにをしでかしているのですか?」
「砦内で古木の枝を使用して、大量にモンスターを配置しているという噂です。古木の枝は本来使用禁止なのですが、実際使えるので、暗黙の了解でしかないのです。それと…。」
シンの表情に影が射す。
「数多くのアサシンを雇っていると…。相手ギルドの女性ばかりを捕虜にして卑劣なことをしているという噂もあります。」
「それは確かに犯罪だな…。それでそれをオレに手伝って欲しいと?」
「はい。是非ラクティブ様のお力をと思い。」
「しかし明日から騎士団の任務があるのです…。力を貸したいのは山々なのですが…。」
仕方ないが、騎士団の任を放り出すわけにはいかない。
「そう…ですか。仕方ありませんね。それではまた何かの機会にでも…。」
残念そうに言うと、シンは人ごみの中に消えて行った。
「それにしても任務が無ければ…。」
攻城戦と言っても、普通の冒険者ばかりなのだ。
冒険者も普通に生活を送る民なのだ。
民を護るのが騎士団の役目。
「暗い顔してどうしたの?」
フィアナが後ろからポンと肩を叩く。
「いや、何でもない。気にするほどじゃないよ。」
先ほどの話は伏せておいた方がいいと思い、何事も無かったかのように振舞った。
「ついでだから一緒に買い物しない?」
「今日が休日最後だしな。よっし。今日はオレがおごっちゃおうかなー!」
暗い気持ちを吹き飛ばすかのように大声を張り上げた。
「じゃー、これ買って?」
「…!?」
フィオナが手に取ったのはティアラと呼ばれる煌びやかな女性物の装飾だった。
「これ…をか…?」
ティアラはとても高いのだ。
今じゃ安くなったとのも声があるが、元々が高いためあまり大差はない。
しかしフィオナにとても似合っているので買ってやった。
「冗談で言ったのにいいの…?」
慌てた口調でオレに問いかける。
どうやら買ってもらえるとは思っていなかったらしい。
「結婚記念ってことにしといてやるよー♪」
笑いながらフィオナに言った。
「こんな人ごみの中で何言ってんの!ラクのバカー…!」
顔を赤らめてバシバシと背中を叩いてくる。
その様子がとてもかわいらしく、こんな日々が続けば。と思いながら、フィオナと過ごす時間はとても楽しかった。
「フィオナ姉ちゃんにラクティヴだ!」
スティルとテレーゼ、クラウの声がした。後ろを振り向くとまじまじとオレらを見つめる3人が並んでいた。
「フィオナさんとても幸せそうで羨ましいです…。」
テレーゼが恨めしそうに言った。慌ててフィオナが言い返す。
「そんなことあるわけないでしょ!バカなことは言わないの!」
「ラクティヴもいいとこあるじゃん。」
スティルが茶化してきた。このマセガキめ…と思いながら手を伸ばす。
「わーわー!嘘だよ嘘!」
スティルが慌てて言い直す。
オレは後ろに向きなおし歩き出した。
「どこいくの?」
「部屋に戻って寝る。」
仕方ないなぁーと言いたげなフィオナ。
「じゃー3人ともまたね♪」
「あんな事いってもばればれだよなー。」
3人は笑い出した。
「このまま部屋についてくる気か?」
「ダメなの?」
「オレの部屋何もないのは知ってるだろ。」
「一緒にいちゃいけない?」
一人で昼寝したかったけど仕方ない。
「うるさくするなよな。」
「わかってますよーだ。」
言われなくても。という様な面持ちで言う。
少ししてギルドに着いて、部屋のベッドにドサッと座り込む。
「明日からまた当分任務?」
「そうだろうな。お前もだろ?」
「大聖堂で事務くらいだろうと思うけどね。」
仕事いやだなー。という雰囲気がものすごい口調に現れているのがわかる。
「あ、孤児院の子供の世話もあったわ。」
思い出したように付け加えた。
「まぁ、会えないわけじゃないしそんな顔するな。」
少し寂しそうなフィオナに言った。
「うん…。ありがと…。」
フィオナの肩を持ち抱き寄せた。
するとフィオナもオレの手をギュウっと握る。
とても暑い日なのに、何故かフィオナの体温がとても暖かくて、オレはそれだけでとても心が和む気がした。