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第1章
第17話 【Weak Point】
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「うっし、始めるけど準備は良いな?」
オレがみんなに問いかける。
ここはギルドの地下修練場。
アビスレイクでの力の無さに痛感したオレらは、模擬戦をすることになった。
手加減は無しの真っ向勝負。
「いつでもいいぞ。」
Bチームのルーシーが言った。
「勝敗は、チームの大将の降伏!Aチーム大将アズサ、Bチーム大将アンジェ!死傷者は出すな!それでは模擬戦開始!!」
戦いの火蓋が切って落とされた。
模擬戦だが。
「神の息吹、ブレッシング!!」
「響け神の鐘、エンジェラス!!」
「主よ、聖なる力を以てして彼を護りたまへ!アスムプティオ!!」
開始の合図と共に、両陣地で次々と支援がかけられていく。
「手加減は無しだ。ツーハンドクイッケン!!コンセントレーション!!はぁぁぁぁっ!!」
そのまま、手を刀身にかざして闘気を流し込む。
コンセントレーションは、集中力を極端に高め、攻撃力と命中率を上昇させ、代わりに防御力が減少する技である。
両手剣騎士は速さが命なわけで、この技は両手剣騎士にはもってこいの技なのである。
「ラクが本気モードだぜ。手抜いたらケガするから気をつけろよ!」
「オレも負けてらんないっすよ。ツーハンドクイッケン!!」
ヨウブはまだコンセントレーション、オーラブレードは使えないのだ。
もうそろそろそのレベルには達する頃だと思われるが。
そんなことを考えているうちに、前方からソウルブレイカーが飛んでくるのが見えた。
「貰った!」
クレナイが放ったソウルブレイカーらしい。
「まだまだ!」
前にバク宙をしてソウルブレイカーを避ける。が、その間合いを詰めてまだ着地しきっていないところにヨウブが迫ってくる。
「うぉおおおお!」
「ちっ!!」
空中に向かってクレイモアが切り払われた。
空中では身動きが取れない。
オレはドラゴンスレイヤーをクレイモアに当てて、着地方向を変えた。
「いい連携だが、まだ詰めが甘いな。」
着地する瞬間に脚を曲げ、地に脚が着いた瞬間に地を思い切り蹴って間合いを一気に詰める。
ヨウブは反応しきれていない。
「ヨウブ!おまえは行動をしたあとに、次への行動が遅いぞ!」
クレイモアに思い切り、ドラゴンスレイヤーを薙ぎ払う。
キイィーーィィイン・・・――!
剣の交じり合う鳴った後ヨウブは後ろに吹っ飛ぶ。
壁に当たるかと思われた。が、反転して脚を壁に当ててそのまま突っ込んできた。
今までのように行動後の余分な動きが徐々に取れてきている。
「まだだああああ!!」
「少し無駄が取れたようだが、まぐれじゃ意味がないぞ!」
真正面からの斬撃をドラゴンスレイヤーを横にして止め、左に流すように刀身を左に落した。
そのまま後ろに回りこみ、一撃を叩き込む。
「主よ、聖なる光をもって彼を護りたまえ。キリエエレイソン!」
イイィーーィィン・・・――。
ヨウブへの攻撃が弾かれた。
ヨウブを薄い光の壁が護り、そして弾けた。
「好きにさせないよ、マスター!」
「アンジェか!」
「行け!ティーズ!」
オレの斬撃で、ヨウブのバリアが消えたところに、高速でファルコンが飛んでいく。
「ぐぁ…!?」
ヨウブが倒れた後ろからリュウが走り抜ける。
「アズサの相手はオレがしてやる!」
手にもつカタールをギラリと光らせ、アズサに突っ込んでいく。
「主よ、この者に癒しを!ヒール!」
ファルコンにやられて吹っ飛んだヨウブに、ヒナがすかさずヒールをかける。
「ヨウブまだ終わってないぞ!」
お構いなしにヨウブに突っ込む。
「終わりにしたつもりは無いッスよ!」
ヨウブが視界から消える。
ヨウブに今まで無かった速さだ。
ヒュン・・・――。
後ろから空を斬る音が聞こえた。
「良くできたな!だが、もっと集中しろ!」
後ろに剣を薙ぎ払い、ヨウブのクレイモアを止めた。と思ったが押し切られているのか、後ろに押されている。
「コンセントレーションか。」
無意識の内にヨウブがコンセントレーションを発動させたらしい。
「まだ甘い!」
少し力を入れてヨウブを押し戻した。
「刀身に手を当てて、一体化した気持ちになれ!そしたらそのまま闘気を流し込め!」
オレはヨウブへの間合いは詰めずに、その場でヨウブに向かって叫んだ。
すると言われたとおりに、手を刀身に押し当てる。
「ああああああ!!」
呼応するかのように、僅かだがクレイモアに光が走る。
「まーそんなところだ。やればできるじゃねーか!」
できたのを確認してから、高速で間合いを詰め、そのまま横に振り払う。
抜けたのを下に下ろしてから上に切り払う。
続けざまに目にもとまらぬ速さで斬撃を繰り出す。
「くっ…!」
ヨウブは抑えるのが精一杯らしい。
その時、横から槍が飛んできた。
遠くの方にペコペコに載ったロイが見える。
両手剣騎士は徒歩が多いが、槍騎士はペコペコに乗る者が多い。
「ヨウブを抑えて、Aチームに調子をのせるわけには行かないんだあああ!」
そのままこっちに向かってくる。
ドラゴンスレイヤーを逆手に持ち変える。
ペコペコを傷つけるわけにもいかないからな。
「そこだ!」
ドゴォ・・・――。
みね打ちと言っても、相手はペコペコで動物。
人間の筋力とは比較にならない脚力の為、みね打ちでもそれなりの力を必要とする。
「何!?」
ペコペコの脚を狙って、みね打ちをした。
ペコペコはバランスを崩し、ロイが地面に落ちる。
「まだだ!」
落ちてなお槍を振ってきた。
不意をつかれたオレはバランスを崩し転んだ。
そこにヨウブが迫る。
「もらったあああああ!」
ヨウブがクレイモアを振り下ろす。が、ドラゴンスレイヤーを目の前に出すことで間一髪とめることができた。
「なかなか・・・やるなお前ら・・・。だけどなー、まだ終わってないぞおおお!」
ヨウブの腹に蹴りを入れて起き上がる。
「主よ、聖なる力を以てして彼を護りたまへ!アスムプティオ!!」
ヨウブに再度アスムプティオがかけられる。
遠方からアンジェが唱えているのが見えた。
「らちが明かないな。そろそろ終わりにするぞ!」
体を研ぎ澄ませる。
少し血が熱くなった。
また少し血が熱くなる。
また少し…。
体が少しずつ赤くなりはじめる。
少し体が重い。
バーサークはやはり負担が大きい。
「これで!」
ヨウブとロイに目に見えぬ速さでみね打ちを浴びせる。
みね打ちと言ってもバーサークをした状態ならばかなりの打撃にはなるだろう。
しばらくは動けない状態になったはずだ。
「アズサ!オレに矢当てんなよ?」
「バカにしないでよね!」
オレが前、アズサを後ろに構えて、クレナイとリュウと交戦している。
「クローキングされたら目に頼るな!五感をフルに使うんだ!おおおおおおお!」
ツーハンドアックスを高々と掲げ、そのまま地面に全力で叩き落す。
「あんにゃろー、相変わらずのバカ力め!」
「慌てるな。接近戦に持ち込めば、振りの大きい斧には、オレたちのカタールのが速い。」
クレナイが少し動揺したところに、リュウが静かに言う。
「おしゃべりの時間じゃないよ!」
二人の間を矢が通り抜ける。そして二人にも矢が放たれる。
「相変わらずの腕だな、アズサ!」
アズサにリュウがさっそうと近づく。
「やらせっかよ!」
ツーハンドアックスを思い切り投げる。
「くっ…!」
よろめくリュウ。しかし斧が無くなったのを見計らってかクレナイがオレに近づいてくる。
「油断したなセネル!」
斧が無いのは痛い。が戦えないわけではない。
クレナイの腕をガシっと掴む。
「油断はそっちだったな。武器がないと戦えないわけじゃないんだよおおおお!」
引いていたカートを思い切りクレナイの横っ腹に振り当てた。
何でも入れてあるセネルのカートはそこらのカートより相当重い。
だから当たるとかなりの衝撃が走る。
「ぐ…っは…!」
クレナイが吹っ飛ぶ。がオレに飛んでくる刃がある。
「そう…、何もできずにやられてたまるかよおおお!」
吹っ飛びながらソウルブレイカーを飛ばしていたらしい。
だが真正面からの攻撃など、隙をつかれなければ食らうはずが無い。
「甘いな…。…!?何!?」
攻撃は避けたはずだが、突然背中に衝撃が走る。
後ろを向くとリュウがそこにいた。
「悪いがこれは団体戦なんでね!」
腕を胸の前で組み、そして切り払うように腕を広げた。
リュウを中心に円状に闘気がトんで行く。
「メテオアサルトか!」
避けきれず直撃を食らった。
「神々たちよ、彼らに癒しを!サンクチュアリ!」
瞬間オレとアズサの下から光が吹き上げる。
「あんま油断すんじゃねーよセネル!」
ソラが叫ぶ。
「聖なる光よ、秘めたる力を我に与え、我の力になりたまへ!ホーリーライト!!」
リュウに十字架の光が飛んでいく。
プリースト等支援職のアンデッド以外への唯一の攻撃魔法のホーリーライトだ。
武器を持たないプリーストたちが持てる、聖なる力である。
「オレを忘れちゃいないだろうな!」
ソラの後ろからクレナイが姿を現す。
「やられた!」
首にカタールを突きつけられた。
「勝負が終わるまでおとなしくしてくれよな。」
残るは、Aチーム:オレとアズサ
Bチーム:ルーシー、アンジェ、ヒナ、バルジ。
「アズサ!後ろから牽制してバルジ以外の動きを制限してくれ!バルジを先にやる!」
「わかったよラクさん!」
頷くアズサ。
とりあえずバルジの魔法をどうにかしないとアンジェを押さえられないだろう。
先にバルジをどうにかしないと。
「荒れ狂う風、乱れる稲妻、支配を解き放て!ロード・オブ・ヴァーミリオン!!」
頭上にロード・オブ・ヴァーミリオンが放たれた。
しかし大魔法は詠唱が長いためやすやすと避けられる。
「一人に大魔法だと…?」
「怒れる稲妻、今我の剣となれ!サンダーボルト!!」
避けた先にサンダーボルトが落ちる。
「なっ…!?」
なるほど、大魔法をわざと避けさせ、その後詠唱が速い魔法を当てるということか。
「いいアイデアだ。だがまだ終わってない!うおおおおおおお!」
光速で間合いを詰め、バルジの杖を取り上げた。
「これで魔法は打てない。バルジ、お前は前に出すぎだ。後衛ということを考えるんだ。」
「タイムタイム!支援3じゃ勝ち目がない。こっちの負けだ。」
ルーシーがオレを制すように言ってきた。
「各自自分の弱点などを掴めたな?今日は勝敗じゃなく、それが見えればいい。見えたやつはそれを補うこと、わからなかったやつは、今ある力をさらに磨くこと。」
「模擬戦の目的はこれだったのか。」
今わかったようにセネルが言う。
「目的もなく、闘うのは意味がないからな。」
ルーシーが後に続けた。
「そういうことだ。明日は今日わかったところを考えるのみ。修練は無しだ。体を休めること。」
「りょーかいしましたー。」
「さて、明日はゆっくり休んで、明後日から任務だな。」
空を見上げてため息を一つ。空はもう暗くなり三日月が輝いていた。