〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第1章
第15話  【暴走】

 頭に声が流れる。
いつも見る夢と同じ主が、ゆっくりと、でも力強く。
その声が大きく、はっきり聞こえてくると共に、体が熱くなる。
《力を貸してやる。》
その声に抗うことができない。
自分が、自分じゃなくなっていく。
━━━━━。

 竜の巣に咆哮と地響きが鳴り響く。
ズンッ…ズンッ…━━。
データルザウルスが唸りを上げて、ハイドラランサーを従えて近づいてくる。
上級モンスターの中でもピンからキリまであるが、データルザウルスは上位の方に食い込むほどの強さである。
数々の強力な魔法、ハイドラランサーを従えていることも強さであるが、むしろ生半可な物理攻撃を通さない竜独特の皮膚が、データルザウルスの強さではないかと思う。
「こんな…、こんなところで朽ちてたまるかああああああ!!」
微動だにしないデータルザウルスに対して、高速のスピードでドラゴンスレイヤーで斬りかかる。が、綺麗な金属音を立てて弾かれる。
「こんなものか?こんなもので我に勝とうと足掻くのか。馬鹿にされたものだな。」
「腕…に、力が…。」
仕方ないと思い、腰にくくりつけてある子袋の中から小さな植物の実を取り出した。
「ん…。」
体の痛みや疲労が抜けていく感じがする。
今食べた実はイグドラシルの実といって、イグドラシルという世界を創ったと言われる伝説の世界樹から取れる実であり、これを服用すると体が万全の状態に戻るのである。
だがそんなのものが手元に何個もあるわけではない。
オレが食べたのはとっておきの1個だった。
「お前一人で何ができると言うのだ。」
「これで勝負を決めてやる!」
ドラゴンスレイヤーをギュっと握る。
さっきよりずっと強い力で握ることができる。
さっきよりもより速く動くことができる。
さすがは世界樹の実と言ったところだ。
「うおおおおおおおおお!!」
後ろに回りこみ、巨大な尻尾に一振り。全力で斬りかかる。
「ぐ…!中々やるな小さき者よ…!」
オレは愕然とした。
データルザウルスはああは言ったが、実際傷つけたのはほんのかすり傷。
とてもこれでは致命傷を与えることはできない。
「もう終わりか?それとも力の差を思い知ったか?」
「黙れ!」
「遅い!我ら竜の怒りを受けてみよ!」
データルザウルスの口から地獄の炎のような息が放出された。
「うあああああああああーーー…!」
熱さと共に壁にぶつけられた衝撃が体を駆け巡る。
「ドラゴンブレスを直撃で食らったのにまだ生きているとはしぶといな。」
「ぐ…っ…鎧の上から食らったはずなのに…!」
直に食らったように熱い。
体の内側から燃やされているようだ。
炎が体内を駆け巡り、イグドラシルの実を食べたばかりなのに、もう体が動かない。
「くそ…みんなを護る…んだ…オレが…っ!」
データルザウルスがオレの方を睨む。
「自分の力を信じすぎるからこうなるのだ。分をわきまえろ小さき者よ。」
淡々と喋り続けるデータルザウルス。
「己のように力の無いものが皆を護るだと?笑わせるな!」
ふぅ。とため息をつくようにして言った。
「さて、小さき者よ。お前たちと遊ぶのも飽きた。そろそろ死ぬがいい。」
「…。」
「もう言い返す力も無くなったか。すぐ楽にしてやる。心配する必要はない。」
データルザウルスの声は聞こえている。が、体が言う事を聞かない。
動かないわけじゃない。
勝手に自分の意思とは関係なく動いている。
「さらばだ。小さき者よ!」
ハイドラランサーの三つ首が大口を開け襲い掛かってきた。
瞬間意識が遠のいていく。
ドクン…。
何だ?
《こん……では…まる…。》
頭の中で声が聞こえる。
そういえばデータルザウルスと戦っていて…。
「オレは死んだのか…?」
声がまた聞こえる。
《力を…か…て…やる…》
心臓の鼓動もそれと呼応するかのように鳴り響く。
「お前は──だ…。お前は──っていない…。」
聞き覚えのない、でもどこか感じたことのある低い声が頭に響く。
心臓の鼓動が大きくなる。
ドクンッ…ドクン…━━。
声が大きくなり、意識が遠のく。
「お前は…力の使い方が──だ。お前はわかっていない…。力の使い方を教えてやろう…。」
世界が反転する。
目の前にはデータルザウルスとハイドラランサーが居るのがわかる。
でも何だ?体が熱い。燃えるようだ。
「なんだ…?体が勝手に動く…?力が湧き出ているのか…?」
《見せてやろう。お前の力を…!》
頭の中でまた声が語りかける。
すると体が勝手に動く。
動くはずがない傷だらけの体が。
意識はある。が、体のコントロールがきかない。勝手に動いてしまう。
「まだ足掻くのか?いい加減目障りだぞ。跡形もなくなれ!」
データルザウルスの口から、ファイアーボールと思われる巨大な火球が吐き出された。
《くそ、死ぬのか!?》
しかし体が勝手に動く。
「何だ…?」
「ラク…。まだやれるのか…?」
ルーシーがまだ意識を保っていた。
《お前は邪魔だ、引っ込んでるがいい。》
頭の中に声が響くと同時に意識が遠のいた。
「やっと眠ったか。」
「何の話だ?絶望と恐怖で頭が狂ったか?」
データルザウルスが勝ち誇るように淡々と喋っている。
「減らず口もそこまでにしとけデータルザウルス。」 別人の様な口調、目つき、そして殺気br /> 「今からキサマが肉片になるのだからな。コイツに手を出したことを後悔して死ぬがいい。」
いつもより強く禍々しい口調で言い続ける。
「まずはそこのデカブツだな。」
高速、いや光速の速さでハイドラランサーに詰め寄る。
ほぼ同時にドラゴンスレイヤーを体の前に突き出す。
瞬間ハイドラランサーの腹に大きな穴が開いた。
断末魔を上げずにそのままハイドラランサーは地面に崩れ落ちた。
「…!?どうしたと言うのだ!?もうボロボロの体で何故そこまで動けるのだ!」
データルザウルスが驚いた口調で言う。
「自分を守るヤツが消えて怯えたか?」
「何をバカな。私だけでも十分キサマを消すことくらいできるわ!」
グオオオオオオオォォォォーーーーン…━━━。
データルザウルスが叫ぶ。ドラゴンフィアー。
これを食らうと通常のヤツなら、データルザウルスの気に当てられて何かしら体に異常が起こるだろう。
恐怖に怯えたり、体がすくんだり。
普通のヤツならな。そんなもの。
そう言った面持ちでラクは喋り続ける。
「コイツになんだかんだ言ってたわりには、お前も自分の力を信じきっていたようだな。」
いつもと口調も、性格も変わっている。まだあいつは喋り続けている。
「どうだ?一方的にやられる気分ってのは?」
「こそこそと動き回りおって!小ざかしいぞ!」
データルザウルスを完全に翻弄している。
ザシュ…ドシュ…━━。
相手の攻撃を避けながら、さらに今までにない力でデータルザウルスの皮膚を斬り刻んでいる。
「調子にのるなよ!小さき者よ!」
空中にジャンプした瞬間を狙って、データルザウルスはドラゴンブレスを吐いた。
あの状態じゃ、直撃する!!
あの体で食らったら、今度こそ体が持たないだろう。
「無駄だ。」
ヒュンッ…━━。
ドラゴンスレイヤーを眼に見えぬ速さで一振り。
ドラゴンブレスはあいつを避けるかのように後方に散っていく。
「キサマ…。ただの人間ではあるまいな…!」
データルザウルスが今までとは一遍して、あいつを敵と認めたように言い放つ。
「なんだ?今頃気付いたのか?このウスノロめ。」
「くそおおおおおおおおおおおお!!」
データルザウルスが恐怖を込めたような叫びを上げた。
「その”恐怖”を覚えているといい。それが今まで相手に与えてきた恐怖そのものだからな!」
戦いを楽しむように、殺すのを楽しむかのように喋り続ける。
「その『殺される側の恐怖』ってヤツを頭の芯に刻み込んだまま死ね!!」
もうデータルザウルスの目には、ラクの姿も剣も見えていなかっただろう。
次に姿が見えたのはデータルザウルスを通り過ぎた後だった。
ラクがデータルザウルスを通り過ぎた瞬間、データルザウルスが細切れになった。
ボトボトと落ちる肉片を見てあいつは呟く
「フン、この程度か。」
「あれがラクか…?」
まるで別人の動きだった。
それに途中から口調も変わったみたいだ。
別人格かと、そんなことを考えているうちにまたもや呟いた。
「さて戻るか。」
ドサッ…━━。
そう言い放つと、ラクの体はグラリと傾き、そして地面に堕ちた。
「ラク…無事なの…?」
フィオナも意識を取り戻したようだ。
倒れた体を引きずりながら、ラクの方へ手を伸ばす。
「死んじゃ…イヤ…目を覚まして…ッお願い!!」
フィオナの必死な叫びが洞窟内に響き渡る。
「まだ…死んじゃいねー…から安心しろ…。」
取り乱すフィオナをなだめる。
「開…け──ポータル…!フィオ…ナみんなをポータルに入れるん…だっ…!」
「わかった…。」
「オレもまだ動ける…ぐっ…。」
セネルもまだ辛うじて動けるようだ。
フィオナとセネル、オレの三人で皆をポータルに入れては、また次、また次。
ただ運ぶだけの作業なのに、体が悲鳴を上げていた。

 やっとの思いで皆をポータルに入れ、そして二人おポータルに入り、アビスレイクを後にした。

 洞窟内は先ほどとは打って変わって静寂に包まれている。
巣の主を無くした竜たちは静かに、それでも強く生きていくのだろうか。
ジジッ…━━。
データルサウルスの死骸が転ぶ中、静かにそれが形を作っていった。
━━━━━。
 

inserted by FC2 system