〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第1章
第11話  【Holiday3〜竜の巣〜】

 窓から優しい光が差し込む。
プロンテラの光より一層眩しく見えるのは、壮大な自然と緑色に輝く木々のせいだろう。
チュンチュン…━━。
鳥のさえずりが聞こえる。
プロンテラの朝も良いが、こういう朝も悪くないと思いながら、ベッドから体を起こす。
「昨夜の夢みたいのは何だったのだろう…。」
夢のような、でも現実的のような記憶…。
とりあえず黒の騎士がオレに関係している事と、ウィザードギルドが何かしている事がわかったから良しとするか。
コンコンッとドアをノックする音が部屋に響く。
「入っていいぞー。」
ドアがそれに合わせてギィーっと開く。
開いた先にはフィオナが立っていた。
「ラクおはょー♪」
「おっす。フィオナは相変わらず朝は早いな。」
フィオナは部屋のソファーに腰をかけた。
「ラクが遅すぎ!観光は早起きって相場が決まってるでしょ!」
そう言ってフィオなはペシペシとオレの頭を叩く。
「まぁ観光って言ったら観光だが…。」
少し口を濁して言った。
そのとき、またもや聞きなれた野次馬の声が部屋に飛び込んできた。
「朝から何やってんだよお二人さんょー。」
「いかがわしいあんなこととか、そんなこととか…♪」
いつもこのタイミングで現れるギルメンに呆れた。
「そんなことどうでもいいから、さっさと朝飯食って出発するぞ!」
だが一発喝を入れてやったら、みんな素直に言うことを聞いた。
 
 朝飯を食べて、宿屋の前にみんなが集まり始めた。
「では、どうもありがとうございました。またよろしくお願いします。」
と、宿屋の主人に軽く会釈をし宿屋を後にした。
「さてっと、ほんじゃ行きますかー?」
ルーシーが言うと
「遠足みたいで楽しみだわー♪」
「久々のラク、フィオナ参戦だからネ♪」
「どんだけ成長したか見せてやろうぜ!」
それぞれ言いたい放題言い放った。全く…。と思ったが、この元気の良さがギルドを明るくしているので、逆にありがたく思う。
街を出発すると、見たこともないような植物や、景色が目の前に広がる。
「すごいなこれは…。」
リュウやヨウブから感嘆の言葉が思わずこぼれ出た。
「さっさと竜を拝みたいとこだけどなー。」
セネルが速く戦いたいという様な顔をしている。仕方ないやつだな。と思ったがオレも実際そう思っているから言わないことにした。
なぜならセネルに作ってもらった、ドラゴンスレイヤーを早く試したいからだ。
「んじゃ速く行きましょー。」
と、アンジェ、ヒナ、フィオナがみんなに速度上昇の魔法をかけた。歩く速度が自然にあがる。
するとやがて眼前には巨大な湖と、その真ん中に浮かぶ竜の口を模した島が浮いてるのが見えてきた。
「あれどうやって入るンでしたっけ?」
アズサが言う。
「忘れたのか?これをここの柱に…。よしっと。」
リュウがなにやらカチャカチャ柱に何かを埋め込んでいる。
そう、アビスレイクに入るためには、竜の鱗、牙、尻尾が必要なのだ。
それを柱に埋め込むと、真ん中の島に飛ぶことができるのである。
アイテムをはめ込んだ瞬間、足元が揺れる。
「んじゃとりあえず島に飛ぼうか。」
ヨウブが言うと、足元がフッと消え、真ん中の島までワープした。
「よ…っと。」
目を開けると、湖の真ん中の島にワープしている。
目の前には竜の口をした入り口がデンと構えている。
結構近くで見ると「さすが上級ダンジョン」と言った威圧感を感じる。
「じゃー入るぞ?気ぃ引き締めろよー。」
「りょーかい。」
フィオナ、アンジェ、ヒナが頷き、皆に支援を回す。
中に入ると、ありえない程の大きさの空洞が広がっている。これが湖に沈んでいるのだからすごいものだ。
まだドラゴンの姿は見えない。
アビスレイクは3層に分かれているダンジョンで、火属性下位のレッドペロス、地属性下位のグリーンペロス。この2種はここのダンジョンの下位ドラゴンに相当するが、すでにブランディッシュスピアを放ってくる強敵である。
そして1Fの真ん中には水場があり、そこにはペノメナがいる。ペノメナは動く磯巾着のようなものだが、とても攻撃範囲が広く、しかも避けにくい強敵である。
さらにエンシェントミミックや、ミミックまで居るという上級ダンジョンである。
しかし、ペノメナやグリーンペロス、2F、3Fに生息する、ゴールドオシドス、ブルーオシドスのカードが相当高いので、レア狙いで来る人も多数いる。
「すっげ、こんなに広いのかアビスレイクってのは。」
「そっかヨウブは来るの初めてか。」
「騎士団の任務もあるし、中々来れないんだよね。」
「オレはたまたま来るときに来れただけさ。隊長だからヨウブより騎士団の任務に縛られてるよ。」
ハハッと笑うような感じでヨウブの残念さを吹き飛ばした。
「お二人さん、敵さんのお出ましだよ。」
オレとヨウブが談笑に浸っている間に、ペロスの群れがオレらに気付いてこちらに来たようだ。
「ひぃ、ふぅ、みぃ…。数えれる数じゃないなこりゃー。」
と面倒くさそうなソラ。
「ほらさっさとみんなに支援回して、アンジェ!フィオナ!」
ヒナが支援魔法を回しながら二人に忙しそうに叫んだ。
「響け神の鐘!エンジェラス!」
ヒナが魔法を唱えた。すると、オレらの頭上に黄金色に輝く大きな鐘が現れ鳴り始めた。
優しい音色を奏でるその鐘は、聴いた者の防御力を上げる効果を持っている。
「主よ、我らに力を!イムポシティオマヌス!!」
続いてアンジェが唱えた。イムポシティオマヌスは、天使の祝福により、一定時間武器の攻撃力を増加させる魔法だ。
これによりいつもより大分ダメージを与えられるが、時間が短いのが難点だ。
「汝、邪を隔絶する力を欲する。出ろ!セイフティーウォール!!」
フィオナが唱えると、ユウリの周りに薄いピンク色の壁のようなものが現れた。
これはバジリカに似たような魔法だが、対象者を包み込み、一定回数攻撃を無効にする魔法である。
こちらからも相手からも攻撃できるが、バジリカより耐久力は無い。セイフティウォールに包まれた直後、ユウリが魔法の詠唱を始めた。
「荒れ狂う風、乱れる稲妻、支配を解き放て!ロード・オブ・ヴァーミリオン!!」
洞窟内が激しく揺れ始めた。ユウリ得意の風属性最上級魔法のロード・オブ・ヴァーミリオンだ。
範囲内の敵に、鋭いカマイタチのような風で切り刻み、大気を操り落雷を発生させ集中的に落す攻撃魔法である。
「ヒュー♪いつ見てもすごい魔法だな。」
セネルが楽しそうに言う。
「オレも女にゃ良い所魅せないとだな〜。」
両手に持つ大振りの斧『ツーハンドアックス』を軽々と片手でくるくると回し、両手に持ち変えて地面に叩き付けた。
「これでもくらいな!ハンマーフォール!!」
地面にものすごい衝撃が走る。相手はこの衝撃で一定時間動けなくなるのだ。
しかし、体力が高いものには効果時間が少ないのだが。
「そんでもってこれだぁぁぁ!!」
セネルは、叩き付けた斧をぐるぐる回し片手で敵に向かって投げた。
ヒュンヒュン…━━。
投げられた斧は円を描くように敵を薙ぎ倒し、またセネルのところに戻ってきた。
トマホーク。彼は通常片手斧でやる技を両手斧でやっているのだ。
いとも簡単に見えるが、セネルの腕力があってこそのトマホークだろう。
ん?なにやら敵の中心の方がやけにスカスカになっている。
「クローキング解除!平伏せ!メテオアサルト!!」
突然敵の中からリュウが姿を見せた。
アサシンの独特の隠密歩法クローキングだ。相手の死角や、視野の死角を利用し見えなくする技術である。
これを使いこなせば相手の懐にもぐりこめるわけだ。
メテオアサルトは自分の闘気を具現化し、ソウルブレイカーと同じ要領で、円形に放つ技術である。
威力はソウルブレイカーには劣るものの、数少ない範囲攻撃である上に中々に強い。
「きゃあああ!」
フィオナの声だ!声の方向に振り向く。
するとペロスの集団に囲まれているのが見える。アンジェ、ヒナも一緒にいる。
「オレが行くまでバジリカとアスムかけとけ!」
頷くが前にフィオナが唱える。
「聖なる光、邪を隔絶する聖なる壁を!我らを護りたまえ。バジリカ!!」
フィィィィィィン!!
音を立て、地面から光の壁が3人を包み込む。
「主よ、聖なる力を以てして我等を護りたまへ!アスムプティオ!!」
3人同時にかけるのはさすがに疲れたようで、フィオナはバジリカの中で座り込んでしまった。
「お疲れさんフィオナ!後はマスターが来るまで私たちに任せな!」
フィオナたちの元へ近づくに連れて敵が増えていく。
「どけぇぇぇぇぇ!」
ボーリングバッシュを放つ。ここで異変に気付く。
下位だろうとドラゴンが一発で沈んだのだ。
オレは手に握るドラゴンスレイヤーを見た。
やってくれるなセネルのやつ。」
フィオナたちが危ないという中、威力の強さに笑ってしまった。
そのままツーハンドクイッケンを使った。
「ギャアアアアス!!」
ペロスが横から尻尾を振り払ってくる。ブランディッシュスピアか!
考えるより先に頭で動いていた。ペロスの背中めがけてジャンプする。
「こんなスピードで!」
両手剣騎士にとって、攻撃速度と回避が命だ。これくらいかわせないと到底生きてはいけないのだ。
「落ちろおおおおおおおおおおお!」
ジャンプ中に飛行船の上で編み出したソニックエッジを3連打した。ペロスは断末魔を上げる前に死に倒れた。
「グアアアアアアアア!!」
一向に減らないペロスの大群に焦る。
するとオレの横を縫って高速で矢が飛び交う。振り向かずともアズサとわかった。
そのまま振り向かずにフィオナたちの元に駆け寄る。アズサならオレを避けて撃ってくれる。
「!?」
目の前のバジリカが今にも消えそうだ。それを見計らってペロスが周りに集まっている。
フィオナを見ると、かなり疲れているようだ。
同時にあれだけの魔法をしたからな。と思ってる余裕はなかった。目にみえる速度でバジリカが消えていく。
「やらせるかああああ!!」
ザシュ……スバッ…ドスッ…━━。
斬っても斬っても前に進まない。前よりペロスが増えているのか。
「落ちろおおおおお!!ブランディッシュスピア!!」
ロイが横からブランディッシュスピアを入れてくれた。
一撃では落ちないものの、その足をぐにゃりと曲がらせ、地に平伏すペロスたちが見える。
「早くフィオナたちの所へ!」
「さんきゅー!」
「主よ、聖なる力を以てして彼を護りたまへ!アスムプティオ!!」
オレの周りを光が包み込む。
「ラク!そのまま突っ込んでこい!」
ルーシーがアスムをかけてくれたらしい。安心して行ってこいという意味だろう。
「わりーが死んでもらうぜ!」
ペロスがこちらに向かってくる。
群れとぶつかる一瞬、手前で低く跳ぶ。浮いている間に剣を切り払う。 ヒュン!
ペロスの間を風を切る音が流れる。ドサドサッと肉片になったペロスが崩れ落ちた。
「ふぅ。少し焦った…。」
少し本気を出してしまった。
ドラゴンスレイヤーでボーリングバッシュを強めに打ったらこのザマだ。
まだドラゴンスレイヤーの力を扱いきれてないらしい。
「大丈夫か?」
3人に問いかける。
だが相当しんどかったようで、返事が返ってこない。
「死ぬかと思ったわ…。」
腰が抜けて立てないらしい。まぁ結構ギリギリだったからな。と軽く茶化そうと思ったが、本気で焦ったから言うのはやめておこう。
それにしてもペロスが多いな。もしかして…。
「3Fに行かないとわからないな。」
「こっちも粗方片付け終わったぜ〜!」
セネルとリュウ、ヨウブがこっちに叫びながら手を振っている。
えーっと、ルーシーとソラ、アズサはっと。ざっと周りを見回す。
「いたいた。案外余裕そうだなあいつら。」
ロイ、バルジも確認できた。
 
「休憩してから2Fに入るぞー。」
普通に言ったつもりだったが、口調が少し荒くなっていたのか
「ラク大丈夫?」
フィオナが少し違うのに気付いたらしい。
「前来た時よりペロスが増えてる気がするんだ。こっから先は任務みたいになるが頼む。」
「元々3Fまで行く予定だったし、気にするなって。」
ルーシーが肩をポンポン叩きながら言ってきた。
1Fにはもうペロスも居ないのか、音も無く静まりかえっていた。
 
 

inserted by FC2 system