〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第1章
第3話  【魔物と騎士】

 任務が終わり騎士団に帰ってきたオレは、団長のヘルマン殿に報告をしにいった。
「一番隊隊長ラクティヴ、只今戻りました!」
「ご苦労。してバフォメット復活の方の影響は?」
 団長は重そうな腰を椅子から持ち上げた。
「はっ。モンスターの動きも活発になっており、復活も間近だと思われます。」
「そうか…。」
「今日冒険者たちが深淵の騎士に襲われていましたので、助けたのですが、冒険者たちの間にも注意を促したほうがよいかと。」「
 副団長殿にそう言っておこう。下がってよいぞ。」
「それと…。」
「どうした?」
「グラストヘイムにキメラが復活しておりました。」
「何?まだ復活の時期ではないだろう?」
 少し荒々しい口調で言う。
「そうではありますが実際に殲滅してきました。」
「ふむ…。魔王モロクの復活が近いのか?」
 ヘルマン団長は、考え込むように椅子に腰をかけた。
「キメラの殲滅もご苦労だったな。下がって休みたまえ。」
 そう言われて、オレは部屋を後にした。窓から外を見ると、既に日も落ちて夜になっていた。
 長い廊下を歩いていると、任務等の通達をしてくれる、いわゆるオレの付き人の騎士団員ブルーマーを見つけた。
「ブルーマー、これから任務が入る予定は?」そう聞くと、
「え〜…っと、今のところ何もありませんね。」
「了解、また何かあったら頼むよ。」何も予定がないのなら。と、騎士団を出た。
「フィオナに会いに大聖堂にでも行くかな〜。」
 そんなことをぼやいていたら、メインストリートがやけに騒がしいのに気付いた。
「何だ?夜だからといって騒がしすぎるな。」
 駆け足にメインストリートの方へ向かった。メインストリートとは、首都プロンテラの中でも最も賑やかな場所であり、商人の露店がところせましに並んでいる。だいたいの日用雑貨から、レアな掘り出し物まで揃っている。メインストリートから人の波が押し寄せてくる。
「どうしたんだ?」と、人を捕まえてたずねてみた。
「誰かが古木の枝を大量に使ったんだ!メインストリートの商人たちは、みんな倒されてるよ…ッ!」
「テロか…!!」
 古木の枝は、長い歳月によって魔力を持った枝で、枝を折ると、モンスターを呼び出すというアイテムである。それを使って良くメインストリートを襲撃する輩がいるのだ。モンスターを斬り伏せながら、騎士団に救援を頼んだ。
「くそッ!数が多い!」
 いつもより数が多く感じる。魔王モロク復活が近いから、周辺のモンスターも紛れてきたのか…?そんな考え事をしていたら、モンスターに背後を取られた。後ろに剣をなぎ払う。背後は倒した。しかし、気付いたら囲まれていた。
「油断したかッ…!」瞬間、体中を光が覆う。
「主よ、聖なる力を以てして彼を護りたまへ!アスムプティオ!!」
 辺りを見回すとフィオナの姿があった。アスムプティオはハイプリーストのみが使える最強防御魔法だ。光に包まれた者に対するダメージが半減するという代物である。
「フィオナ!」
「一人で無茶するんじゃないの!」続けざまにフィオナが魔法を唱える。
「神の息吹!ブレッシング!」すると、体の筋力、速力、反射、限界反応、枷が外れたかのように軽くなる。
「サンキュー、フィオナ!消し飛べ!ボーリングバッシュ!」
 ボーリングバッシュとは、神速の斬撃で自分の周囲の敵を切り刻む、ナイトまたは、ロードナイトの剣術である。
ボーリングバッシュに加え、フィオナの支援のおかげか、大分モンスターが減ってきた。
ちょうど周囲を囲むように、騎士団の増援も到着した。ほどなくして、テロが収まった。
同時に、大聖堂のプリースト達も到着したようだ。
倒れている者、ケガがひどい者などに魔法をかけて応急手当をして、大聖堂の治療院に連れて行く。
プリーストは主に支援をする補助職である。戦闘中には回復など色々役立ってくれたり、冒険者達が無事帰還できるかも、プリーストの腕次第なのだ。
「どうだ、フィオナ?」
「死傷者は出ていないから大丈夫。」
「ラクティヴ!フィオナ姉ちゃん!」
 後ろから子供の声が聞こえてきた。振り返ると、見慣れた商人とアコライト、それにソードマンが居た。
「おまえら大丈夫だったか?」
「ケガはない?」
 オレとフィオナは、子供たちに駆け寄った。左から順に、商人のスティル、アコライトのテレーゼ、剣士のクラウ。皆プロンテラの子供たちだ。
「怖い人が居て、すぐ逃げたから大丈夫だったよ!」
「怖い人?」
 フィオナが言い返す。テレーゼが言った。
「うん!雰囲気が暗くて、黒くて重そうな鎧つけた人!」
 オレはその言葉にひっかかった。
「そいつはどこに行った!?」
 テレーゼを揺さぶりながら聞いた。
「ちょっとラク!やめなさいよ!テレーゼが驚いてるでしょ!?」
 フィオナに静止されて、気持ちを抑えた。表向きだが。何で夢の中のヤツがここに居たんだ!?夢じゃないのか?記憶…?それとも別の何かか…?焦る気持ちを抑えられずには居られなかった。しかし、子供たちが怯えていたため、これ以上の詮索は無理だと思い諦めた。だが焦る気持ちは抑えられない。
「しかし何で…。」
 オレの思いも虚しく、時間はただ過ぎていった。長い夜もだんだんと更けていった。
 
 

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