〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第1章
第2話  【任務開始〜荒城グラストヘイム〜】

 今回のモンスター討伐は、ゲフェン北西のグラストヘイムだ。
グラストヘイムは、多数のダンジョンがあり、冒険者の間でも人気がある狩場になっている。
とても薄暗く、異様な雰囲気をかもしだしているのも、冒険の醍醐味と言ったところで、これも人気の理由の一つだろう。
━━━━━。

「今回の任務は、バフォメット復活が近くなっている。ゆえに、復活に際して活発になっているモンスターの討伐だ。」
バフォメットとは、ルーンミッドガルド王国壊滅を企む上級モンスターだ。
強大な魔力と、相手を青ざめさせる様な巨大鎌を持つ、羊の魔獣。これが近頃復活するのだ。
「各自離れすぎない様に、距離を保ちつつ殲滅に当たれ!」
グラストヘイムは広大であるゆえに、離れ離れになると囲まれてしまうことがある。
そうなったら、相当な者でないと生存することはできないのだ。
「はぁッ!」
 ザシュっと音を立てて、鎧が離れ離れになり、その場に崩れ落ちる。鎧そのものが怨霊になって動いている、魔物レイドリックだ。
「楽勝、楽勝♪」
 騎士団員が言った。
「気を抜くなよ。戦闘中では常に周囲に気を配れ。五感で相手の気配を感じろ。」
 オレが言う。戦場では、気を抜いた奴から倒される。常識のようだが、実際いるから仕方ない。空を切る音が聞こえる。
「後ろか!」
 右に半歩飛び、後ろを向く。レイドリックが剣を振り下ろしていたところだ。騎士団員との会話で気を抜いてしまったらしい。
「そんな太刀筋でぇ!」
虚空を斬る様にレイドリックの剣を切り払う。レイドリックの剣が真っ二つに折れ、空中に舞う。
ヒュンヒュンヒュン━━━。
「遅い!」
 すかさず横に抜けた剣を斜めに振り払う。
「オオオオン!」
 鎧ごと斜めに切り払われたレイドリックが怨念の様な声を上げその場に崩れた。
「うわぁぁ!」
 前方から悲鳴が聞こえてきた。騎士団員ではない。
目を凝らすと、冒険者の集団が深淵の騎士に囲まれているのが見える。
深淵の騎士は、一般モンスターの中では最上級に位置している、黒い馬に跨がる漆黒の騎士だ。
奴が放つブランディッシュスピアを食らえば、中級冒険者はひとたまりもない。
ここからじゃ、間に合うかわからない。
ひたすらレイドリックを薙ぎ倒しながら、集団目掛けて走り続ける。
深淵の騎士が真っ黒い槍を振り上げる。
「くそ!間に合わないッ!」
そう叫んだ瞬間、突然冒険者の集団の周りに、光の壁が現われた。
「聖なる光、邪を隔絶する聖なる壁を!彼等を護りたまえ。バジリカ!!」
バジリカ。それはプリーストの上級職、ハイプリーストが使う一種の防御壁だ。
中からも何もできなが、外からも如何なる攻撃を以てしても手が出せなくなるとい魔法だ。
冒険者の周りを、深淵の騎士から守るように、光の壁が包みこんだ。
「今がチャンスです!」
 突然の出来事に驚いたが、その声で、我に帰った。
「風の如く!ツーハンドクイッケン!」
 ツーハンドクイッケン、両手剣騎士の基本の技で、体の限界を高めて、両手剣の攻撃速度を上げるという技である。
これがあるから、両手剣騎士は攻撃面だけで言えば、最強の部類を誇れるのだ。
 オレは、深淵の騎士の背後に回りこみ、馬の足を斬り倒し、馬から落ちた深淵の騎士の首を刎ねる。
残酷だが仕方ない。こうでもしないと、やられるのはこっちなのだから。
1匹を倒すと同時に、後ろから騎士団の増援が到着した。
深淵の騎士は冒険者の間では強い部類だが、オレら一番隊は、騎士団一の武闘派集団だから、さほど苦労もしない。
それでもブランディッシュスピアには気をつけねばなるまい。
間もなく深淵の騎士を全部倒した。すると冒険者を護っていた光の壁も消え、中からは無傷なままの冒険者達が出てきた。
冒険者達は、オレ達に礼を言おうとしたのか、近寄ってきたが部下たちに任せることにした。
バジリカを出したハイプリーストに礼を言わなければならないからだ。近寄ってみると…。
「ラクティヴ…?ラクじゃない!」
良く見ると、知り合いのフィオナだった。
彼女は以前任務などでよく一緒に行動していた仲間だ。
「フィオナ…か?」
突然の再会に驚いたが、それより嬉しさの方が勝っていた。
なぜなら、フィオナはオレにとって”好きな子”の様な存在であり、好意を寄せていたからだ。
年上だが、どこか年下の感じがするのも彼女の魅力の一つであり、オレが好意を寄せる理由でもある。
「色々話もしたいところだが、任務があるからまた今度な!」
「わかったわ。じゃープロンテラで会いましょ♪」
 そう言うと、フィオナはワープポータルを使い、プロンテラに戻った。
 少し残念だが仕方ない。オレは隊長という立場であり、任務中なのだから。
 ほどなくしてだいたいのモンスターの殲滅が終わった。
「よし、騎士団に帰還するぞ!」
 その瞬間、他のモンスターとは比べ物にならない殺気を感じた。
「ウオオオオオオオオオオン!!」
 グラストヘイムの霧がかった景色から雄叫びが聞こえてきた。
ズン、ズン、近づいてくる足音。霧の中から脚と思われるものが見えた。ライオンの様な脚。
「こいつはまさか…!」
 霧の中からようやく全貌が現れた。
ライオンの巨躯に、5本の首を持つ蛇の尻尾。こいつはキメラだ。上級モンスターではないが危険モンスターに指定されている。
「こいつが何で今いるんだ!」
 そう、キメラも上級モンスターではないのだが、短時間だが復活を要する強さと魔力を持ち合わせているのだ。
「フィアンム!兵を後ろに下がらせろ!」
「はっ!了解しました!」
 こいつは深淵の騎士とは別格だ。だから無闇に死人を出さないために兵を後ろに下げておく必要があった。
「どうする…。オレ一人でも勝てるが確率は5割程度…。」
「全ての大気よ、氷となり吹雪となり、全てを凍らせてしまえ!ストームガスト!!」
 突然キメラの周辺の大気中にある水分が凍り始めた。
それどころかキメラの周りに凍てつくような吹雪が舞い始めた。
後ろを振り向くとそこには、先ほど助けた冒険者たちが居た。
ナイトたちが周りのレイドリックを倒しながら、その後ろに身を隠してウィザードが呪文を唱えていた。
「ナイト様今です!」
「今一度!」
 静かにツーハンドクイッケンを唱えた。音速を超える速さでキメラの背後を取った。
「遅いんだよ!」
 目に見えぬ速さで剣を真下に振り下ろす。
「ガアアアアアアアアアッ!!」
 蛇の尻尾が切れた。が、蛇の頭はまだ動いている。死んだものと思ったオレは油断をしていた。
「なに!?」
 蛇が目潰しのためか霧状の何かを吐いた。視界が暗くなる。
「目潰しか!くそ!」
「…」
 徐々に目が慣れていき、視界が元に戻る。
しかし辺りを見回してもキメラが見当たらない。先ほどの霧を吐いて死んだのか、力尽きた蛇の尻尾があるだけだった。
「ナイト様上です!」
 冒険者のナイトが言った。間に合わない!そう思った。
「やらせるか!」
 キメラが吹っ飛んだ。何かがキメラに突っ込んでいくのが見えた。
吹っ飛んだ先にキメラ以外に騎士団員がいた。フィアンムだ。多分兵を引かせた後に駆けつけてくれたのだろう。キメラは今よろめいている。チャンスは今しかない。
「フィアンムこっちきてしゃがめ!肩借りるぞ!」
 フィアンムが頷いた。キメラがそろそろ立ち上がる。急がないとまた攻撃がくる!フィアンムの肩を借りて、思い切りジャンプをした。
キメラはフィアンムに気を取られてこちらに気付いていない。フィアンムは懸命にキメラの攻撃を避けている。
「ウオオオオオオオオオオッ!!これで終わりだ!!」
 空中から落ちる祭に、クレイモアに闘気を送り込む。
オーラブレード。武器に闘気を送り込み、武器の強度等、威力を上げる技だ。ロードナイトだけができる高等剣術である。
「グオオオオオオン!!」
 首を切り落としたが、巨躯がまだ動いている。
しぶといな。巨躯についている強大な腕を振りかざし攻撃してきた。
「く…っ!」
 剣を爪と爪の間に挟んで、勢いよく地面になぎ払った。
が、爪を剣で流したつもりだったが、その強大な腕から繰り出される力によって、流す直前、受け止めた時に全身にシビれが走った。さすがは上級モンスターの部類に入るだけはある。
「オオオオオオオ!!」
 すかさずキメラはもう片方の腕を振り下ろしてきた。オレはやっとの思いで半歩分後ろに飛んだ。
「全てを燃やし尽くせ、劫火灰燼!ファイアーウォール!!」
 瞬間、キメラの周りに灼熱の炎の壁が立ち上ると、キメラの巨躯ごと炎に包まれた。
先ほどのウィザードらしい。しかしここにくるだけあって、それなりの魔法を覚えている。ストームガストは水属性の上級魔法なのだ。
「世話になったな。礼を言う。」
「こちらこそ、騎士団の援護があったから生き残れたし、私たちも援護ができたのですよ。」
「じゃー気をつけて帰れよ。」
 冒険者の集団がこちらに手を振って帰って行くのを見届けてから、部隊を再度召集した。
誰一人なく欠けていなかったので安心した。と言いたい所だが、キメラが出てくるとは。
モンスターの殲滅という任務は果たし、どこかピリピリした雰囲気が残っているのにオレは危険を感じたが、キメラも殲滅した。
故に報告だけにしておこうと思い、グラストヘイムを後にした。
一抹の不安を残して…。
 
 

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