〜Cross each other Destiny〜

交錯する運命

第1章
プロローグ  【運命は動き出す】

 暗い世界の奥から、見覚えのない一人の人間がこちらに向って話をしている。
重厚な鎧を身に纏っている…、どこか偉い騎士のようだ。記憶を探るが思い出せない。
だが、覚えている様な感覚があるのだ。
血が繋がっているというか、そんな感覚…。
━━━━━。
 急に光が世界を照らし出す。
目を開けると、少し高い天井、見慣れた机、窓からこぼれる光。ここはプロンテラ騎士団の一室。
「またあの夢か…」
 どうやら仕事を終わらせてそのまま寝てしまったらしい。
ドンドン……ッ!
ドアを叩く音が部屋に響く。
ドアを開けると、騎士団員の男が立っていた。
「一番隊隊長ラクティヴ様、プロンテラ周辺のモンスター討伐命令が副団長より下されました。」
「またか。」
 と、思わず口に出てしまった。
「一番隊を隊舎に召集させておいてくれ。」
「了解しました。」
 男は足早に、部屋を後にした。
 
 オレは、ここルーンミッドガルト王国首都プロンテラのプロンテラ騎士団の一番隊隊長をやっているロードナイトだ。
ロードナイトは、誇り高き王国を護るナイトの上級騎士である。
母親は最近老衰で亡くなっている。
父親は、この騎士団の英雄だとされているが、オレが幼い頃に、栄光を成し遂げたと同時に戦死したと聞かされているだけで、顔も何も覚えてはいない。
 オレは両手剣を得意とするロードナイトだが、冒険者を見ても、騎士団内部を見ても、槍を持ったナイト・ロードナイトが多い。
それは両手剣を使う騎士は、攻撃特化のため、防御が疎かになるからだ。
それゆえ、騎士団内部でも冒険者間の集団の場合にも、防御面にも特化した槍騎士が人気あるというわけである。
 
 何故オレが人気のない両手剣の騎士をやっているかというと。
子供時代にプロンテラを出て、森林都市フェイヨンの方へ遊びに行っていた時のことだ。
突然茂みの中から、モンスター・ウィローが出てきた。木が長年かけて魔物化したものだ。
何もできないまま殺されてしまいそうなちょうどそのときに両手大剣を持った騎士が助けてくれたのだ。
 その勇敢な光景が今でも脳裏に焼きついていて、それ以来父が騎士団の英雄ということもあって、両手剣騎士になると決めていたのだ。
しかし、夢に出てきた騎士と、子供時代に助けてくれた騎士が似ている気もしないでもないが…。まぁ、夢だしいいか…。
 
 話を戻すが、騎士団の任務は主に、ルーンミッドガルド王国の守備と、治安維持だ。
しかし、ときたまモンスター討伐の命令も下される事がある。
だがそれらのモンスターは、強力な魔力を持つ、上級モンスターのことである。
上級モンスターは、倒しても時間をかけて魔力を蓄えては、何度も復活するのだ。
最近この上級モンスターではなく、それ以外のモンスターが活発になっているという事らしい。
だからとりわけ、最近ではモンスター討伐が主な任務になっている。
「魔王モロクの復活が近いのか?」ふと思った。
 魔王モロクとは、遥か昔に魔剣士タナトスによって倒され、砂漠の街モロクの中央に位置する、モロク城に封印された魔界の王の事だ。
モロクの街の名前も、これに由来している。
その魔王モロクは、封印が弱まる時、1000年の時を超えて復活するというのだ。
それの魔力に当てられて、モンスターが活発になっているというのが、王国諜報部の教授達の推測らしい。
王国諜報部というのは、ルーンミッドガルド王国内から、厳しい審査等から厳選されたプロフェッサーの集団である。
 そんなことより、問題は魔王モロクが復活する際に、異次元への扉が開かれるという事だ。
魔王モロクをまた封印することができても、扉が開かれたままだと、モンスターがこちらの世界に流れ込んで、世界が破滅するからだ。
しかし伝説によると、時を同じくして、『宿命の子』が現われる。
この『宿命の子』は、成人前後の歳になると、額に紋章が浮き出るらしく、この『宿命の子』を生贄に捧げれば扉を閉じる事ができるという。
たとえ自分の大切な人であろうと生贄に捧げなければならない。
しかし封印では、歴史は繰り返すだけだ。魔王モロクを完全に倒さなければ、平和は訪れないだろう…。
 出発まで多少の時間がある。
「少し体を動かしておくか。」
 部屋の隅に置いてある大剣クレイモアを持ち、騎士団内部にある修練場へと向かった。
━━━━━。

「ハァッ!」
 剣を真横に振り払う。後ろにもう一人気配を感じる。相手の気配は五感で感じろ!
「うわぁ!」
 稽古の相手をしてくれている騎士団員の剣が宙に舞い、ガシャンと金属音をたて地面に落ちた。
「まだだ!」
 後ろからもう一人の騎士団員の剣が振り下ろされる。
「これくらいで!」
 一人目の剣を振り払った遠心力でそのまま体を反転させ剣を受け止めた。が、そのまま剣を斜めに傾けて団員の剣を流した。団員の剣は空を斬り、そのまま地面に刺さった。
「まだ終わらせません!」
「まだ終わるには速いぞ!」
 剣を抜いて、振り上げるまでの間に、足で相手の足を払った。団員はそのまま地面に転び、オレは剣を首の横に差し出した。
 「さすが一番隊隊長殿です。私たちなんかじゃ稽古にもなりませんね。」
「ほんとですよー。どうしたらそんな強くなれるんですかね〜。」
 団員が、もう無理です。という様な面持ちで言ってきた。
「そんなことはないさ。お前たちも素質はある。頑張れば隊長格にもなれるさ。」
「朝早くから修練とは、さすが一番隊隊長だな。」
 突然の声に後ろを振り向くと、騎士団長ヘルマン殿がいた。
「いえ、これくらいしないと、民を護ることはできませんから。」
「騎士の誇りに思うよ。だが時には体を休めることも大事だということも忘れるなよ。」
「はっ、肝に銘じておきます!」
 団長からの褒め言葉に、少し疲れが和らいだ感じがした。
「ラクティヴ隊長!一番隊出陣準備が整いました!指揮を!」
 少し体を動かしている間に、任務の出陣準備が調ったらしい。
「では行って参ります。」
「気をつけてな。」
 ヘルマン殿と稽古に付き合ってもらった団員に軽く会釈をし、その場を後にした。
 
「昔は、戦いが嫌いで仕方なかったのにな…。」
 人のために働いて護り、人のために死のう。
そう思えるようになったのは、あの子供時代のオレを助けてくれた騎士の影響にほかならないだろう。
「さてっと。」
 深呼吸を置いた。愛用の大剣クレイモアを腰に下げ、気を引き締めた。
 

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